軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

586 風土病の正体

さっそく、ロブレンに話を聞きにいくか。まあ、まずはウィーナレーンのところに戻ってレーンの屋台について報告するけどね。もう落ち着いただろう。

だが、お暇する前にジル婆さんに聞いておきたいことがあるのを思い出した。

「ねえ、緋水薬って、周りに何か影響がある?」

「どういうこったい?」

「昨日――」

モドキに襲われた船を助けた際、水魔術に多少の違和感があったことを説明し、その原因が緋水薬か、モドキの体液だったのではないかと説明する。

すると、ジル婆さんが納得するようにうなずいた。

「そうか……。嬢ちゃんクラスなら、感じ取れるかもしれん。多分、それは緋水薬の効果だろうよ」

「そうなの?」

「確か時空魔術を使っていたね?」

「ん」

「なら、敏感なのもうなずける」

そして、ジル婆さんが説明をしてくれた。

「この湖の水には、ほんの僅かに魔力が混じっている」

「魔力?」

「ああ、時空系に近しい魔力なんだがね」

「ふーん。なんで?」

「さて、それはあたしらにも分からん。何百年も昔からそうだとしか言いようがないねぇ」

この辺の人間はそういうものだと思って生きているようで、疑問に思ったりはあまりしないらしい。

「もちろん、普通ではまったく感じ取れないほどの、ごくわずかなものだ。あんたも、分からなかっただろう」

「ん」

確かに、緋水薬のことがなければ、俺たちも気付くことはなかっただろう。その程度のごく微量の魔力であるようだ。

ただ、周囲に全く影響がないわけではなかった。それがこの国に根付く風土病だ。

病原菌などが原因ではなく、水源となっているヴィヴィアン湖の水を生まれた時から摂取し続けることが原因であるらしい。

実際、国内に僅かにある湖以外を水源にしている地域では、風土病は存在していないそうだ。

仕組みは単純だ。湖の水を飲み続けることで、体内に時空魔力が溜まってしまう。

結果、その魔力によってほんの少しだけ、ヘイストにかかったような状態になってしまうのだ。要は、湖の水が非常に効果の弱いヘイストポーションの役割を果たすわけだ。

ただ、効果が本当に僅かであるため、誰も気づかない。気付かないが故に、本人の感覚と、体の反応がずれ続けることで疲労が溜まり、さらに酔ったような状態になってしまう。それが風土病の正体だった。

大人がほとんど発症しないのは、一度発症すれば体が慣れて問題なくなるからだ。そもそも、発症せずに適応する者も多い。

また、どれだけ重度でも、風土病だけで死に至る者はいなかった。酷い車酔いみたいなものだからな。

それに、特効薬を摂取すればすぐに治る。それ故、この国の人間はこの風土病をそこまで重要視していなかった。

一生に一度だけ罹るかもしれない、死の危険がない麻疹のようなものだ。当然、他の病と併発したり、体調不良が原因の事故で亡くなる者はいるが、そこは風邪などでも変わらない。

「で、その特効薬にも、時空魔術系の魔力が宿っている」

ヴィヴィアン湖水系でのみ生育する緋水草は、その水に対する耐性があった。

簡単に言うと、茎には時空魔術を弾いて乱す効果があり、それで湖の水から身を守っている。

そしてその内部には、根から吸収した水に含まれる魔力を蓄積し、制御する力が備わっているらしい。

緋水草からそれらの効果を抽出することで、風土病の特効薬は作られているのだ。

この薬を飲むと、体にかかっているヘイスト効果がさらに強化される。その結果、感覚のズレを脳が自覚し、すぐにアジャストしてくれるのだ。

人間の体というのは凄いもので、一度アジャストする感覚を理解すれば、2度と酔わなくなるらしかった。

「時空魔術に適性がある奴の話だと、薬を飲んで強化されている状態でも、ヘイストの100分の1程度の効果だそうだよ」

だとしても、普段からヘイストを使い慣れているフランには、大きなズレとして感じられたのだろう。勝手に加速させられていたわけだ。

しかも操っている水自体にその魔力が込められていれば、なおさら普段通りとはいかない。

ただ、疑問も残る。

今の話を聞いた感じ、風土病は感染する類のものではない。それで、今年のように流行るということがあり得るのか?

毎年一定の患者が出るのは仕方ないにしても、急激に流行るといった理由が分からないんだが。

フランがそう尋ねると、ジル婆さんがいくつか理由を挙げていく。

「色々あるさ。まず、生まれる子供の数。戦争やら何やらの後で、子供が多めに生まれる年があるだろう?」

どうやらこっちの世界にもベビーブームがあるらしい。

「その子供たちがある程度育って一斉に風土病にかかれば、例年よりも患者が多いという事態になる」

それ以外にも、外国からの移民を受け入れた数年後などにも、患者が増えることがあるそうだ。結局、耐性のない人間が一気に増えることがあれば、それがきっかけになり得る。

「あとは気候にもよるねぇ。少し暖かくて霧が多く発生した年には、どうしても水が体内に入り込む量が増えちまう。それによって、患者が増えるのさ」

「なるほど」

「他にも、水を多く利用する新種の作物の流行や、新しい製法の酒の開発。ああ、水に溶かすタイプのお香が流行したことで患者が増えたなんてこともあったねぇ」

水というのは人の生活と切っても切り離せないものであるので、些細な理由が風土病患者の増減に繋がるのだ。

「じゃあ、今年はどんな理由で患者が増えてる?」

「さてね……? 流行ったあとに理由が判明することが多いし、アタシにゃ分からんよ。それこそ、ウィーナレーン様にでも聞くんだね」

冒険者ギルドの管轄ではないってことか。たしかに、病の流行る理由なんて、国や研究機関の担当だろう。

どうせこのあとウィーナレーンのところに戻るんだし、その時に聞いてみよう。