軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

757 アマンダと子供たち

「あの子たちの名前は、キナンとフラメア。そして子供の名前はフラン」

「!」

『え? えぇ?』

おいおい。フランの両親に似ているとか、フランに重ねてるとか、そんなレベルじゃないじゃないか!

キナンとフラメア。その名前に聞き覚えがある。フランが以前語ってくれた、両親の名前だ。正直、古傷を抉るのが怖くて、あまり深くは聞けていなかったのだが……。

『そ、それって……!』

「そうよ。2人はフランちゃんの両親。つまり、彼らは私の孤児院で育った」

アマンダは語る。

キナンとフラメアの幼き日の話を。そして、やんちゃ坊主たちはアマンダの手の内から飛び出し、苦難に満ちた旅を経て、再び彼女の前に姿を現した。その手に、生まれたばかりの赤子を抱いて。

「あの子たちがフランちゃんを見せるために戻ってきてくれたときは、自分のことのように嬉しかったわ。それからは、手紙のやり取りをしていたのよ? 年に1度とかだけどね?」

キナンたちは旅をしているため、アマンダから手紙を送ることはできなかった。そのため、常にキナンたちからの手紙を待つことしかできなかったらしい。

「それでも、ある村に腰を落ち着けたという話を聞いた時は、心底ホッとした。複雑でもあったけど」

「複雑? なんで?」

「危険な場所だったのよ。何か事情があったのでしょうけど……」

本当は、フランの両親に冒険者を辞めて、戻ってきてほしかったのだろう。言葉の端々に、そんな思いが見て取れる。

しかし、彼らの意見を尊重し、アマンダは連れ戻そうとはしなかった。

「今でも、無理やり連れ戻すべきだったのかどうか、悩むことがある……。もし、連れ戻していれば、あの子たちは死ななかったかもしれない」

軽く俯いて呟くアマンダの目が、赤い。

「フランちゃんと出会った時は分からなかったけど、少し話せばすぐに分かったわ。フランちゃんが、あの時の赤子なんだと」

「なんで……教えてくれなかった?」

「ごめんなさい。怖かったのよ。あの子たちの子供に、お前のせいでって言われるのが……」

自責の念が、そう思わせるのかもしれない。それに、フランのことを知っていればそんなことはないと笑い飛ばせるが、知らなければ不安になるのも仕方がなかった。

「そんなことない!」

「フランちゃん……」

「お父さんも、お母さんも、自分の力で生きて、死んだ。冒険者らしく。だから、アマンダのせいじゃない」

冒険者は自己責任だ。全ての結末が、自身の行いの結果である。それは、厳しくもあり、優しくもある在り方だ。

誇り無き者にとっては、地獄だろう。しかし、誇りを持つ者にとっては、誰にも縛られることのない自由な生き方だ。

死を嘆くことはいい。だが、その死を自分の責任だというのは、冒険者にとっては侮辱でもある。

フランの言葉は、アマンダを慰めつつ、否定してもいた。

それを理解したのだろう。アマンダは軽く目を擦り、フランに頭を下げた。

「ごめんなさい……。そうよね。あの子たちは一人前の冒険者として、立派に生きた。自分たちの力で」

「ん」

「フランちゃんを見れば、あの子たちが立派な冒険者だったって、分かるものね」

「私?」

「ええ。そうよ。小っちゃくても、ちゃんとした冒険者。それは出会った時に分かった。だから、私は保護者面をしようとは思わなかったの」

フランの父親たちの育ての親。考えてみれば、保護者としての権利はあるかもしれない。

名乗り出て、フランを保護することも考えたはずだ。

しかし、アマンダはそうしなかった。

「だから……、だから、私は壁になることにした。保護者じゃなくて、先達として。導くなんて、偉そうな真似をしたいんじゃない。でも、私なりに、フランちゃんを守りたかった」

保護者じゃなくて、先輩冒険者として、時には依頼に同行し、時には敵として立ちはだかり、フランに教えを残そうとしてくれたのだろう。

フランがどこかで命を落とせば、アマンダは一生後悔するはずだ。しかし、それでもアマンダは、フランを無理やり指導しようなどとはしなかった。

フランを一人前だと認めてくれたからだ。

「アマンダ……。ありがとう」

「私こそ、ありがとう。生きていてくれて」

「……ん」

アマンダにそっと抱きすくめられたフランの目には、薄っすらと光る物があった。母親とも祖母とも違うが、家族に抱きしめられているのに近い感覚があるんだろう。

「……お父さんも、お母さんも、黒猫族だって進化できるはずだって言ってた……」

「そう」

「奴隷になって、名前も無くなって、お父さんとお母さんの顔もうっすらとしか思い出せなくなって……。だから、私、進化したかった。そうしないと、お父さんたちのこと、忘れちゃいそうだったから」

『フラン……』

フランはずっと、両親の遺志を継いでと言っていた。俺も、そこはあまり深くは突っ込まなかった。

こちらの世界の獣人にとって進化は重要で、フランが目指すことにも違和感がなかったから。

だが、それだけではなかったのだ。

進化とは、フランに残された両親との絆だった。進化を目指している間は、父母のことを忘れずに済む。そんな想いもあったのだ。

『すまん……。俺は、全然そんなこと、知ろうともしないで……!』

「ちがう! 師匠は悪くない! 私も、今わかったから……。自分が、進化したかった本当の理由……」

『だが……』

「いいの。それに、私が進化できたのは師匠のおかげ。お父さんも、お母さんも、喜んでくれる」

『……そう、かな?』

「ぜったい」

『そうか……。そうかもな』

「ん」

フランは謝罪なんか求めてない。だったら、これ以上謝っちゃいけない。

「……師匠、私からもお礼を言わせて。あなたのおかげで、フランちゃんは笑ってくれている。キナンとフラメアも、きっと笑っているわ」

『……だといいが』

「ぜったいそう。ほんとは師匠のこと、お父さんとお母さんに紹介したい。でも、お墓もないから……」

「いえ、お墓ならあるわ」

「え?」

「2人の遺体は見つからなかった。でも、2人の遺品を収めた、小さいお墓を私が作ったわ」

「知らなかった」

「本当はもっと早く教えようかとも思ったのだけど、この話をする勇気がなかった。ごめんなさい」

「ううん。それよりも、お墓の場所を教えて」

「ええ。いいわよ。村の名前は、カステル。場所は……」

アマンダが一枚の地図を取り出した。円形に近い、島のような物の地図だ。その1点を指差す。

確かに、カステルと書かれていた。

『ここは、どこなんだ?』

「この地図は、ゴルディシア大陸の地図よ」

『なに? じゃあ、カステルがあるのは……』

「そう。フランちゃんの両親は、ゴルディシア大陸の内部に作られた、特殊な村で暮らしていた。お墓も、そこにあるわ」

「カステル……。聞いたことがある……かも?」

奴隷になった影響なのか、幼かったからなのか。自分の住んでいた場所の記憶がハッキリとしないらしい。

「ゴルディシアは危険な場所よ。でも、今のフランちゃんならきっと大丈夫。私と互角の、上級冒険者ですもの」

「ん!」