軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

530 仔犬?

そして、すぐに3回目の集団戦が始まった。

『フラン、今度はもう少し手加減しよう。瞬殺ばかりだと、試験にもならんし』

(わかった)

そして、今度は陣形を組んで迎え撃とうとする冒険者たちの周りを、残像の発生する速さで回り始めた。

時おり低い天井を蹴って上を通り越したりもしながら、冒険者たちの肩を叩いて挑発をしたりもする。

「くそっ!」

「それは残像」

なにぃ! フラン、その台詞は飛ぶ影さんの……! いやー、いいもん聞けたわ。この冒険者には感謝しないと。お礼に、優しく倒されるように願っておいてやろう。

「そこだっ!」

「甘い」

「なっ! 指で俺の槍を……」

「陣形を崩すな!」

ガムシャラに攻撃をし始めた冒険者たちに対して、フランが段々と圧力を強めていく。速度をさらに上げ、残像すら残さないスピードで翻弄しつつ、時おり陣形の中に入り込んで背中をタッチしたりもする。

自分を一撃で倒せる相手に急に背中を叩かれるのだ。しかも耳元で「はい、死んだ」「背中ががら空き」などと呟かれて。そして、蒼白な顔で振り返ったときには誰もいない。冒険者たちにとってはホラーだろう。

(そろそろ終わらせる)

『どうする?』

(魔術への反応も見る。試験官だから)

ドヤ顔でそう呟くフラン。ああ、試験官だってことを忘れてなかったのね。

「じゃあ、終わらせるね。はぁぁぁ!」

「ま、魔術だ!」

「け、剣士なんじゃ――」

慄く冒険者たちに、多重起動したスタンボルトが襲い掛かった。固まっていた冒険者たちが青白い電撃に打ちのめされ、倒れ込む。

「す、凄まじいな。下位の魔術でも、使う者が違えばこうも違うという見本じゃぜ」

「そうだねぇ。ありゃあ、魔術師としても一流だ」

なんてギルマスたちが褒めてくれているんだが、俺は違うことが気になっていた。

『床、ちょっと焦げちゃったけど、あれくらいなら問題ないよね?』

泣いている冒険者たちを見てこれ以上は可哀そうかなって思ったんだが、ジル婆さんたちは容赦がなかった。冒険者を叩き起こして、再び模擬戦である。

だが、並んだ冒険者たちは一様に首を傾げている。

「あの、この仔犬と戦うのですか?」

「やだ~、可愛い~」

「バカ! あの子供の従魔だぞ! まともなわけがない!」

「た、確かに……」

「オン!」

「で、でもあんな小さいんだぞ?」

「だが……」

もうフランと戦わずに済むという安堵と、次の相手が仔犬サイズのウルシであるという事実で、完全に混乱しているようだった。

最初は少し大きめのサイズにしようかと思っていたが、仔犬サイズで影から出てきたウルシを見て、ジル婆さんがそのままでいいと言い出したのだ。

「サイズ変更できるとは……。やはり高位の魔獣なんだろうねぇ。でも、大きい奴に負けるよりも、小さいのに負ける方がショックがでかいだろう?」

「そうだぜ。今回は、獣型魔獣の強さを見るのと、天狗の鼻をへし折るのが目的だからな。あれで戦ってくれるなら有り難い」

「それとも、サイズで戦闘力が変化するタイプかい?」

「へいき」

「なら、それで頼むよ」

「わかった」

「オン!」

そして、ウルシと向き合う冒険者たちが戸惑いながらも陣形を整えた。

「仔犬だからといって侮るなよ!」

「は、はい!」

「魔術で先制攻撃をするわ!」

ランクEたちがリーダーとなり、ランクF冒険者も素直に従っている。この辺は、さすがにチームワークがよかった。

数人の冒険者から、水魔術が散発的に放たれると、それが合図となってウルシが動き出す。

「オーン!」

「なっ! はやぶべ!」

「ぐあ!」

水魔術を回避して接近したウルシによって、早速二人が吹き飛ばされた。ウルシは特別なことはしていない。ただ直線的に突っ込んで、前足で軽く撫でただけである。

あえて盾の上から攻撃してやったらしく、尻餅をついた冒険者たちは驚愕の表情でウルシを見ている。

「な、何だ今のは……?」

「短距離転移か?」

なんて言って彼らが戸惑っている間に、今度は本当に転移が使用された。瞬時に背後に移動したウルシによって、冒険者たちが押し飛ばされる。

しばらくウルシによる攻撃が続いたが。未だにリタイアした冒険者はいなかった。やはり、すぐに終わらせるつもりはないらしい。強さを見せつけろと言われているからだろう。

ただ、冒険者たちのプライドはもう十分にズタズタな気がするけどね。だって、仔犬にしか見えない相手に一方的にやられているんだぞ?

ウルシも、そろそろいいかと思い始めたらしい。というか、メッチャ怯えた目で見られて、ちょっと傷ついたようだった。

「……オフ!」

「ま、魔術まで? なんだこれは!」

「か、影が絡みついて!」

「くそっ、はがれない!」

そこまで強い魔力は込めていないのだが、ほとんどの冒険者はウルシの魔術を振り払うことができないらしい。結局、拘束から逃れたのはランクEの2人だけであった。

「こ、こんな仔犬に負けてたまるかぁ!」

「あ、待ちなさい!」

男の冒険者が自棄になってウルシに突っ込んでいってしまう。恐怖に耐えられなかったようだ。この辺が、ガル爺さんが「甘い」と言う部分なのだろう。

「うおおお!」

「オン」

全霊を込めたであろう二段突きはウルシに掠ることもなく、あっさりと懐に潜り込まれる。そして、真下からかち上げるような頭突きによって舞い上げられ、天井に背を打ちつけていた。意識を失ったまま床に落ちてくるが、ランクE冒険者なら死にはせんだろう。

その後、最後まで残った女冒険者も水魔術を噛み砕かれた後に、前足で頬を張り飛ばされて意識を刈り取られていた。頬に肉球型の痣があるね。

「な、なんだよあの仔犬……」

「魔獣、だろ?」

「そりゃあ分かるが……怖っ!」

「確かに。あれと森で遭遇したら、絶対に勝てないんだけど」

どうやら依頼通り、獣型魔獣の怖さって奴は見せつけることができたらしい。ウルシはビビられてしまい、凹んでいるけどね。基本、人懐っこい奴だから。

「ウルシ、よくやった」

「オン!」

それでも、フランに抱きかかえられてワシャワシャと撫でられると、あっと言う間に機嫌を直していた。チョロイとは言うまい。それだけフランが好きってことなのだ。