軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

428 疑似狂信剣

ベイルリーズ伯爵家の事情を少しだけ聞いた後。ベルメリアが落ち着くのをお茶をしながら待っている時だった。

「……コルベルト。知り合い?」

「いや、殺気をまき散らしながらコソコソ近寄ってくる奴らは知り合いにいないな。フレデリック? 伯爵の部下とかか?」

「ないな。俺はベルメリアのところに行く。お前たちは対処を頼む。できれば何人かは生かして捕らえろ」

この会話の元凶は、殺気を発しながらこの屋敷を包囲しようとしている謎の気配たちであった。

どう考えても敵の襲撃だろう。さらに言うのであれば――。

『フラン、魔剣かもしれん』

(ほんと?)

『こいつらの魔力にあの気色悪い魔力が混じっている』

離れていても、俺の内に湧き上がる嫌悪感に間違いはない。魔剣の発していた魔力と同種のものだ。

(わかった)

『ただ……』

(ただ?)

ただ、問題もあった。何故かこの気持ち悪い魔力の発生源が複数あったのだ。最悪、あの魔剣が複数ある可能性があった。

(……全部壊せばいい)

『だな。魔剣が出たら正真正銘全力だ』

(わかった)

エリアンテ、すまん。ちょっと周りに被害が出るかも。だが、あの魔剣は放置できない。出たら確実に仕留めなくては。

「いいか。正当防衛を主張するためにも、先に手を出すことはできない。そこだけは心得てくれ」

つまり受け身にならざるを得ないということか。そう言い残してフレデリックがベルメリアの下に向かった数分後。

屋敷の中では警戒態勢が整っていた。兵士たちのレベルも高いこの屋敷内で、包囲を狭めてくる謎の気配たちに気付いていない者はいないだろう。

だが、襲撃者の初手は、彼らの想像の範疇を超えているものであったらしい。

ゴオオオオオォォォォ!

「い、いきなりデカい魔術ぶっ放しやがった!」

屋敷に複数の魔術が着弾したのだ。俺たちがいた部屋には影響はなかったが、窓越しに赤い火炎の舌が伸びて、空間をオレンジに染めるのが見えた。多分、インフェルノ・バーストを敷地の外から放った奴がいるのだろう。

それ以外にも、風魔術や土魔術が屋敷に穴を開けたようだ。コルベルトも驚いた顔をしている。

「王都の貴族街で派手な真似をするとは!」

「どういうこと?」

「あのな! ここは王のお膝元だぞ! しかも貴族ばかりのこの場所で騒ぎを起こしたら極刑は確実だ! たとえ侯爵でもな!」

だからこそ、屋敷の人間たちはこれ程目立つ騒ぎを起こすわけはないと思っていたらしい。屋敷に侵入してからの、近接戦闘での暗殺、制圧を狙ってくると考えていたんだろう。

その裏をかかれたことで、屋敷内の気配が揺らいでいるのが分かった。

後がなくなったアシュトナー侯爵家が破れかぶれになったんだろうか? どちらにせよ、敵は一筋縄ではいかないようだった。

「嬢ちゃん、二手に分かれるぞ。俺は正面にいく。裏口を任せていいか?」

「ん」

「よし、行くぜ」

本当は魔剣のいる方向へ向かいたかったのだが、どうやっても気配の所在が掴み切れない。魔剣の魔力が消えたのではなく、やはり弱い反応が複数存在していた。

『とりあえず目視して確かめよう』

「ん!」

『ウルシ、屋敷の周辺に怪しい奴がいないか探ってくれ』

「オン!」

そして、フランが裏口に到着した時、すでに敵は屋敷への侵入を果たしていた。俺たちの前にいるのは二人。冒険者風の男たちだ。だが、その異様な姿を目にして、俺もフランも唖然としてしまっていた。

『な、なんだこいつら……』

「剣、刺さってる」

『しかも刺さってる剣……。魔剣にそっくりだ』

なんと言えばいいのだろうか。男たちの背中には剣が深々と刺さっていたのだ。首の後ろ。後頸部の中心から、まるで背骨の代わりに剣を差し込んでいるかのような姿であった。背骨に沿うように、エストック状の剣が体を刺し貫いている。

男たちは二人ともその状態だった。しかも、そのエストックに付いているハンドカバーには見覚えがある。苦悶に満ちた男の彫刻。あの半壊魔剣に付いていたハンドカバーにソックリだった。

鑑定すると、こいつには鑑定が効いた。まあ、分かったのは名前だけなんだが。しかし、その名前はさらっと流すことができないものだった。

『疑似狂信剣?』

「狂信剣? どっかで聞いたことある」

『ウルムットで、ルミナに見せてもらった巻物だ!』

ウルムットのダンジョンマスターにして、黒猫族のルミナが持っていた神剣の名前が記してあった巻物。そこに載っていたはずだ。

『狂信剣ファナティクス……』

「じゃあ、あれ神剣?」

『疑似ってことは、本物じゃない。多分、コピー品とかだと思うが……。絶対に油断するな!』

そう、疑似だ。本物ではない。しかし疑似とはいえ神剣。これは、いよいよきな臭かった。

「――」

「――」

『くるぞ!』

それにしても、こいつらも精神支配されているのか! ハムルスやゴードンと一緒の顔をしてやがる。さらに潜在能力解放に、狂信という状態も同じだ。ステータスは非常に高く、スキルも豊富。屋敷の兵士たちですら太刀打ちできないだろう。

「覚醒! 閃華迅雷!」

しかしそれでも、最初から全力のフランの敵ではなかった。

ハムルスもゴードンも、様子見や捕縛にこだわり過ぎた。周りへの被害も気にしてしまったしな。だが、今のフランはいい意味でも悪い意味でも、本気だった。

敵が神剣に関係あると聞いて、スイッチが入ったのだろう。

剣技を放とうとしていた右の男を、雷の速さで距離を詰めたフランの空気抜刀術が袈裟切りにする。男たちはフランの神速に反応すらできていなかった。

瞬きすら許されぬ速さで剣が振り切られ、遅れて体が斜めにずれていく。

『ちっ』

「師匠? どうしたの?」

『いや、共食いが発動しただけだ』

今の一撃は疑似狂信剣も一緒に斬り落としていた。その結果、俺の中に気持ち悪い魔力が流れ込んできたのだ。すでに1度経験していたことと、前回よりも吸収した魔力が遥かに少なかったことで多少の嫌悪感を覚えただけで済んでいたが、やはり気持ちのいいものではない。

吸収した力が少なかったということは、増加した俺の能力からも分かる。何せ、保有魔力が2増えただけだったのだ。

『それよりももう一人だ』

「ん! はぁ!」

「――」

仲間が瞬殺されたことがようやく分かったのか、男が剣を振りかぶる。しかし、その時にはすでにフランの準備は終わっていた。

男の剣が振り下ろされるより速く、再び繰り出された空気抜刀術によって男の両足が斬り飛ばされる。

『寝てろ!』

その男に俺が追いうちの念動を発動させたんだが……。

『なに?』

一瞬男の背中の疑似狂信剣が輝いたかと思うと、男から魔力を吸い上げるのが見えた。そして、俺の念動が打ち消される。

『ならこいつは――魔術もか!』

大地魔術で拘束しようとしたんだが、それも打ち消されてしまった。あの疑似狂信剣には、使用者。いや、寄生主? 装備者? ともかく男の魔力を使って、魔術やスキルを打ち消す力があるようだった。

俺の形態変形や、剣術スキルはそのまま使えるところを見ると、外部に放出した魔力を何らかの方法で雲散霧消させているのだろう。

その間に、男の足が凄まじい速度で再生し終えてしまった。厄介な能力だ。異常再生と痛覚遮断で疑似的な不死身を発揮し、魔力を打ち消す能力で相手の攻撃力を封じる。

もし、もっと弱い頃に出くわしていたら、ピンチに陥っていただろう。だが、今の俺たちにはさしたる脅威ではない。

魔術やスキルが封じられたとしても、剣の腕前が落ちたわけではなく、フランの手には俺が握られている。それで十分なのだ。

「はぁぁ!」

「――」

勝負は一瞬で決する。いくら再生能力に優れ、痛みを感じなくても、両手両足を切断されれば隙が出来る。既に再生が始まっているが、根元から断ち切られた手足が元通りになるまでに十秒はかかるだろう。

『よし、今の内だ!』

「ん!」

俺たちの狙いは疑似狂信剣だった。フランが柄を掴み、男の背から剣を引き抜こうと試みる。

「むうぅぅぅぅぅ!」

『頑張れ!』

俺も念動で加勢したいところだが、打ち消されてしまうからな。当然次元収納も試したが、男の装備品扱いになっているのか、疑似狂信剣をこの状態で収納することはできなかった。

「はああああぁぁぁぁっ!」

『よし、抜けた!』

かなりガッチリと食いこんでいたが、フランの腕力には抗えない。三秒ほどで、疑似狂信剣が男の体から引き抜かれる。俺が即座に収納を試みると、今度は問題なく仕舞えた。ようやく、手がかりを得たな。

「――」

だが、喜んでばかりもいられない。背中から剣を引き抜かれた男が、直後に死んでしまったのだ。今回の襲撃者からも、話を聞くことは難しそうだった。

『まあ、話がシンプルにはなったな』

「ん。全員斬る」

疑似狂信剣を引き抜いても死ぬし、放っておいても潜在能力解放で死んでしまう。だったら捕縛などを考えず、倒すことができるのだ。

『とりあえず屋敷に侵入した襲撃者を倒すぞ』