軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

413 ハムルス

ギィイン! ギャリイィィ!

地下道に、剣同士がぶつかり合った時に発せられる甲高い金属音が鳴り響いている。

剣を操り斬り合うのは、少女と男。フランとハムルスだ。

この2人がともに無口なおかげで、地下道に響いているのは俺と相手の魔剣が鍔迫り合う甲高い音だけであった。

戦闘は俺たちが圧倒的に有利だが、ハムルスは時おり異様な動きでフランの攻撃をなんとか回避しやがる。いや、違うな。変な動きをするのは魔剣だ。

「しっ!」

「――」

ガイィィ!

今のもそうだ。俺の幻像魔術で生み出したフランの幻影に、ハムルスは完全に釣られていた。

フランの幻を攻撃するため、ハムルスが魔剣を突き出す。しかも剣技を使用しているため、体も硬直しているだろう。

そして幻影が破壊された瞬間、背後に回り込んだフランによる必殺の一撃が放たれた。ハムルスは完全にフランを見失っている。しかも未だに硬直中だ。

完全な死に体という奴である。フランの放った剣技は、ハムルスの胴を切り裂くはずだった。だが、ハムルスの腕が素早く動き、肩越しに突き出した魔剣で背中に叩き込まれようとした俺を防ぐ。どう見てもハムルスにはフランの斬撃が見えてないのにもかかわらずだ。まるで剣が勝手に動いて、こちらの攻撃を防いだかのようだった。

オートガード的な能力を持っているのか? ハムルスのスキルにそれらしいものはないので、魔剣の能力だろう。

「――」

にしても、ハムルスは表情が変わらないな。

「――ファイア・ジャベリン」

それでいて、魔術を詠唱する時だけは滑らかに口が動くのだ。口だけが高速で動く様は、見ていて不気味であった。

「――」

そして、再び声を発さぬまま、斬り掛かってくる。これって完全に意識ないよな? 誰かに操られているんじゃないか?

静かに向かい合うフランとハムルス。すると、ハムルスの体が突然ビクンと跳ね上がった。同時に魔力が高まりを見せる。

「――!」

メキメキと音を立てて、ハムルスの筋肉が膨張を始めた。しかもステータスが急激に上昇していく。唐突だな。いきなりのパワーアップ展開か? バルボラで見た、人間が邪人化する様に似ているが、邪気は感じられない。

しかし、ハムルスに対する嫌悪感がより強まっていくのが分かる。いったい、俺はどうしてしまったのか……。

魔剣の周囲に可視化するほど濃密な魔力が漂っているのが見える。魔力で形成した刃を展開させたようだな。魔力の刃で攻撃する剣技、オーラブレードを自らの刀身の代わりに使うイメージだろうか。

「はぁ!」

フランが未だにビクビクンと痙攣中のハムルスに攻撃を仕掛けた。相手の変身を待たないその姿勢、偉いぞ。だが、再び剣が動く。ハムルスは未だにその場で仁王立ちしながらビクビクしているが、剣が自動的に動いたのだ。これはもう、オートガード機能があることは間違いないだろう。

しかしフランは冷静だった。軽く距離をとると、俺を腰だめに構える。

普通に攻撃しても防がれるなら、物理的に届かない場所を狙えばいい。具体的には、魔剣を持った右手の対角線。左の足首だ。

繰り出すのは空気抜刀術を使っての神速の一撃。剣はそれにさえ反応したが、折れているせいで長さも足りず、全くガードが間に合わない。

フランに振り抜かれた俺は、ハムルスの足をあっさりと切り落としていた。左足の支えを失い、ハムルスが大地に倒れる。まあ、こいつは相変わらず白目を剥いてビクンビクン痙攣しているだけだが。

だが、俺たちの目の前で驚くべきことが起きる。なんと、ハムルスの傷の断面が盛り上がると、凄まじい勢いで再生を始めたのだ。2秒ほどで足首が元に戻ってしまう。

慌てて再度鑑定してみると、ハムルスのスキルに再生、筋肉肥大、格闘術のスキルが追加されていた。

後付けでスキルが増えるのはおかしなことではない。フランだって進化すればスキルが増えるし、邪人化したイビルヒューマンにも邪術が増えた個体がいた。

ただ、種族が人間のまま、いきなりパワーアップし、スキルまで増えた理由はなんだ?

そう思って鑑定を続けると、おれは驚愕の事実に気付いた。なんとハムルスの状態が潜在能力解放となっていたのだ。

生命力が減り続け、ステータスが大幅に上昇。確かに、潜在能力解放の効果だ。これもあの魔剣の能力なのだろうか?

「――――!」

「ふっ! しぃ!」

地面に寝そべった状態から、背筋の力で飛び上がる様に立ち上がったハムルスが、相変わらずの能面のような無表情でフランに襲いかかってきた。

凄まじい連続攻撃。潜在能力解放状態のハムルスは、短期決戦を狙っているらしい。だが、戦闘時に最も隙が生まれるのが攻撃の瞬間だ。しかも連続攻撃はどうしても無理な体勢になりがちである。つまり、今のハムルスは俺たちから見れば隙だらけであった。

対人戦の経験も多く積んできたフランにとって、その隙をつくことは難しくない。ハムルスの斬撃をいなし、逆に攻撃を繰り出す。

何度か致命傷になるはずの斬撃がハムルスをとらえていた。しかし、異常な再生力によって、すぐに傷が塞がってしまう。潜在能力解放の影響で、単なる再生スキルが瞬間再生並の効力に引き上げられているようだ。

こういう相手は遠距離から魔術の飽和攻撃が有効なんだが、町中で、しかも地下通路ではそれも難しい。ここを崩落でもさせたら、フランが罪に問われる可能性さえあるのだ。

「次のはもっと速いよ?」

「――」

まあ、フランは変則的な動きをするハムルスとの戦いを楽しんでいるようなので、そこは救いか。

フランはさらに速度を上げ、壁と天井、空中跳躍を使った多角的な動きでハムルスに襲いかかる。ハムルスの全身に傷が穿たれるが、即座に塞がってしまう。急所に対する攻撃だけは魔剣で防いでいるな。しかもその間に反撃までしてくる。

再生力にあかせた相打ち狙いの攻撃だ。しかも、その攻撃方法が異常だった。

「――」

「くっ」

『どりゃあ!』

突きを躱されて伸びきった状態の腕が、ありえない角度に曲がって襲い掛かってきたのだ。ボギィという骨が折れる音が聞こえていた。すぐに再生するとは言え、こんな無茶苦茶な攻撃あり得るか? 念動で弾かなければ、かすり傷くらいは負わされていたかもしれない。

さらにハムルスの異常な攻撃は続く。

ゾブ!

なんと、自らの腹に剣を突き立てたのだ。血飛沫が飛び、ハムルスが吐血する。そして、ハムルスの体を貫通した魔力の刃が、再び背後から斬り掛かっていたフランに迫った。

「むっ!」

意表を突かれたフランだったが、ハムルスが何かをやらかすと予め警戒していたおかげか、その捨て身の一撃も紙一重で回避する。

しかし再生能力があるとはいえ、思い切りが良すぎるな。それに明らかに理性を失っているハムルスに、こんな相手の意表を突くような戦法を思い付けるのか?

胸に空いた穴が塞がりつつあるハムルスが、全く感情も知性も感じさせない虚ろな表情で歩みを進める。

「――」

やはり、何かがおかしかった。