軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

404 メッセージの意味

落札した鞘に隠されていた文章を再度確認する。

『蠍獅子に睨まれた戦乙女のいる屋敷か……』

ガルスには申し訳ないが、他にも暗号などが隠されていないか調べるため、鞘をできる限り分解してみた。解ける部分は全て解き、剥せる部分は全部剥してみたんだが……。隠された暗号はこれ以上見つからなかった。

つまり、この暗号にある屋敷に囚われているということなのだろうか?

『フラン、意味分かるか?』

「ん!」

『え? まじ?』

「マンティコアに睨まれたヴァルキリーがいる屋敷を探す! 魔獣ならウルシの鼻で探せる」

うん、分かってないって事ね。フランの言う通り、蠍獅子はマンティコア。戦乙女はヴァルキリーで間違いないだろう。どちらも獣人国で戦ったことがある。まあ、実物を指し示しているわけではないと思うが。そもそも、あんな高ランクの魔獣が王都内にいる訳がない。大騒ぎになるだろう。となると、何かの比喩だと思うが……。

俺たちに探してもらうためのヒントなのだとしたら、意外と分かりやすいものである可能性が高い。いや、そもそもなんで暗号なんかにしたんだ?

『そうだよな……。なんでこんな回りくどい暗号に託したのか……』

アシュトナー侯爵家の屋敷とか、もっと具体的に書いてくれれば、それでいいはずだ。もしかしたら、これで具体的なのか?

本当にマンティコアとヴァルキリーが王都のどこかにいる? いやいや、そんな訳がない。となると、蠍獅子の像とか、絵。もしくは家の装飾品などだろうかね?

どこかに監禁されているとしたら、その場所から外を見た時に、蠍獅子に睨まれた戦乙女というのが見えているのかもしれない。もしくはそんな逸話やらのある貴族の屋敷とか?

そうなるとこれは暗号や暗喩ではなく、単純に自分が捕らえられている場所のヒントって感じなのかもしれない。

『とりあえず、蠍獅子に睨まれた戦乙女っていうのを探してみるか』

「ん!」

『ガルスの近くに行けば、ウルシの鼻に引っかかるかもしれんしな。頼むぞ?』

「オン!」

ガルスからのヒントを受け取った日の夜。

俺たちは冒険者ギルドにやってきていた。王都で唯一の知り合いである、ギルドマスターのエリアンテに話を聞くためだ。闇雲に蠍獅子を探すよりも、まずは情報を集めてからの方が動きやすいしな。

「いらっしゃい。今日はどうしたのかしら?」

執務室に通されると、エリアンテは積み上がった書類の山に埋もれながら、疲れた様子で目を通しているところだった。先日、暇じゃないと言っていたのは嘘じゃないらしい。見ずとも気配でフランだと分かるのか、顔も上げずに声をかけてくる。

「聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

「ん。蠍獅子に睨まれた戦乙女を探してる」

「はぁ?」

そこでエリアンテが初めて顔を上げてこちらを見た。その顔には困惑の表情が浮かんでいるな。

「蠍獅子に……なんて?」

「蠍獅子に睨まれた戦乙女のいる屋敷を探してる。知らない?」

「どういうこと? 王都にマンティコアを飼っているやつなんかいないと思うけど」

要領を得ないフランの言葉に、エリアンテが首を捻る。俺が話せれば早いんだが、無理だし。何とか時間をかけてフランに説明させた。もちろん、ガルスの名前などは出さずに。

エリアンテは途中でイラッとしていたが、何とか最後まで話を聞いてくれた。

「つまりその屋敷に知人がいる可能性があるから、探してると。連絡が取れないから、心配してるわけね」

「ん」

「でもそのヒントだけじゃね……」

「わからない?」

「申し訳ないけど。何か分かったら知らせるわ」

「お願い」

仕方ない。地道に王都を歩いて探すか……。いや、エリアンテはアシュトナー侯爵家を妙に敵視してたな。もしかしたら、協力者に引き込めるんじゃないか?

とりあえず、どれくらいアシュトナー侯爵家が嫌いなのか、確認してみよう。

「ねえ。エリアンテはアシュトナー侯爵家が嫌い?」

「唐突ね。でもそうねぇ……。嫌いかどうかと言われたら、大嫌いね」

「アシュトナー侯爵家に一泡吹かせることができるとしたら、どうする?」

「ほほう? もし本当にそんな方法があるなら、絶対に協力するわよ?」

全て本当だな。かなりアシュトナー侯爵家を嫌っているらしい。ここまでいくと、憎んでいると言ってしまっていいんじゃないか?

「敵対することになっても?」

「ふん。今更よ。あいつら、権力を笠に着てどれだけの無茶を言ってきてると思ってるの? それに対して散々逆らってるからね。もう敵対してるようなものよ」

俺たちが思っていた以上に、根深い問題であるらしいな。冒険者ギルドは国の支配下にはないが、それぞれの地域の支配階級と無関係でいられる訳ではない。貴族の力が強い王都では、特にその影響を無視できないのだろう。

「あの馬鹿侯爵家を潰せるなら……。いえ、嫌がらせが出来るってだけでも十分! なんでもするわ!」

エリアンテが持て余した怒りを発散するように。ドンとテーブルに拳を叩きつける。

「ああ! ちょ、やば!」

その勢いで書類の山が崩れたな。俺たちのせいか? いや、自爆だよな。

ただ、この様子なら俺たちの目的を話しても、問題ないだろう。

そこで、俺たちはガルスがアシュトナー侯爵家に囚われている可能性が高い事。そして、これがガルスからのメッセージであることをエリアンテに告げた。すると、その黒い目を細めて、ニヤリと笑う。獰猛な笑みだ。まあ、書類を拾いながらだから、全然格好はついてないけど。

「つまり、この謎掛けみたいな文章に合致する場所を探し出せば、アシュトナー侯爵家の悪事を暴けるかもしれないって事ね?」

「ん」

「分かったわ。できるだけの協力はしましょう。こちらでもその場所を探させるわ。勿論、フランの情報は全て伏せるから安心なさい」

よし、これで冒険者ギルドの協力を取り付けられたようなものだ。俺たちだけで探すよりも、遥かに多くの情報が手に入るだろう。

その後、エリアンテにはアシュトナー侯爵家に関連する屋敷の場所をいくつか教えてもらうことができた。まずはそこを確認しにいこう。

「ありがとう」

「いえいえ」

「じゃあ、行く」

礼を言って部屋を出ようとしたフランに、エリアンテが思い出したように声をかける。

「ああ、そうだ、1つ忠告というか、お願いなんだけど」

「なに?」

「最近、王都内の治安があまりよくないのよ。オークションのせいで方々から人が集まって来てるし、辻斬りやら盗賊やら、犯罪者の見本市って感じね」

オークションの為にお金持ちも集まって来ているだろうし、それを目当てにした犯罪者も増えているんだろう。

「わかった。見つけたらぶっ飛ばす」

「ちがうわ! むしろ逆!」

「ん?」

殺る気満々で頷いたフランの言葉を、エリアンテが被せ気味に否定した。

「あなたに暴れられたら、被害が甚大なものになるわ。下手したら、賊を見逃した方がマシなくらい」

なるほど。裏路地で出会ったカルクも似たようなことを言っていたが、エリアンテも同様のことを感じているらしい。エリアンテの場合はフランの情報もあるし、多少好戦的な性格をしていると分かっているから余計に心配なのだろう。

「わかった」

「わかってくれたらいいの」

「周りに被害が出ないようにぶっ飛ばす」

「ぶっ飛ばさなくていいの! あなたなら、もっと穏便に捕らえられるでしょ?」

「わかった」

「本当に?」

「ん」

めっちゃ疑いの目でフランを見ている。

「……頼むわよ?」

「ん」

「本当に頼むわよ?」

俺も気を付けておこう。お疲れ気味のエリアンテの仕事をこれ以上増やしたらかわいそうだからな。