軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

746 人質解放?

糸を伸ばして闘技場を偵察してみると、仮面を被った男がデミトリスたちを脅しているところであった。

仮面の効果で人間に見えているが、鑑定をするとアンデッドであると分かる。

その身に纏う魔力は、かなり強力だ。

最低でも脅威度C。いや、魔力を隠蔽する技術と、人間に偽装して町に入り込んで陰謀を企むだけの知恵があるなら、脅威度Bでもおかしくはないかもしれない。

能力的には魔術特化型だな。死毒魔術、暗黒魔術、補助魔術などを高レベルで所持している。近接能力はそれほどでもないが、遠距離なら相当強いだろう。ユニークスキルはないが、スキルの数は多く、レベルも高い。

ケイトリーを巻き込まないようにあいつを倒せるかと言われたら、かなり難しそうだ。

アシッドマンというネームドアンデッドは、ケイトリーの体を闇魔術で拘束し、勝ち誇ったように笑っている。後ろにいるのは、ニルフェの護衛だった男か? アンデッドになってしまっている。

それに、アシッドマンとケイトリーの間に、嫌な感じの魔力の繋がりが感じられた。なるほど、あれが呪詛って奴か。アシッドマンが倒れたら、本当にケイトリーたちの命は失われるだろう。それだけ、呪詛に込められた魔力は凶悪だった。

おお! デミトリスがなんか偉そうなオッサンを殴り飛ばしたぞ。

「師匠、どう?」

『結構ヤバい感じだ。このままだと、デミトリスが自分の意思で奴隷の首輪を嵌めちまうかもしれない』

「……どうする?」

『最悪、念動とかで邪魔をするか……?』

デミトリスがレイドスの奴隷になったら、一気に国の勢力図が変わってしまいかねない。

多分、孫が死ぬよりは、自分が奴隷になるほうがマシだと考えたのだろう。死ななければ、解放される目は残るしな。

「でも、ケイトリーとニルフェの無事が一番」

『だよなぁ』

無茶をして彼女たちを危険にさらすわけにはいかない。となると、どうする?

今のままだと呪詛のせいで、手出しができん。ニルフェを取り戻せたとしても、事態は好転しないだろう。

俺や冒険者たちが歯噛みするしかない中、舞台通路から誰かが出てくるのが見えた。

『シビュラだ!』

「……敵の増援?」

『だろうな。これはかなりマズいぞ』

人質を取られているうえにシビュラまで加勢するとなると、勝ち目がないんじゃないか? ここで一番頼りになりそうなデミトリスは動けないし……。

どう動くのがいいのか悩みながら成り行きを見守っていると、アシッドマンがシビュラを促して奴隷の首輪をデミトリスたちに嵌めるように命令をした。

そして、シビュラが動いたのだが――。

『えぇっ!』

「師匠、どうしたの?」

『シ、シビュラがアンデッド野郎を裏切った!』

「!」

なんと、シビュラがアシッドマンを斬ったのだ。ただ攻撃を仕掛けただけではなく、止めまで刺そうとしている。

突然の事態に皆が呆然とする中で、シビュラの剣がアシッドマンの体を真っ二つにした。いくら強くても、シビュラに裏切られて奇襲されてしまえばひとたまりもないのだ。

しかも、ケイトリーは無事である。シビュラの奴、呪詛を食いやがったのだ。悪食とかいうレベルじゃないだろう!

「師匠、行こう」

『お、おお。そうだな』

フランが移動する間にも、事態は進んでいく。

シビュラが現れた通路から、今度はビスコットとクリッカが現れたのだ。しかも、彼らだけではない。1人の少女を伴っていた。

それを見たヒルトが、少女の名前を叫ぶ。

「ニルフェ!」

そう。クリッカに手を引かれていたのは、人質になっているはずのニルフェであった。外傷などはなさそうだ。

しかし、なぜここに? いや、シビュラがアシッドマンを裏切ったことを考えれば、助け出してきたってことか?

でも、なんでだ? 同じレイドス王国の所属同士なのに……。

俺や周囲が混乱する間に、シビュラがケイトリーを助け起こした。これで、人質が2人ともシビュラたちの手に渡ったことになるが……。

ケイトリーの体の汚れをパンパンと掃ってやっているシビュラからは、悪意や害意が感じられなかった。

ヒルトが厳しい目で、ニルフェを確保しているクリッカを睨みつける。

「お前らは……その、仮面の男の仲間ではないの?」

「仲間かどうかと言われたら、仲間ではないねぇ。まあ、同国人ではあるが」

「あなたもレイドス王国人ということかしら?」

「ああ。レイドス王国広域守護部隊、赤剣騎士団団長のシビュラだ」

シビュラがあっさりと自らの所属を明かした。

ただの騎士ではないと思っていたが。騎士団長だったのか! しかも、広域守護部隊とかいう、なかなか厳つい肩書だ。

ヒルトも驚いているな。

「き、騎士団長? それが、どうしてこんな場所にいるのよ?」

「ははは。こっちにも色々とあるのさ」

ようやくシビュラたちが敵であると理解したのだろう。周囲の冒険者や兵士たちが、一斉に身構えるのが分かった。

今はまだ2人の少女が人質に取られているので攻撃はしかけないが、隙あらばここにいる全員がシビュラたちに襲い掛かるだろう。

脅迫者が倒れたと思ったら、新たなレイドス人たちの登場だ。デミトリスも足を止め、成り行きを見守っている。

そんな中に、さらに登場人物が増えた。

「ウルシたち、きた」

観客席への出入り口に辿り着いたフランが、眼下の舞台を見下ろして呟く。

「ニルフェお嬢さん!」

「オン!」

ニルフェを探しに行った2人だったが、道中ですれ違ってようやく追いついたらしい。

「お前ら、お嬢さんたちを離せ!」

「オン!」

いや、シビュラたちにとっては生命線だぞ? そう言われて離すはずが――。

「ああ、いいよ。ほれ、行きな」

「え?」

シビュラに背を押されたケイトリーが、困惑するように彼女の顔を見上げた。

「クリッカ、そっちの嬢ちゃんも返してやれ」

「はい」

戸惑ったように足を止めているケイトリーと違い、ニルフェは一目散にヒルトに向かって駆けた。そして、問題なく彼女の下に辿り着く。

「ヒルトおねえちゃん!」

「ニルフェ!」

それを見ても、ケイトリーは困惑したままだった。シビュラの行動の意味が分からないからだろう。

「なんで、ですか? なんで私を助けて……?」

「あんたには借りがある」