作品タイトル不明
411 捜査
「おっと、世間話を長々と済まなかったな。あの黒雷姫を目の前にして、少々興奮してしまった。座ってくれ」
「ん」
伯爵に促され、フランも再びソファに腰を下ろす。対面に伯爵が座り、その右にコルベルト、伯爵の左にベルメリアとフレデリックが控える形だ。
「さて、まずは不幸な出会いとなってしまったようだが、こちらとしてはそれを咎めるつもりはない」
よかった。伯爵の娘と思われるベルメリアに雷鳴魔術を叩き込んでしまった訳だからね。そこを責められたら、色々と面倒になるところだった。
「ただ、できればそちらの目的を知りたいのだが? 我らはアシュトナー侯爵家に対する捜査を行っている。もう少しで詰めという状況でな。そちらにあまり派手に動かれると、こちらが今まで密かに動いてきたことが無駄になりかねんのだ」
ベイルリーズ伯爵は国からの命により、アシュトナー侯爵家の反逆罪について調べているという。特に、神剣の独自研究と捜索、魔薬の違法な製造と密売容疑がかけられているらしかった。
「それもこれも、黒雷姫が――フランがセルディオ・レセップスの罪の一端を暴いてくれたおかげだ」
今までは尻尾を掴ませなかったアシュトナー侯爵家だが、セルディオの死をきっかけに色々とボロが出始めているらしい。
「いままで好き勝手やってきたツケが回ってきたのだろう。ざまあみやがれ」
ベイルリーズ伯爵はそう言って心底嬉し気に笑う。完全にアシュトナー侯爵と敵対してるって訳か。
「コルベルトから聞いたが、アシュトナー侯爵家に知人が捕らえられている可能性があるということだったが?」
「ん」
「その名を聞いても?」
(どうする?)
うーん、伯爵の協力を得られれば、ガルスの情報も手に入るかもしれないな。
それに、国の命令での捜査となると、俺たちが下手なことをして邪魔をすることになったら、こちらが罪人とされてしまう可能性もあった。
『フラン、ここはガルスのことをちゃんと話しておいた方がいい』
(ん。わかった)
そもそもガルスが発見できるなら、自力でなくてもいいのだ。フランは自分の力でガルスを助けたいと思っているだろうが、俺はベイルリーズ伯爵がアシュトナー侯爵家からガルスを救い出してくれればそれで構わなかった。
「探しているのは鍛冶師のガルス」
「ガルス……。もしかして、クランゼル王国名誉鍛冶師の、ガルス師か?」
「それ」
「……確かに少し前、アシュトナー侯爵家が公共事業の名目でガルス師を招聘していたな……。フレデリック?」
「は。こちらの調べですと、アシュトナー侯爵領都の大結界具の補修のためという理由であったはずです」
大結界具というのは、アシュトナー侯爵家が開発した町一つを覆うほどの巨大結界を発生させる魔道具らしい。まだ完成ではないが、一応の実用に漕ぎつけたという。
これもまた、アシュトナー侯爵家が王国に叛意を持っているのではないかと疑われる要因の一つであるらしいが。つまり、国との戦いになった時に、切り札として使用するつもりではないかと考えられているのだ。
国の求めに応じて情報の引き渡しはしているものの、やはり疑いは消えないらしい。
「もともと侯爵家の機密に当たるため、どのような場所で、どの程度の期間作業が行われたかは分かっておりません」
「すでに補修とやらは終わっているはずだな?」
「は。ガルス師に関しても、すでに解放されたことになっております」
つまり、解放したことにして、今も捕らえているということなのか?
「ガルスはオルメス伯爵別邸に捕まってる可能性が高い」
「ほう? それは本当か?」
「ん。蠍獅子に睨まれた戦乙女のいる屋敷。それがガルスのいる場所」
「なるほど。それは確かにあの屋敷だな」
自分の屋敷が関係しているだけあって、すぐに理解したらしい。
「どうやってその情報を手に入れたのだ?」
「ガルスが伝えてきた」
彼らであれば、教えても問題ないだろう。ガルスの出品していた鞘に文字が密かに書き込まれており、そこに「蠍獅子に睨まれた戦乙女のいる屋敷」と書かれていたことを語る。
実際に鞘を見せたことで、ベイルリーズは信じてくれたらしい。
「そうか……。1日時間をもらえないか? こちらで調査を行なおう」
「1日で何か分かるの?」
「かなりの時間をかけて、こちらの手の者をアシュトナー侯爵の周辺に忍ばせてある。総力を挙げて調べてみせよう」
長い時間をかけて準備をしてきたようだ。だからこそフランに勝手に動かれて、台無しになるのを避けたいのだろう。
「王国名誉鍛冶師であるガルス師を拘束しているとなれば、明確な国家反逆罪に問えるからな」
(師匠、どうする?)
『うーん、強行突入の分が悪いことも確かだ』
屋敷のどこに捕らえられているかも分からない。しかも貴族の屋敷に何かすれば、大きな罪にもなる。だったら、ベイルリーズ伯爵に調査してもらった方が、危険は少ないはずだ。
「ガルス師が捕らえられているのであれば、確実に神剣の研究絡みだろう。だとすれば、そちらのルートで調べもつく。鍛冶に必要な物資を、必ずどこかから調達しているはずだ」
かなり自信があるらしい。これは1日待つ価値がありそうだった。
「わかった。1日待つ」
「助かる。明日の夜、使いの者を出そう」
「ん」
ただ、明日はどうすればいいんだ。何か手伝えることはないのか?
「調査を手伝わなくていい?」
「むしろ、慣れない人間を加えると現場が混乱する。何もしないでもらった方が――いや、普通に日常を過ごしてくれんか?」
「普通に?」
「うむ。さっきの鞘の話だが、アシュトナー侯爵家がどこまで把握しているかわからん。最悪、フランを監視している可能性もある。ああ、今は平気だ。この屋敷は調査の拠点として、細心の注意を払っているからな。だが、日常ではわからん。宿や町中では監視の目が付いている可能性もある」
「なるほど」
「であれば、観光などをしてもらっていた方が、相手の目を欺けるだろう。オークションなどに参加してもいいのではないか?」
まあ、一理あるのかね? それに、実はその言葉は有り難かった。なにせ明日は魔石オークションが開催される。この状況では、参加するのは躊躇われていたのだ。だが、普通にしていてくれと言われては、そうしないわけにはいかないよね?
「ん。じゃあ、明日は普通に過ごす」
「そうしてくれ。ああ、帰りはこちらで監視役を出すので、くれぐれもそいつらを攻撃しないでほしい」
「監視役? わたしの?」
「いやフランを探る間諜がいないかどうか、見張るためだ。アシュトナー侯爵家がフランの情報をどこまで掴んでいるかはわからんが、上手くすれば相手の尻尾を掴めるかもしれん」
フランがある意味囮という訳か。まあこちらに害がなければ構わないだろう。俺との会話はできるだけ念話で行うようにしないといけないが。そうしないと、フランが独り言のメチャクチャ多い、寂しんぼ少女だと思われてしまうのだ。