軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

610 シエラとロミオの関係

レーンから先に行くことを思い留まるように言われた俺は、フランの下に戻っていた。

まだ遊んでいるから大丈夫だと言っていたが、ゼライセの気分次第なんて、この世で最も信用性がない。

できるだけ早く、シエラに話を聞き、ウィーナレーンに救援を求めるべきだろう。

「じゃあ、シエラに話きく?」

『ああ。それがいいだろう。どう考えても、シエラは何かの事情を知っている』

そもそも、さっきだってあの疑似狂信剣のことがなければ、何かを聞きだせていたはずなのだ。

「もう少し」

『向こうも近づいてきてくれてるな』

かなりの距離を移動してしまっていたが、互いが互いを目指して進んでいる。この分ならすぐに合流できるだろう。

「ウルシ、ダッシュ!」

「オン!」

それからすぐにシエラとは合流できた。ただ、向こうは疲労困憊である。

「はぁはぁ……あの、剣は……」

「逃げた」

「そう……か……」

シエラがこのまま水上を走り続けることは難しそうだ。魔力も体力も、かなりきつそうである。それでもゼライセに関係していそうなことだったので、無理をして走ってきてしまったのだろう。

即座に溺れてしまうことはなさそうだが、休憩は必要そうだ。

俺たちは近くに見えている島に移動することにした。島と言っても、直径10メートルほどの岩塊であるが。

その上に降り立つと、シエラは脱力して思わず座り込んでしまった。どうやら疲労と見栄を天秤にかけて、フランの前で醜態を晒すのを許容できる程度には気を許してくれたらしい。

数分待ち、シエラの息が整ったところでフランが口を開いた。

「あなたが知ってること、全部話して」

「……」

どこから質問をすればいいのか分からなかったので、とりあえず全部喋ってもらうことにした。シエラの正体とか、彼の知っているゼライセの情報とか、その辺を諸々知りたいのだ。

数秒ほど黙っていたシエラは、おもむろに口を開く。

「お前は、時を越えることは、可能だと思うか?」

「とき?」

「ああ」

「……むぅ?」

フランがしばし黙考し、首を傾げた。時を越えるという言葉の意味が、いまいち分からないのだろう。

「今のお前が何らかの力の影響で、突然過去に行ってしまう。それはあり得ると思うか?」

「無理」

「本当に?」

「神様の力とかがない限りは、無理」

「そうだな。だが、意外となんとかなるらしい。何せ、3人も経験者がいる」

そうか! そういうことか!

フランが首をひねるが、シエラの言葉を聞いて俺にはある程度の事態が理解できた。

未来から過去にタイムスリップしてきたと考えれば、ロミオが2人いることも理解できる!

フランにも簡単に説明してやる。それで、フランも何となくは理解できたらしい。

「じゃあ、お前は時を越えたロミオ?」

「そうだ。今の幼いロミオが8年前に戻り、成長した姿が俺だ」

大人になったロミオが時を越えたのではなく、幼いままこちらにきて、成長したらしい。

つまり、これが『前』の意味だったのだろう。フランに説明しておいてなんだが、にわかには信じられない。だって、タイムスリップだぞ?

「なるほど」

「信じる、のか?」

だが、フランは普通に納得したらしい。

「目がソックリ」

「目?」

そういえば、前も言っていたな。ロミオがフランを睨む目と、シエラの目がそっくりだったと。

シエラ当人はいまいち納得できていないようだ。まあ、目なんて言われてもな。唸りながら自分の目元を撫でている。

しかし、信じてもらえたのだからそれでいいかと、とりあえず納得しておくことにしたらしい。

「まあ、信じてもらえたのであれば、構わない」

「なにがあった?」

「……俺にとっては、8年前。お前らにとっては、今……。俺の知っている歴史とはかなり違ってきているから、もう前と同じことが起きることはないだろうが」

シエラが彼の身に起こったことを、自身も思い出し直すように、ゆっくりと順番に語ってくれた。

彼らにとっての8年前。

その時もロミオとゼロスリードはこの国へと逃れてきていたらしい。だが、今のロミオたちと前の彼らでは、そこから辿る道筋が大きく変わっていた。

前のロミオたちは、この国でゼライセに捕まってしまったのだという。ゼロスリードほどの強さがあれば、おいそれと捕まることなどないと思うんだがな。

「俺を人質に取られたんだ……」

そのせいでゼロスリードはゼライセの言いなりとなり、様々な人体実験の被験体となってしまったという。

「人体実験?」

「魔石や、疑似狂信剣を体に埋め込まれ、様々な薬品を投与された。幼かった俺は、変貌していくおじさんの姿を見てることしかできなかった」

おじさんね……。前の世界でも、ロミオとゼロスリードの関係は良好であったらしい。それにしても、捕まって人体実験か……。学院で保護されていたロミオたちは、そんなこと言っていなかったよな?

「こっちのロミオたちとは違う?」

「俺たちが、そうなるように誘導したからな」

前の世界ではベリオス王国の冒険者やウィーナレーンから逃げ回り、結局ゼライセに捕らえられてしまった。だが、こっちではシエラがあえてロミオたちの情報を冒険者ギルドにリークし、早々に捕縛されるように仕向けたのだ。

「ウィーナレーンが前の俺たちを即座に殺さないことは分かっていた。だったら、ゼライセに弄ばれるよりは遥かにましだ」

「なるほど」

前のロミオたちはその後、ゼライセによっていいように使われ続けた。ただし、ロミオだけはウィーナレーンに保護されたらしい。

大魔獣の封印について調べていたゼライセがウィーナレーンに存在を察知され、アジトを急襲されたのだ。

「そこで、俺は自らの血筋と、その血に眠る力を教えられた。俺が、知らぬ間におじさんを縛り付けていたこともな……」

しかし、ロミオがウィーナレーンに保護されて数日後。事態は急変する。ゼライセが大魔獣の復活を狙い、その封印の地に現れたのである。

その阻止に動いたのがウィーナレーンと、彼女に雇われていたフランだった。

ゼロスリードを仇と付け狙っていたフランは、その姿を前にすると周囲の制止も聞かずに襲いかかる。その激しい戦闘の余波で、商業船団は壊滅したそうだ。

そこは、レーンが言っていた言葉に合致している。俺が剣に成り果て、フランを制止する者がいなかったのだろう。いや、止めることができそうな存在が1人いたな。

「ウィーナレーンは私を止めなかった?」

「商業船団を見捨ててでも、邪魔者であるおじさんを抑えることを優先したんだ」

フランがゼロスリードを抑えている間に、ウィーナレーンは復活し始めていた大魔獣を再封印しようとしたらしい。ロミオの命を犠牲にして。

「マグノリアの力を使えば、邪人の力を吸収することができる。本来はそのまま使用者の力となるが、ウィーナレーンは特殊な使い方をしようとしたんだ」

マグノリア家の血に秘められた、邪神の聖餐の力。その力で大魔獣の中に取り込まれている邪神の欠片の力を吸収し、吸収された力を使って大規模な封印術式を使用する。

つまり、大魔獣を弱らせるとともに、その力を利用して大魔獣自身を封印するという方法だ。

「力を吸収するのがゴブリン程度であれば問題ない。しかし、あの時は相手が悪過ぎた。邪神の欠片から力を吸収し続け、その後さらに封印術式に流すパイプのような役目をさせられれば、幼いロミオは耐え切れずに死ぬ」

しかし、ウィーナレーンはそれでも儀式を止めようとはしなかった。どんな犠牲を払ってでも、大魔獣を封印するつもりだったのだろう。

「俺も、今であれば理解できる。責める気はない」

自らが生贄にされたというのに、シエラの声には本当に恨みの色がなかった。仕方がないことだと受け入れているらしい。

だが、ロミオの死を受け入れられない者もいる。ゼロスリードだ。なんとかロミオを助けようと足掻き、隙を見せたことでフランに斬り殺されてしまったのである。

「正直、その後のことは俺もよく覚えていない。おじさんを何とか助けようと思った途端、力が暴走して――」

気づいたら、一人きりで森の中に倒れていたらしい。

そこまで語ると、シエラが腰の剣を抜く。

「他には誰もいなかった。ただ、この剣が、俺の横に落ちていた」