軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

681 フランの謝罪

『ようやく到着したな』

「ん」

『間に合って良かった』

「ウルシのお陰」

「オン!」

バルボラで料理コンテストに出場してから2週間後。

俺たちは無事にウルムットに到着していた。

いやー、この2週間は色々なことがあった。

まず最初に、バルボラのギルマスであるガムドの依頼で、水晶樹の檻に行くこととなった。昨年のコンテスト時に、初めてフォールンドを目撃したバルボラの近くにある魔境である。

料理コンテストの影響で肉が不足しているということで、魔獣肉の調達を頼まれたのだ。

断ることもできたんだが、フランが乗り気になってしまったのである。やはり魔境というのが魅力的だったらしい。

料理コンテストの時に謎の赤髪の女と出会い、戦闘狂魂に火が付いていたのも悪かったのだろう。

それなりの量の魔獣を狩ったまでは良かったのだが……。少々深入りし過ぎて、水晶樹の檻の最強魔獣、サンダーバードの群れとガチでやり合うことになってしまった。

サンダーバードはフランと互角以上の速度を誇る、脅威度Bの魔獣である。閃華迅雷状態のフランの速度を上回ってくるとは思わなかったね。

ただ、相手の奥の手が雷鳴属性であったことが幸いした。閃華迅雷時には雷鳴属性が無効になるのだ。さらに、物理攻撃無効も併用することで、相手の必殺技である雷鳴を纏った突進攻撃を食らっても無傷で済んでいた。

まあ、そのせいで一気に魔力が枯渇し、逃げることしかできなかったが。できれば1体は仕留めたかったが、5体もいてはそれも許されなかったのだ。

大怪我を負いながらも囮になってくれたウルシの援護がなければ、フランも無事では済まなかっただろう。

さすがランクB魔獣なのだ。2体までならなんとかなったと思うんだがな……。

だが、なんの収穫もなかったわけじゃないぞ? サンダーバードの雷毛という素材を念動で大量に毟ってきてやったのだ。食えないからフランは全然興味がないみたいだったけど、ガムドに高値で売れたのである。

防具に使ってもいいが、寝具に使うと超高級品になるそうだ。なんでも静電気が一切起きないように加工できるらしい。いや、確かに凄いかもしれんけど、それに100万ゴルドとか出す王侯貴族、理解できんぜ……。

その後、すぐにでもウルムットへと旅立つつもりだったんだが、そこでちょっとした問題が起こって足止めされることとなってしまった。

昨年、バルボラで起きた事件の時、フランたちの活躍によって悪事が暴かれ、潰された商会がある。

領主の次男で、クーデターを企てていたブルックの傘下にあったトルマイオ商会と、その暗部であるイースラ商会だ。

共に消滅したはずなのだが、その構成員の生き残りがバルボラに潜み、フランへの恨みを募らせていたのである。

彼らは複数の暗殺者を雇い、フランを付け狙ってきた。

まあ、暗殺者たちを瞬殺し、構成員も捕まえてやったけどね。襲われてから半日くらいだろうか?

逃走しようとした奴らもいたが、ウルシの鼻からは逃れられないのだ。

ただ、事情聴取に時間を取られ、数日滞在を延ばす羽目になってしまった。暗殺者たちを倒すときに、ちょっとだけ派手目に戦ってしまったのが悪かったのだろう。

結局、俺たちがバルボラを出発したのは、当初の予定から10日も経ってからであった。

道中でも色々とあったけど、それは置いておこう。

今の俺たちにはもっと大きな問題があるのだ。

「やあ、よく来てくれたね。フラン君、師匠君」

「ん」

『久しぶりだな』

当然ながら、ウルムットに到着した俺たちは、ギルドマスターであるディアスに挨拶にやってきていた。

知らない仲ではないし、フランはもうランクB冒険者だ。ギルドマスターに顔を見せるのはおかしいことではないどころか、当然のことだろう。

だが、できれば今回は顔を合わせたくはなかった。まあ、ウルムットにきておいてディアスを避けられるとは思ってはいなかったけどさ。

「どうしたんだい? 神妙な顔をしちゃって。君らしくない」

「ゼロスリードのことで、話がある」

「……ほほう?」

そうなのだ。ディアスを前にして、ゼロスリードのことを隠しておくわけにはいかなかった。黙っていればばれないかもしれない。

だが、ゼロスリードと出会っておきながら許すという選択肢を取ったフランにとって、これはけじめであるらしい。頑として譲らなかった。

ディアスは未だにゼロスリードへの恨みを忘れていないようだ。名前を聞いただけで、雰囲気が変わってしまった。

「ゼロスリードを見付けた」

「本当かい?」

「ん。それで、見逃した」

「へぇ……?」

ディアスの笑顔が今は怖い! フランはよく普段通りでいられるな!

表面上は笑っている。だが、その内面では暗い感情が渦巻いているのだろう。

「理由を聞いてもいいかな?」

「ん」

そして、フランは語った。ある場所でゼロスリードを発見し、殺しかけ、その後奴を見逃すまでの話を。

全部は語らない。ゼロスリードの居場所を教えたら、今から殺しにいきそうだからな。それに、ウィーナレーンの事情も、軽々と口にしていいことじゃないだろう。

「つまり、大きな依頼の中で彼の力を借り、その借りを返すために見逃したってことかい? それとも、そのロミオっていう子供に絆されたのかな?」

「……正解じゃないけど、そんな感じ」

そもそも、フランも完全に自分の気持ちが分かっているわけじゃないからな。

「ふむ……。それで? 僕にもゼロスリードを見逃せということかい?」

ディアスが感情を感じさせない目で、フランをジッと見つめた。睨んでいるわけでもないんだが、凄まじい圧迫感がある。

嘘も誤魔化しも許されない雰囲気だ。

だが、次のフランの言葉は、俺にもディアスにも予想外であった。

「なんで?」

「え? 僕にゼロスリードを見逃せって言いにきたんじゃないのかい?」

「違う」

フランがディアスの言葉を否定する。俺もてっきりゼロスリードを許すように説得するんだとばかり思っていたが、どうやら勘違いだったらしい。

「ゼロスリードを見逃したのは私の決断。ディアスには関係ない」

「……ふむ」

「もちろん、ディアスにもゼロスリードを殺すのを諦めてほしい。でも、ディアスの気持ちはディアスのものだから」

『だが、それだと、2人が戦うことになるかもしれないんだぞ? いいのか?』

「よくはないけど、仕方ない。ゼロスリードのやったことがなくなったわけじゃない」

そこまで語り、今度はフランがディアスを見つめた。

「だから、ディアスがゼロスリードを追うのを、私は止められない。でも――」

「でも?」

「私がゼロスリードたちを守ろうとするのも、ディアスは止められない」

「フラン君……」

「ごめんなさい」

呆然と呟くディアスに、フランが深々と頭を下げた。ディアスに裏切り者とののしられる覚悟をしているんだろう。

しかし、今度はフランが驚く番であった。

「……謝ることはない」

「?」

不思議と穏やかな表情で口を開いたディアスに、フランが首を傾げる。

「もともとキアラの遺言で、仇討ちなんて下らないことはするなって言われていたんだ。むしろ、それに背こうとしていた僕こそ怒られなきゃいけなかったんだ」

「ディアス……」

「でも、少し気持ちの整理がしたい。済まないが、今日は帰ってくれるかい?」

「ん……」

「……ごめんよ」