軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

741 捕まえる

アッバーブが、蛇のような気持ちの悪い目で、フランを見て笑っている。

「ひひひひひ!」

どう見ても好意的な態度ではなかった。その様子に、不穏当なものを感じたのだろう。老人がアッバーブに尋ねる。

「そ、外に警備の兵士たちがいたはずなのですが」

「ああ。アレですか? くくく、職務怠慢ではないですかねぇ? あまりにも無防備だったので、ついつい殺してしまいましたよ!」

「え?」

次の瞬間、アッバーブの剣が振るわれた。狙いは、治癒魔術師のリーダーだ。正確に首筋を狙っている。

明らかに殺すつもりの剣筋だった。

まあ、俺の念動に弾かれて、失敗に終わったけどな!

あれだけ殺気をまき散らしていれば、次に何をするかなんて簡単に分かる。治癒魔術師たちを格下と侮って剣技も使っていないし、防ぐのはゴブリンの手を捻るよりも簡単だった。

「ほう! 私の初撃を防ぐとは、なかなかやるではないですか!」

「え? え?」

未だに事態の飲み込めない3人の治癒魔術師たちは、目を白黒させている。

評判は悪くとも、相手は武闘大会参加者で、高ランク冒険者だ。いきなり攻撃してくるなどとは夢にも思わなかったのだろう。

「しぃやっ!」

「ひぃ!」

老魔術師は悲鳴を上げて頭を抱える。戦闘は苦手であるらしい。アッバーブは確実に殺したと思ったようで、その顔には嗜虐的な笑みが浮かぶ。

だが、その剣は俺の張った障壁で弾かれていた。

無駄無駄! その程度の剣術で、俺の障壁は破れん!

「き、急に何をなさる!」

「……雑魚のふりをしているのか? だとしたら大した演技力ですが……。まあいいでしょう。あまり時間も掛けていられませんからねぇ。その娘を渡しなさい」

「ど、どういうことですか?」

「なに、私のクライアントが、強い冒険者を所望しているのですよ。本来であれば私なぞ足下にも及ばぬ強さを持った化け物ですが、今なら簡単に捕らえられるでしょう?」

「な、なんという……」

アッバーブの目的はフランそのものか! 弱ったフランを攫い、闇奴隷化するつもりなのかもしれない。

(グルルル……)

『ウルシ、殺すな。裏を吐かせる』

「ガルゥ!」

「ぎぃぃぃ! な! 召喚されていないのに、なぜぇ!」

「ガルルル!」

「そ、それに、あれだけの傷が、もう……?」

ああ、なるほど。ウルシを召喚獣だと思っていれば、術者のフランが寝ている状態なら喚び出せないと思っていたのか。

それに、ヒルトとの試合で重傷を負ってもいた。戦力外になったと考えていたのだろう。だが残念。もう5割ほどは回復しているのだ。

「ぐがぁ……」

影から襲い掛かったウルシに両足を噛み千切られ、アッバーブが悲鳴を上げて倒れ込む。だが、さすがランクB冒険者。

致命的な一撃を貰いながらも、懐から薬を取り出していた。ディアス戦でも使用した毒薬、七瞬きである。

負けそうになった途端、自らの命を守る方向に切り替えるのは、冒険者としての経験豊富さを感じさせるな。

「くそぉぉ! こうなれば……」

「ガウ!」

「なっ!」

しかし、毒無効を持つウルシにとってはただの苦い水でしかない。影から飛び上がったウルシが、薬瓶を持つアッバーブの手ごと噛み砕き、呑み込んでしまった。

「ば、かなぁ!」

毒薬の不味さのせいでペッペッと唾を飛ばすウルシを見ながら、アッバーブが間抜けな顔を晒している。

ウルシに毒が効かないことを悟ったようだ。多分、アッバーブの手持にはあれ以上の毒がなく、七瞬きが効かないのであれば打つ手がないのだろう。

「グルルルル」

「くっ」

ウルシがアッバーブを威嚇するように唸り声を上げた。フランを狙ってきたことよりも、苦い毒薬を飲まされたことのほうに腹を立てているように見えるのは俺の気のせいか?

まあ、とりあえずアッバーブからは話を聞かないといけないか。

「はいはい。そこまでだウルシ」

「オフ」

俺は久しぶりに分体創造を使って人の体を作り出し、その場に姿を現した。

「ひょえ! だ、誰じゃ!」

「え? いつのまに!」

治癒魔術師さんたちは驚かせてしまってごめんね。

「あー、俺はフランの師匠だ。なあウルシ」

「オン!」

ウルシが、差し出した俺の手に自分の頭を擦りつけてくる。

「そ、そうでしたか」

フランの従魔であるウルシが懐いていることで、身分の証明になったらしい。治癒魔術師たちは安堵し、アッバーブの顔が憎々し気に歪んだ。

俺の分体が大して強くないことを感じ取り、逆に自分では偽装を見破れないほどの強者であると勘違いしたようだ。分体は本当に雑魚なんだけどね。

「くそっ……」

「で? どうする? 全部話すなら、このまま傷塞いでギルドに連行するだけにしておいてやるが?」

「話さないなら?」

俺はヤンキー座りをして、アッバーブと視線を合わせながら教えてやる。

「俺の可愛いフランに手出ししようとしておいて、五体満足で居られると思うなよ?」

「……はぁ。どこが今なら簡単に捕らえられるですか……。わかりましたよ。全て話します」