軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

718 喰らう女

「たあああぁぁ!」

「おるあぁぁぁ!」

フランとシビュラの斬り合いは、さらに凄まじさを増していた。

閃華迅雷によって超高速で動き回りながら、シビュラに間断なく攻撃を仕掛けるフラン。その一撃一撃が全力であり、シビュラの肌を切り裂き、内臓に衝撃を与える。

無数に付けられる傷を即座に再生しながら剣を振るうシビュラの動きも、まったく鈍る様子がない。それどころか、彼女のテンションに呼応するように、速度が増し続けていた。

視認すら困難な、速過ぎる斬り合いに、観客は声援を忘れて息を呑んでいる。何か凄いことが行われていることは分かっているんだろう。

だが、これだけ激しい戦いであるのに、互いに目立ったダメージはない。こちらの攻撃は、多少深く入ったように見えても、すぐに再生されてしまう。

一度、同じ部分に連続で斬撃を叩き込み、左手の指を千切ることに成功したが、即座に再生されていた。瞬間再生系の能力だろう。

シビュラの攻撃は、全部フランが回避している。序盤、物理攻撃無効スキルを付けてみたんだが、やはり消耗が凄まじ過ぎた。ディメンジョンシフトのほうがマシだろう。フランのダメージは閃華迅雷による消耗だけだ。

それも、ベリオス王国で身に付けた生命魔術によって、大分マシになっている。まだ、俺たちを追いつめるほどのダメージではなかった。

一見、膠着しているようだが、どちらかと言えば俺たちに不利だろう。消耗が続くことに変わりはないのだ。シビュラの防御力を支える謎能力もかなりの魔力を消耗するとは思うが、それがどの程度なのかは分からない。

俺の想像以上に燃費が良ければ、長引けば長引くほど俺たちに不利になっていく。

できるだけ早く決着をつけたかった。俺たちにはまだ狙いがある。それは、シビュラの眼球だ。

神属性を纏う今の攻撃であれば、目を貫通することができるはずだった。そこから頭蓋の内へと攻撃が通れば、どれだけ頑丈でもさすがに死ぬだろう。

それが分かっているのか、シビュラも顔への攻撃だけは回避する様子を見せる。

獣のような勘の良さで、危険な攻撃を察知しているらしい。

『やっぱり、動きを止めないとダメだな!』

(師匠の糸?)

『奴のパワーは相当なものだ。鋼糸だと、拘束しきれないかもしれん』

物理攻撃無効で攻撃を受け止めた時、魔力消費が凄まじかった。昨年、コルベルトの奥義を受けた時以上だ。無造作に繰り出された連撃の一発を食らっただけで、それである。

シビュラの使っている魔剣は、頑丈さ優先で、攻撃力はそれほど高くはない。つまり、シビュラの高い攻撃力は、彼女の腕力の賜物なのだ。それ程のパワーを持った彼女を、糸や紐でどこまで拘束できるか、疑問が残る。

(じゃあ?)

『奇襲の仕掛け時ってことだ』

(なるほど)

フランが突きを繰り出すべく、腕を脇に畳んで引き絞った。あえて見せつけるように。

こちらが大技を繰り出すと察知したシビュラが、ニヤリと不敵に微笑む。その意識は狙い通り、完全にフランに向いているだろう。

足下が疎かだ。

『ウルシッ! 今だ!』

「ガオオォォッ!」

「うなぁ!?」

戦闘開始から、ここまで温存してきたウルシによる奇襲だった。初見でこれを完璧に躱した相手はほとんどいない。

噛み付かれる前に反応したのはさすがであるが、足元から襲い来るウルシの噛み付きからは逃れられなかった。

「なんだ、このデカさはぁ!」

事前にウルシの情報も仕入れていたのだろうが、それは小型化している時のウルシの情報である。

この都市で最大サイズになったことはないし、他でもそれほど大型化した姿は見せていない。知らないと思ったのだ。

ウルシの気配に気付いて後ろに飛んだシビュラは、予想外に巨大なウルシの顎に捕らえられていた。

何せ、今のウルシは頭部だけで5メートル以上はあるのだ。シビュラが口の端にひっかかっている。

ウルシの牙をもってしても、ダメージはないようだ。だが、強靭な顎に両足を膝下からガッチリと咥えられ、身動きが取れずにいる。

「ちぃ! こ――」

「黒雷転動!」

ウルシを攻撃しようとしたシビュラだったが、フランのほうが速かった。黒雷転動によって一瞬で目の前まで移動したフランが、その雷速を生かしたまま必殺の突きを繰り出す。

「くおおぉぉ!」

シビュラがギリギリで首を傾けたことで、俺の切先は目ではなく、口元に向かう。だが、それでもいい。

『口から体内をズタズタにしてやる!』

それだけじゃないぞ? 次元収納に仕舞ってある劇毒もおまけだ! そう思っていたのだが――。

「むぐ!」

「!」

フランが驚きに目を見開く。それは俺も同じだ。

シビュラが俺の切先に噛みつき、突きを受け止めていた。歯による真剣白刃取りとでも言えばいいのか? 驚きの反応速度と、思い切りの良さだ。顎の力も凄まじい。

だが、真に驚いたのは、その後の行動であった。

ガリガリィィィガギン!

『おおぉぉ?』

なんと、シビュラが俺の刃を噛み千切りやがったのだ。歯が強いとか、そんなレベルではない。いくらシビュラが規格外だって、魔力を伝導させている俺を噛み千切るなんて、絶対に無理なはずだ。

しかし、現実には俺の切先は欠け、シビュラの歯形が見事についている。

ゴリゴリゴリボギィ――。

しかも、ただ噛み千切っただけではない。

「もぐもぐ美味いな。いい剣だ。もぐもぐ毒系の能力があるのかい?」

俺が口の中に放り込んでやった毒ごと、食っていた。

まるで硬い煎餅を食べているかのように、口の中で俺の刀身を砕き、飲み込んだのである。これがパフォーマンスでないことは確かだった。

「はっはっはぁ! さすがに魔剣は一味違うねぇ!」

シビュラの魔力が明らかに増している。俺を食ったことが原因であるのは、間違いがなかった。そこらの人間なら、一滴で殺せるような毒も、意に介した様子はない。

「いい加減、離しやがりな!」

「ギャウゥゥ!」

そのままシビュラが、未だに自分の足をホールドしているウルシの鼻先に噛みついた。そして、噛み千切ったウルシの肉を咀嚼し、嚥下する。

「こっちも美味いな! しかも、いい力も持ってるじゃないか! 闇の魔力が濃いね!」

そう叫んだシビュラの魔力が、先程よりもさらに増していた。

食って、力を増す? そんな力を持っているらしかった。

「このまま食らい尽くしてやろうか?」

「クゥゥ……」

『ウルシ! 一度離れろ!』

ウルシが怯えたように微かに悲鳴を上げた。噛み千切った自分の肉を、目の前でグチャグチャと咀嚼するシビュラが怖かったのだろう。

分からなくもない。美しい女が獣に食らいつき、噛み千切る姿は、異常に迫力があった。俺、ウルシと立て続けに食らったシビュラを前に、フランも戸惑っている。

『これは、想像以上にぶっ飛んだ相手みたいだな……! 俺とウルシを食いやがった! 何してくれてんだ!』

(師匠、だいじょぶ?)

『再生はしたし、異常はないが……。ありゃあ、やべーぞ』

「ウルシは?」

「クゥン……」

俺もウルシも再生を持っている。ダメージ自体は大したことがない。しかし、精神的な衝撃は未だに残っている。

『奴の能力は、何なんだ……? ただの悪食ってだけじゃないよな? それとあの防御力に関係があるのか……』

《個体名・シビュラの分析完了》

『おお! アナウンスさん! まじっすか!』