軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

730 ディアスの笑顔

「ディアス」

「ああ、フラン君」

ベッドから身を起こしたディアスが、笑顔でフランを出迎えた。その顔には裏表がないように思えるが、どうなんだろうか?

「傷は大丈夫かい?」

「ん。もう治った」

「そうか。それは良かった」

敗者のディアスが、勝者であるフランの体調を心配する。

あべこべの光景だが、時の揺り籠によって敗者が完全回復するこの大会においては、おかしい姿ではなかった。

いや、フランの傷ももう完全に癒えているけどね。ディアスの魔剣の持つ再生阻害の効果はやはり数分で切れてしまうらしい。試合終了後、すぐに再生が始まっていたのだ。

特に鼻の傷が治ってよかった。今後、ああいった治癒を妨害するような能力に対抗する力も必要になるかもしれない。

アナウンスさん曰く、生命魔術のレベルを上げれば阻害を打ち消すような術も手に入るそうだ。取得しておくべきかもしれない。

それに合わせて、もう一つ気になっていたことがある。

『なあ、ディメンジョンシフトを無視してダメージを与えてきたのは、魔道具かなにかの効果か? ディアスが教えたくなければいいんだが……』

「別に構わないよ師匠君。あれは、僕のスキルの効果さ」

『スキル?』

ディアスのスキルに、時空系のスキルはなかったと思うんだが?

「僕を鑑定してみなよ」

『あ、ああ』

お言葉に甘えてディアスを鑑定させてもらうが、やはり目立つスキルはない。

『鑑定妨害で隠してるのか?』

「いやいや、そうじゃない。奇術というスキルさ」

『はあ? 奇術?』

「ああ。このスキルのレベルを上げると、僅かに時空系の能力が身につくんだ。手元から手元への転移や、体の一部分を透過させるといった、本当に弱い効果しかないけどね」

奇術って、そういうことまでできるの? ただの手品の延長線上のスキルというだけではなく、魔力を使って奇跡を起こすスキルであるらしかった。その奇術を利用することで、対時空魔術用の攻撃も可能になるらしい。

俺がそうしてディアスと喋っている間、フランはずっと黙ったままだった。やや俯き加減で、俺たちの話を聞いている。

そして、会話が一段落着いたところで、意を決したように顔を上げた。ディアスの目を真っすぐ見つめ、口を開く。

「……怒ってる?」

「はは、そんな訳ないさ。自分でも不思議なくらいに、気分がいいんだ」

「……そう」

穏やかな声でそう告げるディアスが、ベッドの上に正座をする。神妙な表情だ。

「賭けは君の勝ちだ。もう僕がゼロスリードに復讐することはない」

そして、土下座するようにフランに対して頭を下げる。

「フラン君、僕に勝ってくれてありがとう」

数秒間下げられていたその顔が再び上がった時、そこには晴れ晴れとした笑顔があった。

「僕は、本気で勝ちに行った。そして、君に負けた」

「ん」

それは分かる。ディアスに手加減している様子は全くなかった。

「もっと、悔しがるべきなのかもしれない。でもね、何故か、全くそんな気持ちは湧かないんだよ……」

「なんで?」

「さあ? なんでだろうね? 僕にも……自分でもよく分からないよ。ただ、解放感みたいなものはあるかな?」

前獣王への恨みや、キアラを守れなかったことへの悔恨を抱えながら、何十年も生きてきたんだ。その想いが多少なりとも晴れたのであれば、解放感があって当然だろう。重石のようなものが取れたってことなのかもしれない。

「僕の記憶の中のキアラは、ずっとしかめっ面だった。彼女は、いつも戦っていたからね。でも、今は笑ってくれている気がするんだ。優しい顔でね」

ディアスはそう言って、優しい顔で微笑んだ。

「……さあ、もう行くといい。次の試合が始まってしまうよ? 君の次の対戦相手になるんだ。見ておかないと」

「ん。分かった。でも、ディアスはいいの? ディアスも、負けたほうと3位決定戦」

「僕は大丈夫だよ。ギルマスとしての仕事もあるからね」

そう笑って、ディアスはフランを送り出した。今は人手が足りていないし、ディアスもゆっくりとはしていられないんだろうな。

客席に向かって歩きながら、フランがポツリとつぶやく。

「ディアス、笑ってた」

『だな』

「……よかった」

『ああ』

その「よかった」は、色々なことに対するよかったなのだろう。ディアスに嫌われなくて。ディアスが解放されて。ディアスとの賭けに勝てて。ディアスが笑っていて。

俺にとっては、フランにとって悪い結果にならなくて。

『さあ、客席に急ぐぞ。次の試合は絶対に見逃せないからな』

「ん」

『席があるといいんだが……』

ヒルトVSナイトハルト。フランやディアスがいなければ、決勝戦であってもおかしくはない組み合わせだ。

俺たちが客席に姿を現すと、周囲からの視線が突き刺さる。何やら牽制し合っているようで、話し掛けてくる者はいないが。

そんな中、声をあげる勇者がいた。

「お姉様! こちらです!」

「ケイトリー」

なんと、ケイトリーがフランの為に最前列の席を確保してくれていたのだ。隣にいた使用人を立たせて、その席を譲ってくれる。

ここは有り難く譲ってもらうとしよう。遠慮しても、席がゲットできるわけじゃないからな。

試合はまだ始まっていない。俺たちがメチャクチャにした舞台の修復に時間がかかったからだ。

今、ヒルトが闘技場に姿を現したところであった。ジャストタイミングであろう。

『すぐに始まるぞ』

「ん!」