軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

743 救出へ

「カレー師匠! ど、どうして……。お、お亡くなりになられたのでは……!」

ま、まさかコルベルトに出会ってしまうとは! でも、今は誤解を解く間も惜しい。ここは「死んでませんが何か問題が?」って顔で、押し切ることにしよう。

「いや、死んでいないが」

「ええ? で、では――」

「ちょっとコルベルトさん! いきなり変な叫び声上げて、どうしたんですか!」

コルベルトの後から部屋に入ってきたのは、これまた見覚えのある少女だった。

「ジュディスか」

緋の乙女のリーダー、ジュディスだった。思わず名前を呼んでしまうが、相手は少し戸惑った顔だ。

「え? あ、フランさんの師匠の!」

やべ、コルベルトに遭遇したせいでまだちょっとテンパってた。俺はバルボラやウルムットで何度も会ったことがある気になっていたが、剣の状態だった。

向こうからしてみたら、見慣れない変な男でしかないはずだ。一応覚えてくれていたようで助かった。

「ともかく、今は少し急いでいるんだが、外で何があったか聞いてもいいか?」

「あ、はい!」

ジュディスと、立ち直ったコルベルトが簡単に説明してくれる。

どこからともなく現れたアンデッドやチンピラたちが、急に人々を襲い出したらしい。数も少なく、非常に弱いが、それでもかなりの混乱が起きているそうだ。

闘技場の外でも似たようなことが起きているらしい。冒険者や警備兵が対応しているが、結構な被害が出ているという。

俺は、今までの経緯をコルベルトたちにザッと説明した。

「ニルフェお嬢さんを人質にだと! 卑怯な!」

「ひひひ。捕まえる時に少々怪我をさせてしまいましてねぇ。応急処置はしましたが、あの怪我だ。もう死んでいるかもしれませんねぇ」

「てめぇ!」

激昂しかけたコルベルトを、慌てて俺が押さえる。怪我をさせたというのは本当だが、死んでいる云々は嘘だ。少なくともすぐに死ぬような状況で放置されていることはないだろう。

意趣返しなのか、まだ仲間を援護しようとしているのか、コルベルトの判断力を奪うつもりだったようだ。

「人質は生きてなきゃ意味はないんだ。死なすような真似はしない」

「そ、そうですね。すみません」

「ともかく、人質を救出しなくちゃならない。そこで、力を借りたいんだ」

「当然です!」

「ジュディスたちには、この男の連行をお願いしたい」

「わ、わかりました」

部屋の外からはリディアとマイアが、周囲を警戒しながらこちらを見ている。アッバーブの戦闘力を奪っておけば、連行するくらいは任せられるだろう。

アッバーブの意識を刈り取り、武装解除してから全身を紐でグルグル巻きにする。これならどうにもならないはずだ。

「コルベルトはフランと一緒に子供を救出に向かってほしい」

「了解です! ですが、今の口ぶりですとカレー師匠は……?」

「俺にもやらなきゃいけないことがある。ここでお別れだ」

ぶっちゃけ、分体創造の制限時間があるからな。ここで消えておくほうが動きやすい。

「な、なるほど! 他にも陰謀を潰しに行くんですね!」

「あー、まあ、そんな感じだ」

「フランのことはお任せください! 指一本触れさせませんから!」

「た、頼んだ。それじゃあな」

俺は転移を発動させたように見せかけて、分体を消す。

『ふぅ。フラン、コルベルトが一緒でも、無茶はするなよ?』

(わかってる)

フランを乗せたウルシを先頭に、俺たちは医務室を出た。闘技場を出ようと進んでいくと、確かに戦闘の音が聞こえる。

ただ、この辺の騒ぎはもう終息しているようだ。

「こんな時ですが、フランさん優勝おめでとうございます」

走ってる最中の沈黙に耐えかねたのか、リディアが祝いの言葉を口にした。コルベルトは複雑な表情をしているけどな。

しかし、フランは僅かに首を傾げる。

「……わたし、勝った?」

「え?」

「最後、よくおぼえてない」

「お、覚えていないとは……」

「ヒルトを斬った……のはなんとなく分かる。でも、あいまい」

ハッキリとは覚えていなかったか。実はその可能性もあるのではないかと思っていたのだ。最後、意識も怪しかったし。

「そ、それほど極限の試合だったということですか」

リディアは戦慄したような表情で呟く。

そう言えば、リディアは知神の加護を持っているんだよな。俺の知恵の神の加護と、別の神様か? でも、名前は似てるし……。

『アナウンスさん、知恵の神の加護と、知神の加護は、何が違うんだ?』

《神々には、様々な顔があります。例えば獣人の祖と言われる獣蟲の神。彼の神は、獣神であり、蟲神でもあります》

『色々な神様を1人――1柱か? で、こなしてるってことか?』

《是。獣蟲の神として加護を与える場合もあれば、獣神、蟲神として加護を与える場合も有り得ます。より大きな権能を持つ呼称のほうが、上位と考えてよいでしょう》

『獣蟲の神よりも、獣神のほうが格が低いってことか』

《是》

『つまり、知恵の神と、知神は同じ神様だけど、微妙に違う。知恵の神の加護のほうが格上?』

《そう考えて、問題ないかと思われます》

アナウンスさんに加護について教えてもらっていると、コルベルトが足を止めた。

「あれは、ラシッドか?」

「コルベルト、知ってるの?」

「ああ、バルボラじゃそれなりに目立ってる奴らだからな。だが、なんで他の冒険者と戦っているんだ……」

コルベルトの言う通り、闘技場の入り口付近では、ラシッドを含む数人が冒険者相手に激戦を繰り広げていた。

フランは完全に忘れているが、俺たちは出会ったことがある。ナリアたちと一緒に、バルボラの模擬戦でフランに叩きのめされたルーキーの1人である。今回は顔を合わせていないが、ナリアたちと一緒にウルムットに来ていたのだろう。

ラシッド以外にも見覚えがあった。2人ともラシッド同様に、模擬戦の被害者であった。

酒に酔って暴れているわけではない。そうではなく、明らかに正気を失っていた。

「どうみても、アンデッドに……。あいつらまで巻き込まれてやがったのか……」

コルベルトが痛々しいものを見る目で、ラシッドたちを見つめる、そして、戦闘態勢に入った。

「先達として、眠らせてやるのがせめてもの手向けだろうよ。少し待っていてくれ」

「ん」

駆け出したコルベルトが、冒険者たちに加勢に入る。

「アアァァー」

「ラシッド、今楽にしてやる」

「アアア!」

元々それなりに強かったラシッドだ。アンデッド化したことで、肉体面では強化されていると言ってもいいだろう。

しかし、それでもコルベルトには到底及ばない。1分もせずに、ラシッドたちのアンデッドは破壊されたのであった。

その亡骸を前に、黙祷するように軽く瞑目するコルベルト。

「……この騒ぎを起こした奴。絶対にタダじゃおかねぇ……!」

変わり果てた後輩の姿を前に、歯を食いしばっている。

「今はニルフェお嬢さんの救出に向かおう」

「ん」