軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

679 女の素性

「お疲れ」

「いやー、忙しかったなぁ!」

「もうへとへとですー」

料理コンテスト終了後。

俺たちは料理ギルドが主催する打ち上げ立食パーティに出席していた。

パーティといっても料理人や商人が主催の、懇親会に近い催しだ。貴族の姿はチラホラあるが、気さくな感じで料理人と普通に話をしている。そういう人物でないと、こんな無礼講の集まりには参加しないんだろう。

フランたちは賄いを食べた直後であるというのに、今も大量の料理を食べまくっている。フラン、コルベルト、リディア、マイア、ジュディス、それぞれの前に大盛の皿が数枚置かれている状況だ。

有名料理人たちが料理を用意したとあって、どれも絶品であるらしい。

フランも頼まれたから、俺が作った料理を提供しているぞ? すでに完売したみたいだが、カレーパウダーを振って焼いた魚である。フィッシュカレー風を意識してみた。

今は肉のカレーが主流だけど、シーフードカレーも良いものであると分かってくれただろう。

実際、多くの料理人が俺の料理を前にして、熱い議論を交わしていた。

次にきた時はきっと魚介を使ったカレー料理が増えているに違いない。

「フランさん。お久しぶりですね」

「フェルムス」

「今回の料理も素晴らしい物でした」

「そっちも。すごくおいしかった」

そこに挨拶にやってきたのが、竜膳屋のフェルムスだ。相変わらず若々しい。

年齢は何倍も離れているが、フランにとっては経験豊富で強く、美味しい料理を作れるうえに優しいお爺ちゃんだ。フランとフェルムスの話はそれなりに弾む。

無口なフラン相手に、それなりでも楽しく会話ができるフェルムスって凄いよね。

「フェルムスさん。優勝おめでとうございます」

「いやいや、カレーという新しい料理のおかげさ」

そこにコルベルトも加わって、今日の屋台の話になる。

「貴族から勧誘されていましたけど、宮廷料理人になるんですか?」

「ははは! 今のところその予定はないね。多くの人に食べてもらうことが好きだし、料理以外の仕事をさせられることも分かりきっているから」

「なるほど。フェルムスさんを雇ったら、戦闘方面に活躍してもらいたくなるでしょうね」

このコンテストに参加している料理人の多くは、優勝して貴族のお抱えになることを夢見ているらしいが、フェルムスは全ての話を断ったらしい。

確かに、フェルムスが手元に居たら料理以外の仕事をさせたくなるのが人情だろう。それが分かっているからこそ、フェルムスは市井の料理人に拘っているらしい。

そもそもフェルムスにとっては、名誉も富も今さらなんだろう。

「そういえば、かなり強そうな女性がいたのですが、そちらはどうでした?」

「赤い髪の女」

「そうです。久々に戦いたくないと思うような、強者の気配を発する相手でした。それこそ、以前フランさんに出会った時以来かもしれません」

「強かった」

「間違いなく」

フランとフェルムスの意見がこれだけ一致しているのだ、間違いないだろう。

「俺はちょうど休憩に行っていて、その女を見ていないんですよ」

「赤いザンバラ髪の、背の高い女性です。普段着が不自然過ぎて、逆に目を引きました。赤茶色の目でこちらを睨むように見ていましたね」

フェルムスすげぇ。そこまで覚えてるのか。俺たちはその強さと赤い髪くらいしか見てなかったぞ。

「野性的というよりは、ヤクザ的と言った方がいいかもしれません。自らの内の狂暴性を本能と知性で飼いならすことができているタイプです」

確かにそうかもしれない。あの女性の態度は、確実にわざとだった。

強い相手を見て興奮して喧嘩腰になったのではなく、最初から相手の反応を見るために物騒な気配を放っていたのだ。理由は分からないが、フランの品定めをしていたのかもしれない。

戦闘狂の匂いがあったし、ただ単にフランの実力を知りたかっただけかもしれないが。それでも最後は驚くほどあっさり引いたあたり、ただの戦闘狂とは違っている。

「一緒にいた男性も相当なものでしたよ」

「……いた?」

まあ、あの時のフランは女性に対して集中していたしな。それに、赤髪の女に比べたら目立たなかったことは確かである。

「はい。金髪をオールバックにした、女性よりも頭一つ分ほど背の高い骨太な男性です。よい筋肉の付き方をしていました。多少着ぶくれしていましたが、間違いなく戦士の体でしたよ」

「へぇ」

「ニヤケ顔とでもいうのでしょうかね? ずっと口の端で笑っているような感じでした。夜の女性にはモテそうなタイプでしょう」

「強そうだった?」

「それなりには。女性ほどではないですがね。ただ、あの女性の放つ気配を浴びても態度を全く変えないところを見るに、かなり胆力がありそうです。いざ戦闘になれば、厄介な相手でしょうねぇ」

「ほほう」

フランはフェルムスの評価を聞いて、男にも興味を持ったらしい。なんとか男のことを思い出そうと、腕を組んでウンウンと唸り始めた。

しかし、思い出すことはできない。

何度か会話したことがある相手だって忘れるんだぞ? こう言っちゃなんだが、思い出せるはずがないと思う。

(師匠は覚えてる?)

『ああ。顔も分かるから、次に会った時には教えてやる』

(ん。おねがい)

それにしても、フェルムスもコルベルトも、あの女性の素性を知らないようだな。

「コルベルト、誰か分からない?」

「あー、そうなんだよ。直接見たわけじゃないが、かなり目立つ風貌なんだろ? そんな冒険者の心当たり、ないんだよ」

コルベルトが知らないってことは、バルボラで活動している冒険者ではないだろう。

「この近隣の冒険者でもないでしょう。あれだけ腕の立ちそうな女性です。噂にならないはずがない」

「なるほど」

「まあ、この時期だし、国外の冒険者なのかもな。バルボラからウルムットっていうルートは、国外からきた人間の黄金ルートだし」

バルボラ目当ての観光客も、有名なウルムットの武闘大会を見たいと思うだろう。逆に、武闘大会の参加者も、せっかくクランゼルにきたんだからとバルボラに立ち寄る場合も多いらしい。

「国外の冒険者が有名な冒険者に絡むのはよくあることだしなぁ」

「そうなの?」

「そうだね」

まあ、そこは冒険者だし、ヤンチャなやつも多いんだろう。

「それに、前回の入賞者である私やフランさんの品定めに来るのは、当たり前と言えば当たり前だろう?」

「ん。確かに」

ということは、あの女は武闘大会の参加者ってことか? 強敵出現だな。