軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

551 宿と寮

イネスによる案内が終わった後、次に向かっているのは敷地の中央付近にある三連の塔であった。

他の塔は離れて建てられているのだが、ここだけは基礎部分がくっつくように建てられ、上層階は連絡通路で繋がっている。

宿舎として使われている場所であるらしい。

「フラン殿を特戦クラスに紹介するのは明日の午後になります。その時間に先程の教官室まで来ていただきたいのですが、大丈夫ですか?」

「ん。わかった」

「ああ、そうだ。それと、寮などの部屋にお連れするようにと言われているので、このままご案内させていただきます」

寮まで用意してくれていたか。だが――。

「寮? 今、宿に泊まってる」

そうなのだ。しかも、フランは今泊まっている緑の古木亭がお気に入りである。

「寮であれば、安いですよ――って、フラン殿にはあまり関係ないですよね」

特にフランが重要視するのは、精霊に関することだろう。昨夜フランが感じた視線は、精霊の視線だと思われた。精霊魔術の修行には、宿の方が適している可能性もある。

ただ、魔術学院には精霊がたくさんいる。それならばこっちに泊まる方がいいだろうか?

「イネス、そこには精霊がたくさんいる?」

「え? 精霊ですか? うーん……。いることは知っていますが、見たことはないですね」

「1回も?」

「精霊術師があえて可視化するのでなければ、下級や中級精霊の本体は見えませんから。大精霊のような強大な力を持った存在だと、さすがに我々でも見えるという話ですよ」

「そうなの?」

「又聞きですけど」

それこそ、クリムトが鎮めたという大精霊。その姿は多くの人間に目撃されているらしい。

「まあ、学院の精霊はむしろ隠密性を重視していると思いますから、精霊魔術を使えない人間には他よりも見えにくいんじゃないでしょうか?」

だとすると、あまり精霊使いの修業にならない? いや、むしろ修業になる? 絶対にいることは確かなわけだし、それを感じようとすればいい修業になるのかもしれない。

「うーん」

「あと、寮ですと職場まですぐなので、便利ではあります。食事も出ますしね」

「食事?」

「オン?」

そこに食いついたか。まあ、フランたちにとっては重要だよね。

「え? ええ、毎日日替わりで食事が出ますよ」

予想以上の反応に、イネスが戸惑っている。ここまでは何を話しても淡白な対応だったのに、急に目を輝かせて聞き返したからな。フランとウルシに見つめられながら、ここ数日の献立を教えてくれた。

「朝は大体同じですが、昼、夜は毎日違いますね。量も多いですし」

「美味しい?」

「オン?」

「味ですか? わ、私はあまりその辺を気にしないので……。不味くはないですよ?」

少なくとも超美味しいとは言えなさそうだ。期待はできないかな? しかし、フランたちは食堂の料理が気になるらしい。

「食べたい。食べてから決める」

「食事で決めるのですか?」

「当然」

「オン」

「そ、そうですか……。今ならまだ昼食が食べられると思いますので、食堂に行ってみましょう」

「ん」

1000人規模が入れるメチャクチャ広い食堂があるらしい。ただ、そちらは生徒用で、教師用の食堂の方が落ち着いて食事ができるということだった。出されるメニューは同じであるそうだし、そっちでいいだろう。

「これで狭い?」

「生徒用はこの10倍ありますから」

教師用の食堂も、100人は食事ができる広さがあった。それなりに綺麗で、雰囲気は悪くない。

「少々お待ちください」

「ん」

イネスがカウンターに小走りに駆けて行った。そして、エプロンをつけたおばちゃんと何やら話している。

こちらを指差しているので、フランとウルシの話をしているのだろう。

「今日のメニューは、豆と挽肉のスープにサラダ、芋のチーズがけ、フィッシュパイ、フルーツです。苦手なものはありますか?」

「ない」

「では、少々お待ちください」

「大盛で」

「わかりました。あと、ウルシの分も用意してくれるそうですが、深皿に盛ればよろしいですか?」

「ん。そうして」

「オン」

そして、イネスによって食事が運ばれて来た。先程言われた通りの献立だ。大盛でと頼んだからか、スープと芋はイネスの倍近い量がある。

「スープと芋はおかわりできますよ」

見た目は悪くない。ただ、料理の匂いを嗅いだフランとウルシの表情は微妙だった。

下処理が甘く、調味料もそこまで多く使ってはいないのだろう。量も多いし、野菜類も豊富で栄養は摂れそうだが、味はそこそこなのかもしれない。

「いただきます」

「オン」

「もぐもぐ……」

「モムモム……」

『どうだ?』

微妙そうだ。2人の表情を見れば味も想像できるが、一応聞いてみた。

(普通……)

(オフ……)

不味くはないが、凄く美味しくもない。量は多いが、大量に食べたくもない。そんな感じであるらしい。

やはり学院の食事など、栄養が取れて、腹が満たされることが一番なのだろう。何千人分も作っているのだろうし、仕方ないとは思うけど。

「どうですか?」

「ん。寮には住まない」

「オン!」

「宿から通う」

キリッとした顔で宿を使うというフランとウルシに、イネスは戸惑っている。

内心では「たかが料理で?」と思っているのだろう。だが、フランにとっては最も重要な事であるのだ。

「わ、わかりました。では通行許可を出してもらいますので」

「お願い」

「オン」