軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

644 2つの傷

「剣神化!」

フランがそう叫んだ直後、レーンによる精神だけの超加速が解かれ、周囲の景色が川の濁流のように一気に流れ出した。

『くっ』

分かっていたが、感覚のズレが凄まじい!

静止して見えていた状態からの、凄まじい超加速。直後には、無数の口が体表に浮かび上がった大魔獣の醜い肉体が、視界の前に大写しにされている。

衝突――しない。

フランはやり切った。

感覚のズレを瞬時に修正し、剣神化、潜在能力解放、破邪顕正等々、俺たちの持てるすべてが乗った最高の一撃を、見事繰り出してみせたのだ。

わずかに狙いよりも右にずれたが、そこは仕方ないだろう。

「はぁぁ!」

『らぁぁ!』

俺の剣身を駆け巡る凄まじい力の奔流が、大魔獣へと解き放たれる。

だが、自らが大魔獣を切り裂く感触など覚える間もなく、俺は斬撃とほぼ同時のタイミングで潜在能力解放などの強化スキルを解除し、転移を発動した。

それくらいでないと、転移による脱出が間に合わないのだ。

しかし、僅かに残る何かを斬った感覚。それが、攻撃の成功を物語っている。

『どうだ?』

「……ん」

大魔獣と衝突寸前に上空へと転移した俺たちは、そこで凄まじい光景を目にした。

『成功したか……。シエラも』

「ん」

大魔獣に巨大な傷が2つ穿たれていた。縦に平行に走る、2本の斬撃痕。

大魔獣から感じられる存在感が、数段下がったのが分かる。俺たちの攻撃は、確実に大きなダメージを残したようだった。

1つは俺たちの斬撃によってつけられたものだ。そしてもう1つは――。

「シエラ」

眼下では、シエラが魔剣ゼロスリードを振り上げた格好のまま固まっていた。いや、残心なのか? すぐに、ゆっくりとゼロスリードを下ろし、軽く息を吐いている。

ともかく、もう1つの傷はシエラの斬り上げによってつけられたもので間違いないようだった。

『シエラの攻撃。俺たちの渾身の一撃とほとんど変わらない威力があったみたいだな……』

「ん」

まじかよ。こうやって傷が並んでいるからこそよく分かる。傷の幅、深さ、どちらもほとんど同じだった。

『いや、俺たちの攻撃は神属性だ。傷の治りが遅いはず!』

そう思ってたんだけどな……。

「しぃぃぃたぁぁがぁぁえぇ……」

「再生、はじまらない」

『あっちの傷もか?』

どうやら、傷口を邪気が侵食し、再生を阻害しているようだった。

多少体勢を崩したとはいえまさかほぼ同等の威力の攻撃を繰り出されるとは思ってもいなかったぜ。

複雑な表情でシエラを見ていると、その場で崩れ落ちるのが見えた。全身を黒い邪気が覆い尽くしている。

シエラの状態、結構ヤバいんじゃないか? ゼロスリードが大慌てで抱きかかえている。完全に意識がないようだ。

ゼロスリード自身も、大魔獣の光線を受け止め続けていたせいでボロボロだが、シエラに振りかかった反動はそれ以上なのだろう。

まあ、俺たちも人の心配をしている場合ではないが。

「……むぅ」

『フラン、どうだ?』

「……ちょっと、きつい……」

『そうか……実は俺も……』

「ん……」

浮遊スキルがなければ、俺たちもとっくに湖面へと落下していただろう。それくらい、反動が酷かった。生命魔術や神気操作を使っても、これほどの状態だ。

無かったらと思うと、冷や汗が出る。

「師匠、やっぱり治らない?」

『ああ、神気の影響に加え、潜在能力解放も使っちまったからな。耐久値が全然回復してくれないぜ……』

耐久値は残り100を切っていた。本当にしばらくの間、俺はポンコツ状態だろう。

今回、潜在能力解放で消費した魔石値は5000くらいかな? まあ、そのおかげであっちとの接続もできたみたいだし、後悔はないけどさ。

「オン!」

「ウルシ」

ウルシがヒョコヒョコと前足を引きずりながら、俺たちに駆け寄ってくる。

俺たちの中だと、前足がへし折れているだけのウルシが一番マシな状態だった。

「今治してあげる」

「オフ」

『ウルシ、しばらくはお前が頼りだ』

俺もフランも、傷の治りが極端に遅い。今の状態ではまともに戦闘もできなかった。

「オン!」

「おねがい」

『とりあえず、シエラたちと合流するぞ』

「いえ。いますぐここから、離脱しなさい……」

『レーン?』

どこだ? 声だけが聞こえたが……。手に入れたばかりの精霊察知を使っても、どこにいるのか分からない。

「ちょっと、実体を維持できないだけよ。なんとか、声だけ届けてるの……」

「あっちとこっちを繋げたせい?」

「他にも色々ね……。未来を視過ぎた、その代償よ……。それよりも、ここから離れて……」

何があるのか分からないが、苦し気なレーンにこれ以上喋らせるのは気が引けた。

そんな状態でもわざわざそう告げると言うことは、本当に離脱しなくてはならない状況なのだろう。

「ウルシ」

「オン!」

俺たちは状況確認もそこそこに、その場を逃げ出すことにしたのだった。