軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

703 ビスコットの実力

シビュラと一緒にいた男、ビスコット。こちらも相当な戦士であった。

背が高く、筋肉の付いた分厚い肉体から想像するに、かなりのパワーファイターだろう。

闘技場に出てきたビスコットを鑑定する。だが、やはり鑑定が上手く機能しない。鑑定偽装の魔道具を今も使っているらしかった。

「おっきな盾」

『盾士か? かなりの魔力を感じるな』

「ん。硬そう」

ビスコットの装備で目立つのは、タワーシールドだ。軽く屈めば、ビスコットの巨体でさえすっぽりと隠してしまうほどに巨大である。厚さもかなりあるだろう。

武器は長柄の槌だ。二メートル近い柄の先には、一抱えはありそうなサイズの巨大な鉄のヘッドが付いている。

盾で守って、槌で一撃必殺。ある意味、盾士としては基本的な装備だ。盾も槌も、規格外のサイズではあるが。

どちらも、普通の人間では持ち上げることさえできないだろう。そんな重装備を片手で持ち上げているのだから、その膂力は凄まじい。

同じことは、冒険者の中でも上位の戦士職じゃないと無理だと思われる。

しかし、対魔獣ならともかく、人相手であの重装はどうなんだ? 相手は素早い格闘者なわけだし。

『どう捌くのか、見ものだな』

「ん」

『対するデミトリス流だが……。一応、手甲を付けるのか』

「結構強い」

『そりゃ、デミトリスから出場を許されるレベルなんだ、当然だ』

名前はツェルト。黒い短髪の厳つい顔をした若者だ。ぶっちゃけ、ゴリラそっくりの顔である。

能力的には、封印状態のコルベルトくらいだろうか? こっちは封印状態ではないので、まだ免許皆伝の試練までは許されていないのだろう。

とは言え、十分に強いことは間違いない。デミトリス流も、レベル6で習得しているのだ。

さて、どんな戦いになるか。互いに綺麗に一礼し、試合が始まる。

俺もフランもワクワクしながら見ていたんだが、試合は期待通り激しく、目まぐるしい展開となった。

最初に仕掛けたのは、デミトリス流のツェルトである。

「行きますよ! 盾士殿!」

「速いな!」

俺たちの予想した通り、ツェルトがその敏捷性を生かして、ビスコットを翻弄していった。死角へと潜り込み、出の速い技でビスコットの体勢を崩そうとしていく。

だが、ビスコットの守りは想像以上に堅かった。驚くほど素早く反転し、全ての攻撃を盾で防いでしまう。それでも数発は被弾したと思うが、その体勢は全く揺るがなかった。

それどころか、すぐにツェルトに異変が訪れる。攻撃の頻度が僅かに落ちたのだ。よく見ると、その手甲の隙間から、真っ赤な液体が流れ落ちていた。

ビスコットはただ受け止めるだけではなく、盾を拳に軽くぶつけることで、逆に拳にダメージを与えていたのだろう。手甲の内部が傷つく程度にはダメージを受けているらしい。

ツェルトの表情が悔し気に歪む。ツェルトの攻撃はほとんど見切られていたということだからな。しかも、盾越しに。

これは、思った以上に力の差があったらしい。結局、攻め手を欠いたツェルトにビスコットの狙いすましたカウンターが決まり、最後はあっけなく決着がついてしまった。

序盤はツェルトによる一方的な勝利かと思われたところからの、逆転勝利だ。観客が大歓声を送っている。

実際は、ビスコットの完勝だったけどね。

『あの堅守は厄介だな』

「ん!」

フランは、自分だったらどう戦うか想像しているんだろう。やる気に満ちた顔でビスコットを見つめている。

その後、シビュラの出番を待っていたんだが、全く参考にはならなかった。開始5秒で瞬殺だったからだ。

『一応、剣を使うってのは分かったな』

「あと、スピード主体」

『軽鎧に盾無し。まあ、多分そうか』

次の試合に期待しておこう。次はシビュラとコルベルトだからな。どっちが勝つにしろ、絶対に良い戦いになるだろう。

その後、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。シャルス王国の使者について報告するためだ。

ディアスやエルザはいないようなので、受付嬢さんに説明をする。すると、驚きの反応が返ってきたのだ。

「またシャルス王国ですか……」

「また?」

「はい、実はシャルス王国の人間の行動が問題となっておりまして」

なんと、他の有力参加者の下にも、シャルス王国の人間からの接触があったらしい。無節操に、有名選手を勧誘しまくっているようだ。

受付嬢が疲れたような顔で、溜息をつく。

「彼ら、方々で問題になっておりまして……」

「シャルス王国お断りにしたら?」

「無理ですよ。別に、悪事を働いているわけでもないし、強い冒険者を自国に勧誘するのなんて、どの国もやってることですから」

せいぜいが、選手に迷惑をかけるなと釘を刺す程度しかできないそうだ。

「でも、少し変なんですよね」

「変?」

「はい。態度と条件がとても悪くて、どう考えても交渉を成功させる気がないとしか思えないんですよ」

エマート子爵が特別なのではなく、シャルス王国の使者は全員があんな感じらしい。そして、冒険者が怒り出すと、本人や仲間が土下座をして、大袈裟な態度で謝ってくる。

他国の貴族に土下座までさせて、それ以上怒り続けることは難しい。しかも、滑稽な姿で毒気を抜かれてしまう。

結局、交渉はうやむやになり、冒険者が怒って立ち去るという光景があちこちで繰り広げられているそうだ。

「そもそも、国の使者を名乗っているのに、質が悪過ぎるんですよね。地方の横暴貴族のお遣いとかならまだしも、国から正式に派遣された人間が全員お馬鹿だなんて、ありえます?」

「実はシャルス王国の人間じゃない?」

成りすまして、評判を落とそうとしているとか? だが、嘘看破系のスキルで確認したところ、本物のシャルス王国の使者であるらしい。

「……何かの陰謀?」

「分かりません。こんなことをする意味が分かりませんし……。でも、こちらはシャルス王国への対応でてんてこ舞いですよ。警備の人員も増やさないといけませんし。出場者が貴族を攻撃したなんてなったら、問題ですから……。フラン様も、また接触してきても無視してください。お願いします」

「ん。わかった」

シャルス王国、何が目的なんだろうか?