軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

723 準々決勝

勝利したフランは、ゆっくりと控室に戻る通路を歩いていた。だるそうに体を揺らしている。

『フラン、大丈夫か?』

「ん……」

相手から食らったダメージはほとんどない。剣は避けるか、物理無効で受けた。念動は俺もシビュラも戦闘中にかなり使っていたが、互いに相殺されてどちらも効果を上げていない。

シビュラは確実に分割思考を持っているな。激しい戦闘中に、常に念動でこちらを的確に攻撃していた。それこそ、俺が念動を攻撃に回す余裕が一切なかったほどだ。まあ、封じることができたと考えれば悪くはない。

大きな傷は負わなかったフランだが、閃華迅雷を長時間使い続け、自身で神属性を行使した。そのせいで、想像以上に消耗が激しいようだ。

全身を軋ませる痛みに、顔をしかめている。それに、ヒールを使っても疲労が抜けないらしい。一晩寝れば、なんとかなるか?

天断の先は見えたが、神属性を使うのはやはり反動が大きすぎるな。使い分けをできるようになればいいんだが……。

それに、消耗だけではない。浮かない顔で、唇をかみしめている。

『どうした?』

(勝ちを譲られた)

『あー』

シビュラが最後に何かやろうとして、止めたことは確かだろう。力尽きたというよりは、奥の手を衆目に晒すことを嫌ったように見えた。

彼女たちがレイドスのスパイだとするのであれば、それも仕方ないだろう。しかし、フランとしては勝ちを譲られたように思えるらしい。

『真剣勝負ではあるが、そこは試合でもあるからなぁ。奥の手を使う場面じゃないと思ったんだろうよ。俺たちだって、人に見せたくない奥の手はあるだろ?』

潜在能力解放やスキルテイカーは、武闘大会で使う予定はない。こう言っちゃなんだが、最悪負けてもいい戦いだからな。

「ん……」

『まあ、奥の手を互いに使わない状態で、勝ったんだ。それで良しとしておこう。あれだけの相手が負けを認めたんだぞ?』

シビュラはフラン以上の戦闘狂だった。きっと、かなり悔しいはずだ。今頃、悔しさに転げ回っているんじゃないか?

フランもそれを理解したのか、ふっと微笑んだ。

「ん」

『それよりも、次の試合に向けて準備をしないと』

まずは、次の試合を観戦する。エイワースの弟子アッバーブ対ギルドマスターのディアスの対戦である。

「ふぅ」

観客席に戻ると、フランが沈むように椅子に座り込む。やはり、体がだるいようだ。

『フラン。辛かったら、寝てもいいんだぞ?』

「へいき」

顔には疲労が滲み出ているのに、その目は爛々と輝いている。多分、戦闘の興奮が未だに収まらないのだろう。アドレナリン全開で殺し合った直後だからな。

『とりあえず、何か食べるか?』

「カレー。辛いの」

こんな場所で食べるには少々難がある食べ物だが、今はいいだろう。匂いは、俺が風魔術で散らせばいい。フランが出したように見せかけて、俺の収納から大盛のカレーを取り出す。

それにしても、辛口を所望か。珍しい。

「む。はじまる」

フランが呟いた通り、眼下では第二試合がちょうど開始されるところであった。一定の速度で辛口カレーを口へ運びながら、真剣な目で試合場を見つめる。

死霊のような白い肌に、黒い髪をした痩身の男がアッバーブ。シミターを構えたまま、ディアスと向かい合う。強敵を前にしながらニヤニヤと嫌味な笑いを浮かべているのは、余裕の表れなのだろうか?

「竜転のディアス様。一度あなたと戦ってみたいと思っていたのですよ」

「へえ? それは光栄だけど、どうしてだい?」

「あの傍若無人な師が認める相手を、若輩者の私が下し、辱める! ひひひひ! 考えるだけで、疼きますよぉぉ!」

「うわぁ。その笑顔、あの馬鹿にそっくりだ。弟子は師に似るのかねぇ?」

「ひひひ! そのすました顔、グッチャグチャに溶かしてあげますよぉ! それに、私があなたと戦いたかった理由は、もうひとつあるのですよ!」

「へぇ? それはなんだい?」

「くくく。我が師のかつての仲間の中で、私が唯一勝てそうな相手ですからねぇ!」

そう叫んだ変態――もといアッバーブは、懐から一本の試験管を取り出した。

「ひひひひひぃ! 死になさい! 師直伝の毒薬でねぇ!」

鑑定するとアッバーブが取り出したのは、『七瞬き』という名前の魔法薬だった。この毒に侵された人間は、七回瞬きする間に死んでしまうというところから名付けられたようだ。

その試験管が舞台に叩きつけられ、一瞬で凄まじい煙が噴き上がる。エイワースが使っていた魔法薬にそっくりだった。

アッバーブは毒耐性をレベル8で所持しているので、この毒は効かないのだろう。対するディアスは耐性スキルがそう高くはない。これは、平気なのか?

「あなたは確かに強い! 当代随一の幻術の使い手だ! だが哀しいかな、防御面は大したことがありません。それこそ、回避不可能な攻撃を食らった場合、どうしようもない!」

それは確かにそうだ。幻術や思考誘導、視線誘導を使いこなし、相手の攻撃を躱す技術はあっても、回避しようのない広範囲攻撃はどうにもならないだろう。

これはもしかして、アッバーブによるジャイアントキリングが――。

「ぐがっ!」

「ひひひ! この毒は吸わずとも、皮膚からでも入り込むのですよぉ!」

「く……」

「竜転のディアス! この悪辣剣のアッバーブが取りましたよぉ!」

天を仰いでそう叫んだ直後、アッバーブの体が傾ぐ。そして、白目を剥いててそのまま前に倒れ込むのだった。

「戦闘中に、敵から目を離すのは二流だよ?」

『こ、これはぁぁ! 何が起きたのか! ディアス様が血を吐いて倒れたかと思いきや、そのすぐ後にはアッバーブの真後ろにいたぁ! 幻術でしょうかぁぁ!』

解説が叫ぶ通り、倒れたのは幻像魔術で作り上げた分身だったのだろう。思考誘導などを巧みに使い、気付かれず接近したのだ。そして、急所に拳を一撃である。

『分かったか?』

「……微妙?」

『俺も、この距離なら見破れたが……』

舞台で向かい合っている状態で、ディアスの動きを察知できるかは未知数だった。そもそも、気配の殺し方も抜群に上手く、毒煙が効かなかった時点でディアスのために煙幕を用意してやったようなものだったのだ。

だが、毒をどうやって防いだ? スキル? それとも魔道具か? 毒煙に覆われたせいで、それも見えなかった。

『やっぱ一筋縄じゃいかないな』

「でも、勝つ」

『おう』

結果、ディアスの秒殺劇で第二試合は幕を閉じたのであった。

その次の試合も、瞬殺に近い終わりであった。まあ、見どころは十分だったけどね。

ヒルトとクリッカの戦いとなったわけだが、ラデュル戦とは打って変わって、ヒルトがどっしりと構える戦法を選んだのだ。

それに対し、クリッカが舌打ちをするのが分かった。彼女の場合、相手の攻撃を躱してのカウンターが主体だからな。

互いに睨み合う。それだけなら、膠着状態とも言える。しかし、時間が経過するごとにクリッカが焦り出すのが分かった。

ヒルトの体内の魔力がドンドンと増していくのだ。デミトリス流に詳しくなくとも、このまま放っておけば危険であることは分かるのだろう。

それでも、クリッカは身構えたまま、ヒルトを見続けた。どんな攻撃でも、躱す覚悟を決めたのだ。

予選でこんな状態になれば、「早く戦え!」という野次の一つでも上がるだろう。しかし、観客は黙って闘技場を見つめるだけだ。クリッカの放つ緊迫感が、観客にまで伝播しているらしい。

「はぁぁぁ……」

「!」

ヒルトが一気に魔力を解放した。その魔力が舞台を覆う。だが、それ自体に攻撃力はない。魔力は目晦ましだった。

闘技場内があれだけ濃密な魔力に覆われてしまえば、魔力感知は意味をなさないだろう。

直後、クリッカが吹き飛んだ。宙に投げ出されたその体が、何度か不自然に軌道を変える。ヒルトの気による攻撃だ。

同種の魔力に囲まれた中では、ヒルトの魔力放出攻撃も全く読み取ることができない。クリッカはなす術もなく、連撃を食らうしかなかった。

そして、最後に舞台に撃ち下ろされたクリッカは、ぐったりとしたまま動かない。決着である。

ヒルトは確かに強いが、それだけではない。今の戦法は、前の試合でヒルトがラデュルにやられたものだろう。つまり、彼女もまた勉強し、成長しているのだ。

強くなっているのは、フランだけではない。それを思い知らされた。

これで、また一つ強敵が上位に進んだというわけだ。

『次はいよいよか』

「ん。フェルムスとナイトハルト」