軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51 その名はウルシ

フランが消えた。

クラッドの仲間が作動させた、転移の罠に巻き込まれて!

フランを巻き込んで転移した二人の武器も、俺と同じようにその場に残されている。持っていた槍だけではなく、短剣や投げナイフの類も全てだ。それに、フランが投擲用に装備していた、王蛇蝎の短剣も俺の横に落ちている。

「武器の強制解除だと?」

「ご丁寧に、予備武器まで置き去りだ」

踏んだ奴以外も巻き込む範囲系転移罠の話は事前に聞いていたが、装備武器の強制解除だって? そんなやばい罠があるなんて、事前の説明じゃ言ってなかったぞ! くそ、装備登録が外れてやがる! い、生きて……。いや、大丈夫だ。大丈夫なはずだ。

何か、何かないか? フランの居場所を探るには……。こんな事なら探知系のスキルをもっと鍛えておくべきだった!

「馬鹿な! そんな凶悪な罠、このダンジョンにあるなんて話、聞いたことがない!」

「高ランクダンジョン並みの罠じゃないか!」

クルスたちも驚愕していた。どうやら、彼らにとってもこの罠は青天の霹靂だったらしい。

「……心当たりがあるわ」

「何かご存じなのですか?」

「トリック・スパイダーの上位種であるトリックスター・スパイダーは、罠改造スキルを持っているはずよ」

罠改造スキル? ダンジョンにある罠を改造できるってことか? 厄介な魔獣だな! というか、トリック・スパイダーのさらなる上位種? やばいじゃないか。

「トリック・スパイダーに進化していることがすでにイレギュラーなのよ? トリックスター・スパイダーが居たとしても、おかしくはないわ」

「くっ。アイゼール、地図を!」

「もう確認しましたぜ。通常だったらこの先の小部屋に転移するだけのはずだ」

「行くわよ!」

アマンダが俺と王蛇蝎の短剣を拾って走り出す。ここは取りあえず大人しくしておこう。

そんなアマンダに周囲の蜘蛛が一斉に飛びかかった。おいおい、まだ24時間経っていないぞ。アマンダの精霊の寵愛は復活してない! いくらアマンダでもこの数は――!

「邪魔よ」

ザン!

アマンダの右手がブレた。そして、飛びかかっていた蜘蛛と、周辺にいた蜘蛛たちが一瞬で爆ぜる。たった1撃。それで蜘蛛たちが全滅していた。まだアマンダを舐めてたわ。今の攻撃全然見えなかったし。フランとの戦いも、全く本気じゃなかったんだろう。

当然だが、罠を踏むことなく、問題の小部屋へたどり着く。

「フランちゃん!」

「ビクトル! バルツ!」

だが、その部屋に人の姿はなかった。

「やっぱり、転移先も変更されてたわね……」

「くそっ、どうすりゃ」

「手分けして探すぞ。ただ、現状で人数を分けすぎるのは自殺行為だ。俺とアイゼール、クラッドたち竜の咆哮。リグと樹海の目。それとアマンダ様の3組に分かれるぞ」

「わ、分かった」

「行きましょう!」

冒険者たちが飛び出していった。

だが、アマンダはその場を動かない。俺を壁に立てかけると、目を閉じて何やら集中している。風魔術を使っているな。

ああ、そんなことよりも、フランを探す方法を考えないと。冒険者たちだけに任せてはおけない。俺も出来るだけのことをするんだ。

念話は――だめだ。装備者登録が外れたせいで、フランとの繋がりが絶たれてしまっている。いつもならその見えない繋がりのおかげで、離れていても念話が出来るんだが……。今はフランを感じることができない。繋がりが無くなっただけで、こんなにも不安になるなんて! いや、フランはもっと不安なはずだ、俺が冷静にならないと!

転移の術でもあればな。もしくは、空間跳躍とか。フランの場所に飛べるんなら、何でもいいんだ。もしくは、フランを引き戻せれば……。何か良い魔術はないか?

いや、待てよ。フランをこっちに引き戻す? できるかもしれない。眷属召喚だ。フランは俺と契約を交わしている。装備者登録が外れているとはいえ、契約が消えたわけじゃない! フランは俺の眷属と言えるんじゃ……。

眷属召喚のレベルが上がってから、確認を怠っていた。レベル1の時には何も召喚できなかったし、レベルアップしてからも、契約を交わしてないのだから無駄だろうと、確認していなかったのだ。でも、スキルレベルが上がったことによって、追加があるかもしれない。望みは薄いだろうが、今は藁にもすがりたいんだ。

フランの名前はあるか――?

うん?

フランの名前はないんだが、召喚可能対象の一覧に、何やらよく分からない項目が追加されていた。

召喚可能眷属:ウルフ、グレイウルフ、ブラウンウルフ、レッドウルフ、ブルーウルフ、グリーンウルフ、イエローウルフ、ブラックウルフ、ルビーウルフ、エメラルドウルフ、サンダーウルフ、オニキスウルフ

なんだこりゃ? ウルフ祭り? 分からん。契約した覚えなんか全くないのに。

とりあえず、個別に詳細を見れるようだ。

ウルフは普通に狼だ。グレイウルフは敏捷寄り、ブラウンウルフは腕力寄りに進化したウルフである。そして、レッド、ブルー、グリーン、イエローは、火水風土の属性を操るウルフの様だ。ブラックは闇、毒だった。

ルビーはレッドの上位種で、火炎属性。エメラルドは暴風属性。サンダーウルフは雷鳴。オニキスはブラックの上位種で、暗黒、毒、死霊の属性を操るらしかった。

色々見ていくうちに、オニキスの能力に目が留まる。こいつ、生命感知を持っているじゃないか! しかも、レッド以上のウルフはどいつも反響定位、鋭敏嗅覚も備えている。両方を備えたオニキスウルフなら、フランを探し出せるのではないだろうか?

他に良い手も思い浮かばないし、オニキスを選んでみることにした。

『――サモン・オニキスウルフ!』

どうせなら、少しでも強い個体が出るようにと、上限まで魔力を込めてやった。どれだけ効果があるかは分からんが。

「グルルゥゥ」

虚空に描かれた魔法陣から、漆黒の毛並みの狼が、湧き出すように出現した。

お、思ってたよりもでかいな。それもかなり。せいぜい大型犬くらいの大きさかと思ってたんだけど……。こいつは、乳牛くらいはあるだろう。

「な、オニキスウルフ? こんなところで?」

ヤバい。アマンダをすっかり忘れてた。超驚いているよ。あれ? このままじゃ、討伐されちゃうんじゃ……?

こいつ、凄い魔力を全身から放出しまくってるし。なんか威嚇するみたいに、ずっと唸り続けてるし。どう見ても、敵性魔獣だよ!

「グルルルル……」

それを止めろって。なんで、そんなに唸り声上げてんの? 魔力の放出もやめてくれ!

『おい、唸るな! もっと大人しくしてくれ!』

「グルウゥッ!」

だめだ。聞いてない感じだ。もっと強めに言い聞かせないとダメなのか? というか、苦しんでるみたいにも見える。何が起きてるんだ?

名称:なし

種族名:オニキスウルフ:魔狼:魔獣

状態:契約、魔力暴走

ステータス レベル1

HP:319 MP:313 腕力:146 体力:156 敏捷:251 知力:103 魔力:201 器用:128

状態:魔力暴走? これか! これのせいで、魔力まき散らしながら、苦しんでるのか! ていうか、俺のせいか? 召喚の時に、魔力込め過ぎたのか?

〈オニキスウルフに〈名付け〉を行いますか?〉

ええい、こんな時に! 名前を付ければいいのか? えーと、名前、名前――。

『お前はウルシだ!』

漆黒にも漆っていう文字が入ってるしな。鬣に所々紅い毛が混じっていて、それもまた漆から連想される色だ。毒属性も、触ったらかぶれる漆っぽいし。とっさに考えたにしては、良い名前だ。

〈オニキスウルフの〈名付け〉が完了しました〉

〈オニキスウルフが進化します〉

え? 進化? 名付け? どういうことだ? 魔力暴走は? 誰か説明して!

しかし、目の前にいたオニキスウルフは、アナウンスさんの言う通り、その姿を変えていく。

〈ウルシが、ダークネスウルフへと進化しました〉

「アオオオォォォォォーン!」

いきなり元気だな。魔力暴走は平気なのか?

名称:ウルシ

種族名:ダークネスウルフ:魔狼:魔獣

状態:契約

ステータス レベル1

HP:451 MP:670 腕力:216 体力:217 敏捷:310 知力:202 魔力:441 器用:208

スキル

暗黒耐性:Lv8、暗黒魔術:Lv1、鋭敏嗅覚:LvMax、

隠密:Lv7、牙闘技:Lv5、牙闘術:Lv5、影潜み:LvMax、影渡り:Lv5、空中跳躍:Lv8、恐怖:Lv4、警戒:Lv6、気配遮断:Lv6、再生:Lv5、死毒魔術:Lv1、瞬発:Lv5、消音行動:Lv6、死霊魔術:Lv5、生命感知:Lv7、精神耐性:Lv6、毒魔術:LvMax、反響定位:Lv7、咆哮:Lv8、夜陰紛れ:LvMax、闇魔術:LvMax、暗視、王毒牙、自動HP回復、自動MP回復、毒無効、身体変化、魔力操作

ユニークスキル

捕食吸収

称号

剣の眷属、神狼の眷属

説明:暗黒属性を操る、ウルフ系魔獣の上位種。ステータスは同ランクの魔獣の中では低い方だが、スキルの多彩さ、魔力量はトップクラス。また、隠密系のスキルを多く持ち、影に潜む影渡りを持つため、発見は非常に困難。存在は確認されているが、発見個体数は少ない。脅威度C。魔石位置:心臓部。

こいつ、デカイな。オニキスウルフの時も、相当大きいと感じたが、こいつはさらに2回りは大きい。オニキスは牛位だったけど、ダークネスは足先から肩までで、3メートルを越えていた。

深みのある金瞳は、周囲を睥睨するかの如く威厳に満ちている。牙は短刀並に鋭く、四肢は熊さえも凌ぐ程に逞しい。黒い体毛にはオニキスの進化種だけあって、不思議な煌めきがあり、角度によっては星の瞬く夜空の様な、神秘的な美しさがある。

それに、かなり強いぞ。脅威度Cか。説明にもある通り、隠密系スキルが充実している。暗殺者っぽいスキル構成だな。魔術もかなりの物だ。

同じ脅威度のタイラント・サーベルタイガーと比べた場合、肉体能力で大きく劣る代わりに、魔力系の能力では圧勝。そんな感じだった。

「いきなり進化した? もしかして、ダークネスウルフ? は、初めて見たんだけど」

アマンダが初見とか、ダークネスウルフはそれだけレアってことか。

「それに、この魔力の流れ、フランちゃんの剣とつながっている?」

うげ。あっさりと看破された! ウルシがやられる危険性が下がったけど、俺に対する興味が増している気がする。

「凄いわね。魔剣だってことは分かってたけど、魔獣武器だったなんて……。しかも、脅威度Cの魔獣が宿ったものなんて、中々お目にかかれないわよ」

魔獣武器? 言葉から察するに、魔獣が宿った武器の様だ。へえ、そんな武器もあるんだな。

ま、今はフランだ!

『ウルシ、俺の言葉が分かるか? 分かるなら、右前足を上げろ』

「オン」

サッ

ウルシが右前脚を上げた。

『次は左後脚だ』

「オン」

『よし、今度は、左前脚と、右後脚を同時にだ。できるか?』

「オオン」

よし、俺の言葉を理解してるな。それに、何となくだが、ウルシの感情が分かる気がする。ウルシのやる気が伝わってくるような感覚だ。念話のおかげだろうか?

アマンダが、「か、可愛い」とか呟いているが、今は無視だ。

『フランの居場所は分かるか? 俺の装備者なんだが』

「オン」

ウルシがクンクンと俺の匂いを嗅ぐ。そして、数秒間目をつむって、ウーウー唸る。どうやら、スキルを使っているようだな。

『どうだ?』

「オオォーン!」

ウルシは大きく咆えると、俺の柄を噛んで持ち上げた。

『重くないか?』

「ホン!」

俺を咥えているせいで、空気が漏れて間抜けな鳴き声だな。でも、さすがにデカイだけあって、俺を口で持ち上げても、全く問題ないみたいだ。

ウルシがそのまま、凄まじい勢いで洞窟を駆け出す。無事でいてくれよ、フラン!

『よーし、ウルシ急げ!』

「ホンホン!」