軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

620 飢えた大魔獣

吸収できた魔石値は60ほど。ギリギリ、ランクアップ達成である。

この短期間でランクアップできるとは思ってもいなかった。

俺の中のフェンリルさんが弱っているせいで、魔石値の溜まりが非常に遅かったからな。

あの、大魔獣の封印を破るために設置してあった魔石兵器のおかげだろう。今の俺でさえ、あれ1つで500以上は確実に得られていた。

溜まった自己進化ポイントは60。こっちも少ないが、仕方ない。アナウンスさんのお言葉を信じるなら、次の進化からは正常に戻るはずなのだ。

『フラン! 待たせた!』

分体を消して、フランの下に戻る。

「ウルシ、きて!」

「オン!」

『よし! 一気に薙ぎ払う! フランは脱出に全力を注げ!』

「わかった」

この触手、魔術であれば破壊は可能だ。だったら、広範囲の触手を一瞬で薙ぎ払えば、脱出する隙は稼げるはずだった。

俺は、持てる最大の魔術であるカンナカムイを多重起動させようとして――愕然とした。

『ぬなっ! こりゃあ……』

(師匠?)

『術式が全く安定しない!』

時空魔術を乱されるのかと思ったが、違っていたらしい。多分、一定以上の魔力を使おうとした場合、ナニかが妨害してくるようだ。

明らかに外部からの干渉によって、構築したカンナカムイの術式が歪んでいくのが分かった。これでは発動しない。

どうする? もっと瞬間的に放てるような弱い呪文を何十発も連打するか? だが、それでは威力が不足している。とてもではないが、無数の触手をどうにかできるとは思えない。

俺がほんの数瞬悩んでいると、ゼライセから魔力が発せられるのが分かった。

「おおお!」

『これは……障壁か!』

「さっさとやれぇ!」

ゼライセがこちらに向かって投げ付けたのは、膨大な魔力を内包した魔石兵器だった。この障壁、凄いぞ。触手はおろか、謎の妨害まで防いでいる。術式が一気に安定したのだ。

奴が自分で使わなかった理由は、瞬きのような時間触手を防いだところで、脱出する手段がないんだろう。

本来であれば、相手の大規模な術などを一瞬だけ防ぐような道具なのだ。しかし、今の俺にはその一瞬で十分だ。

『おおおぉぉぉっ! ぶっとべぇ!』

俺はカンナカムイを一気に起動した。あえて収束率を下げることで、範囲を拡大して。

「ちょ、僕まで――」

結果、六本のカンナカムイが四方八方に放たれ、辺り一帯が白い雷に飲み込まれた。

『今だ!』

「ん!」

小型化したウルシを抱いたフランは、最後の力を振り絞って一気に空を駆け抜けた。

途中からは俺に乗って念動エアライドだ。弾ける雷光と爆炎の中を、障壁を纏って強引に突っ切り、グングンと上昇していく。

眼下を見れば、神殿のあった場所は水蒸気に覆われ、まともに見通すことができなかった。その水蒸気が帯電して、バチバチと音が鳴っているのが聞こえる。

ゼライセも巻き込まれたはずだが、どうなっただろうか?

助かるかもしれないとは言ったが、助けるとは明言していない。むしろ、巻き込むつもりで放ったが……。逃げたかな? まあ、あいつがアレで死んだとも思えなかった。

悪人との約束なんざ守る必要を感じないが、今は探して追いかけるような余裕はない。結果として、見逃すという約束は守られてしまった形だな。

『このまま神殿からとにかく離れるぞ』

「ん!」

「オフ!」

俺とウルシは全速力で逃走を始める。

先程まで俺たちがいた場所から、凄まじい魔力が漏れ始めていた。すでに何百メートルも離れたはずなのに、俺もフランもウルシも、全く安心できていないのだ。

フランもウルシも、全身の毛が逆立っている。フランにいたっては冷や汗が止まらないようだ。

俺は俺で、全身を包み込む凄まじい圧迫感に襲われていた。どれだけ離れても収まらない。むしろ強くなっている気がする。

『敵意や悪意って感じでもないが……』

「怖い」

「オン……」

「私たちを食べたがってる」

「クゥン」

そうだ。これは、飢えだ。

恐ろしいほどの飢餓感が、この気配からは感じられた。フランやウルシだけではなく、俺でさえも餌として認識されている。

『しかも邪気が混じってやがる』

「ん……」

「オン……」

大魔獣の中には、本当に邪神の欠片も混じっているらしい。周辺に漏れ出す魔力に混じった邪気はかなり強かった。ゼロスリードやミューレリアに比べても、勝るとも劣らない。

「ウィーナレーンのとこにいく」

『おう。そうだな』

俺たちはレーンに言われた通り、ウィーナレーンの下を目指すことにした。

なぜレーンが大魔獣の封印を解いたのかも分からない。そもそも、本当にレーンが封印を解いたのか?

その疑問の答えを得るためにも、ウィーナレーンに会わなくてはならない。

『さすがに、これだけ離れれば影響は少ないか』

「でも、まだちょっとピリピリする」

「オン」

すでに2キロ以上は離れたと思うが、フランとウルシは未だに何か不穏な気配を感じ取っているらしい。

改めて大魔獣が尋常な存在ではないと理解したその時、背後を振り返っていたフランが息をのんだ。

「!」

同時に、フランの驚愕の想いが伝わってくる。

「師匠、あれ……」

『まじか……! なるほど、大魔獣だな!』

俺たちの視線の先では、湖を割って姿を現す、巨大な何かがいた。この距離では鑑定は届かないし、強さを完璧に推し量ることもできない。

だが、その巨大さだけは見れば分かる。今の状態でも、全長100メートル以上はあるだろう。

ミドガルズオルムは細長かった分、大きいというよりは長い印象だった。それに、海中にいたので全貌も見えていなかった。

そのせいなのか、こっちの大魔獣の方がより大きく感じられてしまう。完全復活したら、どれほどの大きさになるのかも分からない。

「グルオオオォウゥゥゥ!」

野太い咆哮をあげる、灰色のナニか。

その体は今も不気味な蠕動と肥大化を繰り返しており、全貌は掴めない。ただ1つだけ分かるのは、あれを野放しにすれば、多くの被害が出るであろうということだけだった。