軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

706 試合巧者

「これが、開発したばかりの俺の奥の手だ」

モルドレッドが、腰から取り外したアイテム袋を逆さにして、上下に軽く振る。すると、中からソフトボールサイズの金属球が落下した。ゴドゴドと転げ出る金属球は全部で10個。

鑑定結果では、魔操合金の球となっていた。

足下に転がる金属球を足で軽く転がしながら、モルドレッドが槍を構える。

「術装」

固有スキルの名を呟くモルドレッド。すると、その全身から赤黒い色を帯びた光が立ち昇った。溶鉄属性の魔力だ。

属性剣の全身版か? それとも他に能力が? 俺が疑問に思っていると、すぐにその能力が判明した。

「ウルカヌス・オーダー!」

「!」

驚くフランの前で、魔術が起動する。この術には覚えがあった。巨大な錨を操り、クラーケンや水竜を拘束してみせたのだ。範囲内の金属を意のままに操ることが可能となる、高位の溶鉄魔術である。

以前は長い詠唱を必要としていたはずだ。それを魔術名だけで? 試合前に鑑定した結果、詠唱破棄や無詠唱は所持していなかった。

術装の効果か?

観察する俺たちの前で、金属球が乱舞し始める。未だ本気ではないだろうが、かなりの速度だ。この状態でも、当たれば骨折くらいはするだろう。

「はああぁぁぁ!」

「雷鳴魔術への対策は万全だ!」

フランが、攻撃される前に雷鳴魔術を放った。

それに合わせ、金属球が5つ、盾のようにモルドレッドを庇う。すると、フランの放った雷鳴魔術は、見えない壁に阻まれるように弾かれ、消えていった。

金属球の周りに渦巻く魔力が、障壁の役割を果たしたらしい。

「潰れろ!」

「つぶれない」

攻守交代だ。モルドレッドが軽く手を動かすと、金属球が一斉にフランに襲いかかった。

直線的なものや、弧を描くように襲ってくるものなど、その動きは全てがバラバラである。それでいて、的確にフランを追い込んでいく。

10個の金属球を完璧に制御できているらしい。

フランが咄嗟に金属球を打ち払ったが、それすらモルドレッドの予測の内だ。俺にぶつかった瞬間、金属球がグニャリと変形した。切った感触はなく、ゼラチンでも叩いたかのような感触だ。

さっきの槍と同じである。鉄球がそのまま俺の刀身に絡みつき、離れない。フランにとってこの程度の重さは何ともないのだが、その部分だけ切れなくなってしまう。

しかも邪魔はそれだけではなかった。

「え?」

急に勝手な動きをした俺に、フランが驚きの声を上げる。

『俺じゃない!』

そう、俺の仕業ではない。刀身に巻き付いた金属が、モルドレッドの操作であらぬ方角に引っ張られたのである。

そのせいで再び金属球が俺の剣身とぶつかり、重りが増えてしまう。

しかも、俺は凄まじい違和感を覚えていた。形態変形を自分の意思に反して、無理やり使われそうになっているような? 多分、金属球を通して、モルドレッドの溶鉄魔術が俺自身に作用しているのだろう。

さすがに俺を直接操作することはできないようだが、集中力は十分に乱されてしまっている。今後、溶鉄魔術使い相手には要注意だな。

思い通りに動かない俺を腕力で無理やり操りながらも、なんとか回避し続けていたフランだったが、だんだんと逃げ場が減ってきた。

回避中に反対側に引っ張られ、何度か軽い被弾もある。まだ掠り傷の範疇だが、このままでは危険と判断したのだろう。

フランが、身を低くして前に出た。

行く手を塞ごうとした金属球を、障壁を張りつつ最低限の動作で躱していく。そのまま金属球の包囲を抜ける――と思われたその瞬間だった。

「がぐぅ!」

『フラン!』

フランが不意に体勢を崩して、転びそうになる。右足が地面に埋まるように、沈み込んでいたのだ。

咄嗟に手を突いて、体を捻ることで転ぶことは防いだフランだったが、その右足の状態はかなり酷かった。焼け爛れ、所々が炭化していたのだ。

密かに地面の下を溶岩化させ、踏むと足が嵌まる罠のようなものを配置していたらしい。

魔力で全身を覆っているフランだからこの程度で済んだが、もっと弱い魔獣や人間であれば、足が焼け落ちてなくなっていただろう。

「くぅ」

咄嗟に回復魔術で回復するが、その間にモルドレッドは次の行動に移る。

「マグマ・フィールド!」

モルドレッドが舞台に両手を突き、魔力を流し込んだ。モルドレッドを中心として、地面が一気に赤熱し始める。

フランが慌てて上空に逃れざるを得ないほどの、凄まじい熱量が一気に立ち昇っていた。

その範囲はどんどん増え、闘技場内の地面は全て真っ赤に熱されてしまっている。石造りの舞台もドロドロと溶け出し、結界内は完全に溶岩の海だ。

モルドレッドは溶鉄魔術の効果により、涼しい顔で溶岩の上に立っていた。

「ライトニングボルト!」

「防げ!」

「むぅ」

フランの魔術はやはり金属球で防がれてしまう。攻撃面の優秀さが目についていたが、その防御力も厄介だ。

モルドレッドの周りを回る金属球。あれを破るにはかなり攻撃力が必要そうだった。

モルドレッドがフランを見上げる。フランを空中へ追いやり、機動力を奪う作戦か? だとしたら、それは甘い。

「閃華迅雷!」

フランが奥の手を使用した。

空中跳躍と閃華迅雷があれば、地上と変わらない速度で戦える。いや、地上以上に速く動けるのだ。

フランはモルドレッドの動きにカウンターを合わせるつもりで、俺を構えたまま闘技場の空中を動き回っている。モルドレッドの隙を見つければ、この状態から一瞬で神速に入ることができるだろう。

だが、これすらもモルドレッドの想定の内だった。

「お前の速さが、俺の手に負えぬ領域にあることは分かっていた」

「?」

「だからこそ、そちらが様子見をしている間に全力を叩きつける!」

本気になったフランを、点で捉えることは不可能。ならば面で。

マグマ・フィールドはフランを空中へ追いやるためではなく、攻撃のための下準備だったのだ。

「ヴォルカニック――」

ダラリと降ろされていたモルドレッドの両手が軽く持ち上げられ、手首だけがクンと回転する。特撮好きの人だったら、シ〇ゴジラのポーズと言えばわかってくれるだろうか。

天を向いた両掌に呼応するように、周囲のマグマがボゴリボゴリとうねり出す。

「――ゲイザー!」

そして、モルドレッドの魔術により闘技場の地面を覆っていた溶岩が大爆発し、結界内を溶岩が埋め尽くした。