軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

608 第3の技

疑似狂信剣が透過能力を発動しながら高速で逃げ続ける。もうこっちの攻撃は全てこの謎能力ですり抜け、時空魔術だけを回避することにしたらしい。

この能力の最大の特徴は勿論攻撃が当たらないことだが、もうひとつ厄介な点があった。

それは、気配などが全て無くなってしまうので、向こうの消耗度が分からないのだ。

魔力の減り方などが分かれば、この状態がいつ解けるか、どれほどの負担なのか、理解できる。

しかしそれらの情報が全て遮断されているせいで、相手が後どれくらいの時間透過能力を維持できるのかが予想できなかった。

神属性ならばあの防御を突破できるだろうが、先程の剣神化で俺はボロボロだ。しばらくは使えない。

ならばと、ウルシが転移して一気に仕留めようとしたんだが――。

ボゴオォン!

「ギャン!」

火炎魔術による手痛いカウンターを食らっていた。咬みつこうとした瞬間、口の中に爆炎を発生させられ、慌てて飛び退くウルシ。

今まで一切攻撃してこなかったので、あれほど強力な魔術を放ってくるとは思っていなかったのだろう。

それに、魔力の流れが読めないせいで、相手が魔術を放つタイミングも計れない。

だが、今の攻撃は無駄ではなかったぞ。

攻撃の瞬間、剣の気配が確かに感じられた。すぐにまた気配が消失してしまったが、どうやらこっちに攻撃を仕掛けてくる時は透過状態を解除しないといけないらしい。

「ウルシ大丈夫?」

「オン!」

口の周りの毛が少しだけ焦げているが、ウルシにとっては大したダメージではない。それこそ、人間が熱いスープを勢いよく飲んでしまったくらいだろう。

ダメージではなく、驚きで思わず飛び退いてしまったのだ。ウルシがちょっと恥ずかしそうなのも、そのせいだろう。

『だが、今の一瞬で奴の魔力が計れた』

「どんな感じ?」

『魔力は残り半分程度だ』

湖底で動き出した直後と比べれば、その魔力は半減していた。やはりあの透過能力を使うにはそれなりに代償が必要なのだ。

「もっといく!」

『おう!』

「オン!」

『ウルシ、勢い込むのはいいが、調子に乗って失敗するなよ?』

「オ、オン!」

俺たちは再度攻撃を開始したんだが、結局同じ展開だ。向こうも、もうこちらを攻撃してくるようなことはなく、ただの追いかけっこになってしまっている。

(師匠、試したいことがある)

『ほう? どんなことだ?』

どうやら、フランが何かを思い付いたらしい。今の千日手状態を打開できる可能性があるのであれば、なんだってやってみるべきだろう。

ただ、確認しておかないといけないことがある。

『危険じゃないんだな?』

(……多分?)

それが重要だ。重要なのに、フランは首を傾げている。

『た、多分て! 何するつもりだ!』

(へいき。絶対危険じゃない。多分)

『だからっ! そこに多分ってつけられたら不安になるからっ!』

(だいじょぶ。それに、師匠がいれば、助けてもらえるから)

『ぐむぅ』

そう言われたら、反対し辛いじゃないか!

『わ、分かった。でも、危ないと判断したら、無理やりにでも止めるからな』

(それでいい)

『よし。じゃあ、やってみろ!』

「ん! 閃華迅雷!」

フランは再び黒雷を纏う。だが、すぐに攻撃に移ろうとはしなかった。

「ウルシ」

「オン!」

ウルシを呼び寄せると、その背中に飛び乗る。

「奴を追う」

「オン」

フランは追跡をウルシに任せると、瞳を閉じて意識を集中し始めた。魔力を体内で練り上げ、高めていく。

「ふぅ……」

完全に瞑想状態に入ってしまった。この状態で攻撃されたら、どうするつもりだ? いや、こんな時こそ、俺の出番だ。フランの信頼に応えねば。

「はぁぁ……」

フランが没入すればするほどに、外に漏れだしていた微々たる魔力でさえも、その内に収束していくのが分かった。

外側はまるで凪のような、僅かな乱れもない状態だ。しかし、その内の深い場所ではフランが練り上げた力が荒れ狂っている。

フランの顔が苦悶に歪む。自ら集中させた力を抑え込むだけでも、相当苦労しているのだろう。

俺は思わず声をかけそうになり、止めた。それで集中力を乱せば、フラン自身も危険だからだ。今は信じて見守るしかなかった。

そして、長い長い数分間が過ぎた頃。

「……ん!」

フランがその瞳をカッと見開き、力を解放した。

「黒雷転動!」

黒雷と化したフランがウルシの背から姿を消し、一瞬で疑似狂信剣の前に回り込む。

奴は時空魔術を感知する術を持っているが、黒雷転動には反応しきれていなかった。何せこっちは単なる高速移動だからな。

黒雷転動は転移ではなく、転移のように見えるほど速い、雷の速度での移動なのだ。だからこそ、これに反応するには物理的な察知能力が必要だった。

「はぁぁぁ!」

『こ、これは……!』

フランが振りかぶったのは俺ではない。フランが高々と突き上げたのは、何も握られていない左手だった。

しかし、魔力を感知できる者であれば、決して無手とは言わないだろう。まるで剣のような形状に放出された高密度の魔力が、フランの左手に握られていたのだ。

直後、その魔力が変質し、黒い雷が迸る。

フランの手の中に、黒雷で形作られた一振りの剣が生み出されていた。

「黒雷神爪!」

潜在能力解放状態でなければ使用できなかった、黒天虎の奥義である。神属性を纏う、黒い雷の剣だ。黒雷転動を操れるようになったフランでさえ、発動できずにいた技である。

どうやら、この土壇場で発動させることに成功した――。

「あ」

『え?』

フランが目の前の剣に向かって黒雷の剣を振り下ろそうとした、その瞬間だった。

黒雷の剣がグニャリと形を崩し、弾けるように消滅してしまう。周囲への余波が驚くほど少なかったのが救いか。微風と軽い電流程度だったようだ。

「……失敗」

『やっぱ、そう上手くはいかんか!』