軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

717 天断の先

「そろそろ、私も体があったまってきたところだ! ガンガン行くよ!」

シビュラの言葉に嘘はなかった。その体の中を流れる魔力の量が一気に増え、全身から赤い魔力が溢れ出す。

その圧迫感は、今まで戦ってきた強者たちに勝るとも劣らないだろう。

その凄まじい魔力が伊達ではないと示すように、動いたシビュラの速度が一段どころか、数段上がっていた。

「しゃあぁぁぁ!」

「ぐ……!」

シビュラがフランの動きに慣れてきたというのもあるのだろうが、迷いがフランの動きを僅かに鈍らせている。

速度で上回っているはずのフランが、シビュラの攻めに押され始めていた。攻撃が成功するビジョンが見えないせいで、回避にまで影響が出始めている。

このまま攻撃を回避し続けていても、事態は打開できん。

『フラン。攻めるぞ』

(……わかった)

空中跳躍を使ってあえて距離を取ったフランを見て、シビュラがその動きを止めた。こちらが切り札を使おうとしていることを察知したのだろう。

「くはははは! 急に迷いが消えたな! いいぞ、こいよ! いくらでも待ってやる!」

この状況で笑ってやがる。だが、すぐにその笑いを引っ込ませてやるぜ!

「ふぅぅぅ……」

シビュラが待ってくれるというのであれば、その余裕を利用させてもらおう。

かつてないほどに、フランが集中する。自身と俺を一体化させるように魔力を循環させ、一撃に全てをかけるように研ぎ澄ませていく。

俺がフランの肉体の延長線上にあるかのような、不思議な感覚。自身が剣として、最大限のスペックを発揮できるかもしれないという、高揚感。振るわれる前から、歓喜にその身が打ち震える。

剣神化状態のフランに振るわれるときに、似ているかもしれない。

「はぁぁ……」

大上段に俺を構えたまま膨大な魔力を練り上げるフランを前に、シビュラは野獣のような笑みを浮かべて身構えるだけだった。

本気で邪魔をせずに、受けるつもりなのだ。

そしてフランが、一気に間合いを詰めた。

「ふぅ……」

「っ!」

シビュラは反応しない。できないのか、しないのか。ただ、フランを見つめている。

「天断」

そのまま全ての音を置き去りにして、あまりにも静かに振り下ろされた神速の刃がシビュラの体を――。

「!」

『なにぃ!』

「凄まじいねぇ! だが、まだまだ甘いよっ!」

馬鹿を言うな! 今ので甘いなら、シビュラを斬れるやつなんかいるもんか!

いや、全く斬れなかったわけじゃない。俺の刃はシビュラの肩口を10センチほど切り裂き、初めて血を流させていた。

しかし、閃華迅雷状態のフランが全力で放った天断の一撃なんだぞ? それで、この程度?

『今の攻撃、僅かに神属性を纏っていたのに!』

(? ほんと?)

フラン自身も気付かなかったらしい。

しかし、神気操作スキルを身に付けた俺には、しっかりと感じ取ることができていた。

天断の先にあるのが剣神化だと考えれば、突きつめていけば神属性を纏うのはおかしいことではない。

フランがついにその一歩を踏み出したということだろう。

だが、シビュラは涼しい顔だ。あまつさえ、神属性で付けたはずの傷が、即座に再生し始めていた。

圧倒的な防御に、信じ難いほどの再生力。そこに目が行きがちだが、他にもおかしい部分があった。切れなかったとしても、超高速の一撃だぞ? かなりの衝撃があったはずなのだ。

切れずに受け止められたということは、その衝撃がシビュラに襲いかかっているはずだった。衝撃を逃がした様子もないのに、シビュラは吹き飛んだりもしない。

この姿に、覚えがあった。去年、武闘大会で物理攻撃無効を使っていたフランにそっくりだったのだ。

『やっぱり、物理無効なのか?』

しかし、神属性は通常のスキルを凌駕する力があるはずだ。物理攻撃無効スキルでも、神属性は防げないはず。なぜ、あれしか斬れない? いや、神属性だからこそ、僅かなりとも斬れたのか?

それに、耐性スキルであるとすれば、魔術などが全て防がれた理由もわからない。

(師匠。神属性を引き出せる?)

『……やってみよう』

やはり、神属性が鍵になりそうだ。神気操作を使い、自らの魔力を神気に変換する。なかなか上手くはいかないが、俺は諦めない。

剣神化や、さっきの天断を思い出せ。俺なら、可能なはずだ。

すると、俺自身の存在感が急激に増し、力が溢れ出す感覚に襲われる。

『きた……いけるぞ。剣神化には及ばないがな』

(十分)

フランが再び動いた。天断ではなく、空気抜刀術だ。だが、天断並みに魔力を込めた一撃である。

天断よりも浅いが、シビュラの頬が傷ついていた。やはり神属性ならば完璧には防げないらしい。

さらに、フランの攻撃が続く。剣ではない。

フランの繰り出した拳が、シビュラの胴体を打ち据えていた。その拳には、俺の飾り紐が巻かれている。

「ごっ……」

『え?』

斬撃よりも遥かに劣る威力の拳で、シビュラがダメージを受けていた。打たれた肺から息を吐き出し、苦い表情で胸を押さえる。

痛みというよりは、内臓を揺さぶられた不快感があったのだろう。

「やっぱり。剣よりも、パンチのほうが苦手?」

「くく……気付いたか」

なるほど。どうやら全ての攻撃に対して、一律の防御力というわけではないらしい。

剣に対しては無敵とも思える防御力を持っているが、打撃にはそうでもないのだろう。コルベルトの攻撃でダメージを受けていたのも、単純に打撃が苦手だから? もしくは浸透するダメージには弱い可能性もある。

それでも堅いことは確かだが、無敵ではないことが分かっただけでも十分だ。

斬撃も打撃も、神属性を搦めれば多少なりとも効くのだ。

『なら、斬って打って攻撃しまくる』

(ん!)

『神属性の維持は俺に任せろ』

(おねがい)

剣神化を使うのは最後の手段だ。長時間使えない剣神化で仕留められなければ、一気に不利になるだろう。

「ははははは! ここからが本当の戦いだ!」

「ん!」