軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

694 ヒルトとコルベルト

「……」

「……」

フランと数秒の間睨み合っていたヒルトが、小さく呟く。

「……なるほどね」

「?」

何がなるほどなんだ? ヒルトの言葉の意味が分からず、フランが首を傾げる。

「コルベルトが負けるのも納得ってことよ。この年齢でこの強さ……」

そういうことか。明らかにデミトリスの関係者であるヒルトとコルベルトは、以前から親交があったはずだ。だとすれば、フランは友人が破門されるきっかけになった相手だった。

勿論完全に逆恨みだが、素直に割り切ることができるものでもないのだろう。

睨むような表情の意味も分かった。理性ではフランに非はないと分かっていても、目の前にすれば複雑な想いが湧くに違いない。

「コルベルトと友達?」

「友達というか……そこのコルベルトは、私の元婚約者なの。まあ、そいつが破門されたせいで、その話も流れたけど」

「お嬢さん、俺は婚約者候補の一人だったっていうだけですよ」

婚約者の候補が複数人おり、その中で最も相応しいと思われる男が、正式にヒルトの婿になる予定であったそうだ。

婿は、デミトリス流正当後継者であるヒルトの補佐役として、相応しい男でなくてはならない。当然、破門されたコルベルトは候補から外されていた。

「それに、最後まで残ったチャーリーは俺よりも強くていい男だ。齢も近いし、お似合いですよ?」

「そう? そうかもしれないわね」

あ、友達とかいう単純な話じゃなかったかもしれない。

コルベルトに軽い感じで返されたヒルトは、同じように軽い口調で肩をすくめる。だが、その表情は明らかに落ち込んでいた。

これって、もしかしてヒルトはコルベルトのことが……? コルベルトは気付いていないのだろうか?

俺、コルベルトはイオさんといい感じなんだとばかり……。

「ヒルトは武闘大会に出る? コルベルトの敵討ち」

「見世物になる気はないわ」

「……そう」

ヒルトは出場しないらしい。俺はホッとしたが、フランは残念そうだ。ヒルトは強そうだからな。

いや、それよりも今はデミトリスだ。

『フラン。来た目的を忘れるなよ』

「ん……」

俺の言葉で依頼のことを思い出したんだろう。フランがデミトリスに向き直った。

「この男から、主が儂に会いたがっていると聞いたが、なんの用だ?」

「ん。これ。ベリオス王国から」

「ほう?」

預かっていた、デミトリスに渡すための革袋を取り出し、テーブルの上に出す。

デミトリスがそれを受け取りながら、視線で先を促した。

「ゴルディシア大陸に派遣する冒険者の一人として雇いたいって言ってた。その中に手紙が入ってる」

「ふむ。なるほどな」

デミトリスが袋を開き、取り出した封筒をその場で開く。その中に入っていた手紙に視線を走らせながら、デミトリスは何度か頷いている。

さて、これで依頼は達成だ。後はベリオス王国とデミトリスの間の話だからな。

事前の予想とは違い、かなりあっさり依頼達成できてしまった。

だが、これで終わりではない。

「それで、どう? ベリオス王国にやとわれてくれる?」

フランがデミトリスに質問した。実はベリオス王国から、デミトリスを説得したらボーナスを支払うと言われているのだ。

「さてな? まあ、ウィーナレーンがおらぬのでは退屈な依頼となりそうだしのう。断るのではないかの?」

「そこをなんとか」

「ふむ……」

フランの全然心が籠っていない言葉に、デミトリスが少し考え込む。

そして、孫であるヒルトをちらりと見た。

「……そうじゃな。では、こういうのはどうだ? 黒雷姫よ。主は武闘大会に出るのだな?」

「ん。もちのろん」

「ならば、もしお主が此度の武闘大会でヒルトに勝利すれば、ベリオスに足を運んでやろう。どうじゃ?」

「それは望むところ!」

ニコリともせずに、面白い提案をしてくる強面爺さん。当然のことながらフランはやる気だ。ボーナスなんぞよりも、ヒルトと戦えることが嬉しいのだろう。

だが、ノリノリのフランたちとは対照的に、戸惑い気味なのがヒルトである。

「ちょ、お爺様?」

「そして、ヒルトよ。お主が黒雷姫に勝てば、儂は隠居し、流派の当主の座を譲ろう」

「……それは……!」

「ふん。儂とて妻がおり、子を成したのだ。木石でできておるわけではない。知らぬとでも思っておったのか?」

「……つまり、当主となれば自らの婿も、自らの意思で選んでよいと?」

「当主なのだ。流派のことは好きにすればいい。隠居爺のことなど気にせずな。道場を畳んでもよいぞ? 元々は、希望者に野っ原で教えておったのだからな」

「分かりました。それだけの褒美をぶら下げられて、見世物になるのが嫌だなどと言っておられませんね」

今度はただの睨み合いではない。

フランとヒルトが、闘気を叩きつけ合う。

階下が騒がしくなるのが聞こえた。急激に発せられた攻撃的な気配に、ギルドにいた冒険者たちが反応したのだろう。

「お爺様、途中で当たらなかった場合はどうなるのです?」

「その場合は、順位が高い方の勝ちとする」

「分かりました」

「ん」

どちらも、初戦で負けて順位が同じだったらなどという質問はしない。そもそもが優勝をするつもりなのだ。自分が最初に負けてしまうなどとは思っていないのだろう。

それにしても、毎回武闘大会は気が抜けない事態になるな。前回も獣王と賭けをしたが、今回はディアスとデミトリスが相手の賭けである。

「えーっと……?」

一人困り顔なコルベルトよ。すまん。多分だが、お前の今後がフランの勝敗で決まりそうだ。