作品タイトル不明
513 賞金首の影
最大化したウルシの速度は凄まじいものだった。1日と言われていた道のりを1時間ほどで走破してしまうのだ。
山も大河も空中跳躍で飛び越え、魔獣などオヤツでしかない。立ち止まることすらせず、すれ違いざまに食い殺していた。
「モムモム」
「おいしい?」
「オン!」
魔石は確保しているようだし、素材を剥ぎ取るまでもない魔獣たちだから、別に構わないけどね。
『お、次の町が見えてきたぞ。あれがクランゼル王国最後の町、ディディーアンだ』
「名物は?」
『家畜化した魔獣のチーズが有名らしいぞ』
「へー」
「オフ!」
ウルシの速度だったらとっくにベリオス王国に入っていなければおかしいんだが、俺たちは未だにクランゼル王国にいる。
道中全ての町村に立ち寄って、名物料理を食べているからだ。料理の作り方を習ったり、気に入られて一泊したりしている内に、1週間も経っていた。
急ぐ旅ではないためフランが気が済むようにすればいいだろう。むしろ、目的地に急ぐだけなんてつまらない。道中も楽しまなくては勿体ないのだ。フランには、戦闘以外にも色々な経験をしてもらいたいしね。
門を潜って町に入ると、最初に目に入ったのは武装した警備兵たちであった。別にこちらを威圧しているわけではないのだが、この規模の町にしては数が多い気がする。
国境に近い街だからか? だが、どう見ても治安維持のための兵士っぽいんだよな。言ってしまえば、警察タイプ? 国境警備の兵士とはまた違う印象だ。
だが、この物々しい雰囲気の理由はすぐに判明した。それは、最初に立ち寄った屋台でのことだ。
「お嬢ちゃん! ディディーアン名物、チーズをたっぷり使ったパンだ! 1つどうだ!」
「ん。5つちょうだい」
「お、豪気だね! はいよ! その恰好、もしかして冒険者なのかい?」
「ん」
「そりゃあすげー。小っちゃいのに頑張ってるねぇ。この町に来たのは初めて?」
「さっき到着した」
「そうかそうか! この町はどうだい?」
「兵士が多い?」
「ああ、あれかー」
屋台のおっちゃんが言うには、数か月前にこの辺で、有名な賞金首が目撃されたらしい。しかもその賞金首を捕まえるために警備兵や、領軍まで出動したが、一方的に蹴散らされてしまったそうだ。
「100人くらいの兵士が、あっと言う間に壊滅しちまったんだぜ? そんな危険人物が潜んでるかもしれないとあって、ここ数ヶ月はこんな感じなんだ」
「なるほど」
100人の兵士を1人で壊滅させるって、結構な凶悪犯だよな。そりゃあ、領主も放ってはおけないのだろう。
ただ、それにしては少し違和感がある。
「……兵士の人たち、あまり真面目じゃない?」
そうなのだ、数は揃っているものの、兵士たちには殺気立った様子はない。不真面目ってわけじゃないが、何が何でも賞金首を捕らえようという熱意には欠けている気がした。
「まあ、人死には出なかったから、実際そこまで本腰入れてないんじゃないかと思うがね」
「死んだ人がいない? 軍隊が壊滅したのに?」
「オン?」
「それがよ。大怪我を負わされた奴はいても、1人も死ななかったんだと。そのせいで、兵士はあまり本腰を入れてないみたいなんだ。領主様としても、これだけ兵士を増員したっていう実績がほしいだけなんじゃないかね?」
民を守るために最善を尽くしたというアピールをしていても、その賞金首を捕縛することには乗り気ではないということか。どうせ下手な戦力をぶつけても返り討ちに遭うだけだろうしな。
「いやー、かなり凶悪な男だっていう噂だったから、最初はこの町もパニック気味だったんだけどねぇ。賞金首目当ての冒険者も増えて、治安が悪くなったりもしたし。ただ、最近じゃ姿を見たっていう話も聞かないし、兵士が増えたおかげで治安も向上した。むしろこのまま見つからないで、居てくれた方がありがたいね」
「ふーん。ねぇ、その賞金首って、どんなやつ?」
「もしかして捕まえようっていうのか? 止めておけって」
フランの表情を見て、賞金首に強い興味を抱いていることを見抜いたのだろうか? フランの表情を読むとはやるな。いや、初対面の相手でも分かるくらい、フランがやる気になっているということだろう。
「いいか? そいつの名前はゼロスリード。今までに何百人も殺している凄腕の傭兵だっていう話だ。駆け出し冒険者が捕まえられるような相手じゃない」
「ゼロス、リード? ゼロスリードがこの辺にいるの?」
「あ、ああ」
いや、待て。絶対におかしい。兵士100人と戦って、死人が出ていないんだぞ? 全員が虐殺されたって言うならともかく、一人も殺さないなんてありえないだろう。
何せゼロスリードだぞ?
『本物か?』
犯罪者とは言え、有名人であることに変わりはない。贋物が現れてもおかしくはない気がする。だが、戦闘力が高いっていうところがな。
「外見は?」
「全身傷だらけの大男っていう話だが……。おいおい、本気で追う気か?」
「さあ?」
「……まあ、いいけどよ」
フランの答えを聞いて、おっちゃんははぐらかされたと思ったらしい。
だが、今の返しはフランの本心だ。
ゼロスリードを憎む気持ちはある。だが、キアラには復讐するなと言われているのだ。フランとしても積極的に追いかけようとは思っていないのだろうが、近くにいれば別である。
だが、本物ではなさそうだし、この辺に残っているとも思えない。しかし、無視することもできなかった。
『まあ、ウルシの鼻で追ってみるか?』
近くに潜伏していれば追えるはずだ。数か月前の事件の後、すぐにこの近辺から離れていれば、さすがに匂いは残っていないだろう。まあ、そのゼロスリードが本物であれば、だが。
「ん! ウルシ!」
「オンオン!」
「お嬢ちゃんもちっこいワンコロも、あまり無茶すんなよ!」