軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

479 クリムトの憂鬱

「ギルドマスター。フランちゃんを連れてきました」

「ああ、入ってください」

執務室に入ると、エルフで精霊使いのギルドマスター、クリムトが出迎えてくれた。相変わらずの怜悧な表情でこちらを見ているな。

ネルが去った後、フランにソファを勧めると自分も向かいに座る。

「久しぶりですね」

「ん」

「はぁ……。短期間にここまで……。天才という言葉さえ馬鹿らしくなりますね」

クリムトの言葉はランクだけではないのだろう。以前の俺たちではそこまで分からなかったが、クリムトはかなり強い。鑑定なんかしなくても分かる。

ステータスなどではなく、その内からにじみ出る気配とでも言うのだろうか? そして、クリムトもフランに対して似たことを感じているはずだった。

呆れた様子でフランを見つめている。まあ、アレッサを発ったときに比べたら、遥かに強くなっているからな。

「とりあえずランクアップおめでとうございます」

おめでとうと言いつつ、クリムトの顔は全く祝福している様子はない。むしろ渋面と言っていいだろう。

「まったく、実力があったとしても、子供を利用するような真似……。まあ、なってしまったものは仕方ありません」

やはり子供を冒険者として危険な目に遭わせること自体に反対であるらしい。そもそも、他の冒険者ギルドだと試験なんかないっていう話だし。子供が来たらドナドでビビらせて追い返すシステムなのだろう。その後は見習い扱いで基礎を教えることになっているようだな。

「それで、アレッサに戻ってきた理由はなんなのですか?」

「修業」

「修業? まだ強くなる気ですか?」

呆れた様子のクリムトに、フランが真面目な顔でコクリとうなずく。

「ん」

「12才でランクBですよ? これはギルドの歴代記録でもトップ5に入ります」

トップ5ってことは、フランよりも上がいるってことか?

「1番は?」

「うん? いまの歴代順位の話ですか?」

「ん」

「最年少でランクAに昇り詰めたのが、古のランクS冒険者、『大隊』ですね」

「大隊? 異名?」

「ええ。しかし、あまりにも古すぎる記録であるため、今では異名しか伝わっておりません。能力も不明ですね。ただ、この方は8歳でランクB、10歳でランクA。14歳でランクSになったと言われています」

なんだそりゃ? 変な異名だと思ったら、どんな化け物なんだよ。さすが長い歴史があるだけあって、天才的な人物がいたらしい。

「その方に及ばないとは言え、あなたの成長速度は早い。まだ強さを求めるのですか? もう十分強いでしょう?」

「私は強くない」

フランはフルフルと首を振ると、悔し気に呟く。

「負けっぱなし。助けてもらえなかったら、負けてた戦いばかり。それに、強い奴はたくさんいる」

侯爵との戦いや、俺から聞いた強者同士の戦いの様子を思い返しているのだろう。

「それに、獣王にもアースラースにも、まだ勝てない」

「はぁ。ずいぶんと濃い数か月を過ごされたみたいですね。それにその面子相手に、まだ勝てない?」

さらに呆れられてしまったらしい。そういえば、クリムトって上級冒険者には珍しく戦闘狂って感じじゃないもんな。常識人かどうかって言われたら、ちょっと違う気もするけど。

「それで修業ですか?」

「魔狼の平原に行って修業する」

「……あそこに入るつもりですか? お一人で?」

「ランクBなら構わないはず」

クリムトが良い顔をしないのは分かってるよ。でも、ランクは満たしているのだから、止めることはできないだろう。

「それはそうなんですがね……。はぁ、仕方ない。どうせ許可が出なくったって、入るでしょう?」

諦めの表情で肩をすくめるクリムトに、フランは頷きを返す。

「当然」

「だったら止める意味がない。ただ、あそこは最近かなり危険度が上がっている、無理をしないでください」

「わかった」

「……即答が逆に胡散臭いですが……。本当に無理をしないように」

「ん」

「はぁぁ。あと、北には行かないでください。現在、かなり混乱していますので」

「混乱?」

やはりレイドス王国との小競り合いが収束していないらしい。

「ええ。正直言って、子供を戦争には絶対に出したくないので」

そう言いながら、現在の状況を軽く説明してくれた。

「まず、最初のレイドス王国軍に関しては、ジャン・ドゥービーという冒険者が防ぎました」

「知ってる」

「ああ、そういえばあなたとジャンは知り合いでしたか? 例の日記を一緒に手に入れたという話でしたね」

「ん」

「ですが、レイドスの侵攻はそれで終わりませんでした。何度かに分けて、散発的に行われている模様です」

その理由が、死霊魔術の実験にありそうだという。敵方が、アンデッドの軍勢を使っているらしい。

「ジャンへの対抗策なのでしょう。ジャンには及ぶべくもありませんが、数が多いようで。その対策に、ジャンやその護衛に雇った冒険者たちが走り回っているようです」

このギルドで新人の教官をやっていたドナドロンドも、そちらへと狩り出されているそうだ。

「クリムトはいかないの? 災厄のクリムトなんでしょ?」

「……はぁ。そんな大それた異名を付けられるような大した男ではないのですがね。まあ、私が本気を出すと、少々周囲が荒れますから」

つまり、レイドスとの小競り合い程度では出陣しないということか。

「とにかく、魔狼の平原に入ることは許可します。ですが、レイドスとの小競り合いには近づかないでください。いいですね?」

眉間の皺を揉み解しながら、ため息交じりに告げるクリムト。どの町でもギルドマスターは大変そうだ。まあ、フランが仕事を増やしているんだけどね。