軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

774 勇往邁進の力

隊列の中心にいる女王に引き連れられ、ドワーフたちが荒れ地を行く。

ドワーフたちは走らない。焦らず、着実に、全く同じ速度で進む。

戦意を高揚させるための雄叫びも、恐怖を誤魔化すための咆哮もない。ザッザッザッザッという規則正しい行進の音だけが、荒野に響いていた。

だが、余りにも静かすぎて、そこに戦意があるのかさえ疑問である。これから戦いに臨もうという軍勢の姿には見えない。

それは、抗魔の軍勢とぶつかり合っても変わりはなかった。

「ふん!」

「ふん!」

「ふん!」

発するのは短い気合の声のみ。気迫の籠った豪快な声などは聞こえない。しかし、その戦果は凄まじかった。

一撃一殺。いや、一振りで数体の剣士型を吹き飛ばしながら、一切速度を変えずに戦列を押し上げて行く。

目の前にいる抗魔の軍勢が、幻か何かであるかのようだ。

ドワーフの壁が抗魔の波を完全に押し留め、押し返していく。

本来であれば、前列と後列を入れ替えながら戦うんだろうが、敵が弱すぎるためにその必要がないらしい。

攻撃を食らう姿も見えるが、下級抗魔の攻撃程度ではビクともしないのだろう。

それも当然である。超強化された重戦士のドワーフが、一級品の重装鎧を着込んでいるのだ。

俺やフランであっても、気合を入れなければ弾かれてしまいそうだった。

まるで、雑草の刈り取り作業をする農夫のように、ドワーフたちは黙々と歩き続け、1分ほどで抗魔を駆逐してしまった。

派手さはない。ただ歩きながら武器を振り続けただけだからな。一騎当千の強さを誇っているはずの女王オーファルヴも、先頭に立って同じように地味な作業を続けただけだ。

しかし、見る者が見れば分かる。彼らの異常なほどの強さと練度が。

一糸乱れぬ行進と、ただの一度も歩を止めぬ強靭さ。世界最強クラスと言われるのも当然だった。

後ろから付いて行っていたフランを振り返り、立ち上る魔力の消えたオーファルヴがドヤ顔で口を開く。

「どうだ? フランよ? 我のスキルを見たか?」

「ん。すごい!」

フランがやや興奮した様子で頷くと、オーファルヴがさらに得意げな顔で胸を張った。

「ふははは! そうであろう! 我らドワーフの王に代々受け継がれる、護国の要となるスキルであるからな!」

その後ろではドワーフたちが静かに整列している。怪我をしている者はおろか、息を乱している者さえいない。

彼らにとって4000程度の下級抗魔、疲れるような相手ではなかったのだろう。

「王様に受け継がれる?」

「そうだ。我が国の王宮にある、技巧の神が手ずからお作りになったと言われている神器により、王となった者にこのスキルが継承されるのだよ」

エクストラスキルを代々継承できるってことか? 確かに神器の名前に相応しいだろう。

それに、国を治めるという面でも、非常に有用である。王が必ず英雄になるのだ。カリスマ性という面でも、軍事力という面でも、王の統治を支えてくれるだろう。

「我の持つエクストラスキル『勇往邁進』の効果は単純明快。我が先頭に立って進み続ける限り、我が率いる配下たちの能力を大幅に引き上げ続ける。それのみよ」

「先頭で進み続けなくちゃいけないの?」

「うむ。だが、王が先頭で戦うのは当然のこと。問題ではない」

オーファルヴは事もなげに言うが、かなり難しい条件じゃないか? 少なくとも、人間の王では難しそうだ。

そもそも普通の価値観であれば、王様っていうのは後ろで守られる存在のはずだ。殺されれば負けが決まってしまうのだから。

頑丈で武闘派な、ドワーフの王様に最適なスキルなのかもしれない。

「オーファルヴと一緒に戦えば、私も強化される?」

「お主が我に心からの忠誠を誓えばな」

「忠誠……? 無理」

「ふははは! 分かっておるわ! そもそも、ここにいるのが獣王と獣人たちであったとしても、効果はさほどではなかろうよ」

「そうなの?」

「我が知る限りこのスキルを使いこなせそうなのは、ドワーフ、蟲人、鬼人くらいなものであろう。獣人や魔族、竜人辺りでは我が強すぎる」

言われてみると、そうかもしれない。例えば獣人族だが、上位者に心からの忠誠を誓っているかと言われれば、ちょっと違うのだ。

強いから従う。良い君主だから従う。だが、それは忠誠心とはまた違うだろう。自分にも利があるから、従ってやっている。そんな感じだった。種の習性に近い。

「集団での行動に向いておらん種族では、なかなか難しかろうな」

このスキルを使うには戦闘能力だけではなく、集団としての纏まりも必要だろう。心からの忠誠っていうのは、言葉で言うほど簡単なものではない。

竜人は野心家だというし、魔族は個人主義だ。王に心から忠誠を誓う者は、あまり多くはないのかもしれない。

人間は言うまでもないだろう。先頭に立って戦える王も少なければ、心からの忠誠心なんてものを持ち合わせている者も少なそうなのだ。

「そ、それでだな……」

「?」

「あの酒だが……」

「ん。約束したから、売る」

「おおお! 感謝するぞ!」

フランがエルフの古酒を取り出し、オーファルヴに手渡す。

満面の笑みでその酒を受け取ったオーファルヴは、今にも瓶に頬ずりしそうだ。そこに、女王の威厳は全くなかった。

しかし、見守るドワーフたちの顔に、失望や呆れの色はない。

むしろ、オーファルヴと同じように、嬉し気な顔で酒瓶を見つめていた。

女王が購入した酒なのに、どうして他のドワーフたちが嬉し気なんだ? こう言っちゃなんだが、全員に行き渡る量はないんだが……。

「なんでみんな喜んでる?」

「こういった高価な酒は、活躍した者に下賜されるのだ。1人1杯でも、十数人は飲めるだろう。皆それを狙っておるのだよ」

ドワーフたちが活躍って……。

さっきの戦いを見る限り、ドワーフたちの戦いは集団特化だ。隊形を組み、抗魔を鎧袖一触で蹴散らした。あれでは個人で活躍する場面など巡ってはこないだろう。

つまり、彼らが活躍して目立つためには、このドワーフの隊形が乱され、個別に戦わねばならなくなるような強敵相手でなくてはならないということだ。

それでいいのか?

しかし、ドワーフたちに怖気づいた様子はない。むしろ、そんな強敵の登場を待ち望んでいる気配さえある。

呑兵衛たちの酒に対する執念、甘く見ていたぜ。

「うむうむ。皆の士気もより上がったな。いい買い物をした。礼を言うぞフラン。この度の遠征、いつも以上に楽しいことになりそうだ!」