軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

574 校外での対面

出発初日の夜。

魔術学院の一行は、森林地帯の真ん中に切り開かれた大きな広場で野営を行っていた。

馬車を円形に並べて壁代わりにして、その中にテントを張る。護衛たちは交代制で休みつつ、馬車の外側を巡回する形だった。

その野営地の一角。

ウィーナレーンの天幕にフランは呼ばれていた。この一行の最大戦力2人が持ち場を離れて平気かと思ったので、一応ウルシは巡回に残してきたが、それはいらぬ世話だったらしい。

「精霊がいる」

『へえ? どこだ?』

「あの辺? あとあっちも」

『……わからんな。それだけか?』

「他にも何体かいる。たぶん」

『強そうか?』

「わかんない」

フランの精霊を感じる力は強くなっていても、まだ相手がどのような精霊なのかは判別できないようだ。

多分だが、宿の大樹に宿っていた精霊はそれなりに高位の精霊だったと思われる。エルフのおばあさんが「精霊様」と呼んでいたし、千年以上も昔から存在しているのだ。

だが、フランには学院の下級精霊と宿の精霊の区別が全くついていなかった。それが下級精霊なのか、上級精霊なのか。どんな属性や能力を持っているのか。その辺が全く分かっていなかった。

俺には精霊が全く感じられないのでフランの拙い説明で想像するしかないんだが、精霊が僅かに発する音のような物が聞こえる気がするらしい。それも、相当集中して初めて、耳鳴りっぽい物が聞こえるだけであるようだ。

その音の発せられる方向や間隔から、その辺に精霊がいるっぽいと判断しているという。

『ウィーナレーンの精霊か?』

「さあ? でも、同じところにずっといる」

やはり精霊魔術師の放った見張りであるらしい。しかも複数いるようだし、俺たちがいなくても大丈夫そうだった。

そもそも、毎年同じことをやっているわけで、フランがいる方がより護衛戦力が上がるというだけで、フランがいなくても問題はないってことだろう。

そのまま歩いてウィーナレーンの天幕に入ると、そこにいたのはハイエルフの魔術師だけではなかった。

「……ゼロスリード」

「……」

ウィーナレーンの後ろに置かれた椅子に、ゼロスリードが座っている。その傍らには、相変わらずフランを睨みつけるロミオ少年の姿もあった。

気配察知で分かっていたが、改めて対面するとやはり思うことはある。フランはギリッと歯を食いしばり、気持ちを抑えているようだ。まあ、殺気は大分漏れてしまっているが。

「幾ら力を封じているとはいえ、私のいない学院に置いてくるのもねぇ? 仕方ないから拘束して連れてきたのよ」

ウィーナレーンの言葉通り、ゼロスリードの両腕には金属製の腕輪が取り付けられ、腕の動きが封じられている。しかも、魔力封じの効果もあるようで、ゼロスリードの力がさらに抑えられている。

この状態で真横にウィーナレーンがいれば、そうそう悪さもできないだろう。

「……」

「……」

フランとロミオが睨み合う。

いや、フランは睨んでいるわけではないが、これだけ真っすぐ敵意を表されては、気にしないわけにはいかないらしい。

逆に、ゼロスリードはフランを見ても感情をほとんど露わにしなかった。一瞬、ビクッとしたものの、すぐに平静な顔に戻る。

何を言っても角が立つし、できるだけ関わらないことにしたのだろう。だが、フランはその態度が気にくわない。まあ、ゼロスリードの全てが気にくわないのだが。

苛立ちの籠った目で、ゼロスリードを睨みつける。さすがにもう激発することはないが、殺せるものなら今すぐにでも殺したい相手を前に、気持ちを抑えきることなどできるはずもないのだ。

その緊迫した空気を破ったのは、ゼロスリードの足にしがみ付き、フランを見上げているロミオだった。

「おじちゃんをいじめるな!」

「……虐めてない」

「うそだっ! 知ってるんだぞ!」

「……ふん」

フランも、さすがにロミオ相手に言い合いをすることはしない。ロミオが悪くないことは分かっているのだ。

それに、殺気と怒気を発する今のフランは、子供から見たら相当恐ろしい相手である。ゼロスリードを庇うためにそのフランに立ち向かおうとするロミオに、僅かながらに感心したらしい。

しかし、褒めるような場面でもない。

結局、どう対処していいのか分からないらしく、プイッとロミオから視線を外すと、ウィーナレーンに自分を呼びつけた理由を問いかける。

「何か用?」

「ええ。この先の護衛についてなのだけれど」

ゼロスリードやロミオと引き合わせることが目的かと思ったら、そうではなかったようだ。

ウィーナレーンがこの国の大雑把な地図を見せながら、先の地形を説明する。森林地帯の先には大型の魔獣が生息する平原が広がっているようだが、そこで生徒たちによる狩りを行うという。

ウィーナレーンがフランを呼んだ理由は、その打ち合わせであった。

「狙うのは、スロウトータス。硬くて強い魔獣だけど、その動きが非常に遅く、生徒たちでも何とか狩ることができる相手よ」

スロウトータスは、強敵が相手の場合はひたすら甲羅に籠ってやり過ごすタイプの草食魔獣である。遠距離攻撃の手段も乏しく、いくつかの攻撃にさえ気を付けていれば狩るのが比較的容易な魔獣だ。

脅威度Eだが、準備さえ整っていれば生徒でも倒すことはできそうだった。足止め用、防御用の魔道具があるらしいので、準備は万端と言えるだろう。

「私の役目は?」

「スロウトータス相手にやってもらうことはないわ。でも、スロウトータスの血の匂いを嗅ぎつければ、多くの魔獣が近寄ってくる。特にゴブリンは毎年現れるわ」

フランの役目は、そういった横取り狙いの魔獣の撃破だった。

「わかった」

「それと、この男も働かせるから」

「……なんで?」

「せっかく使える戦力があるのだから、生徒たちの安全のためには使うべきでしょう?」

「……わかった」

フランは反対とも賛成とも言わず、静かに頷いた。

『いいのか?』

(……分からない)

本人が返したとおり、フランにも自分の感情が理解できていないようだ。

生徒のためと言われたら、嫌だとは言えないのだろう。それに、強制労働とか肉壁役だと思えば、罰を与えているような気もする。フランの胸の内には否定と肯定が渦巻き、整理が付かないようだった。