軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

402 オークション会場へ

王都に到着して2日。

俺たちはとある大きな建物の前に立っていた。普段は王都でも有数の劇場として利用されているらしい。

エリアンテがわざわざ作ってくれた王都でのオススメ観光スポットベスト10に、この劇場での観劇が入っていたが、丁重にお断りさせてもらった。

ただでさえフランがジッと劇を見ていることなど不可能に近いのに、内容がドロッドロのラブロマンス、しかもBL系だったのだ。

最初は劇のタイトルが「紫薔薇の剣」だから、剣劇物かと思ったぜ。アクションシーンの激しい派手な劇だったらフランにも見れるかと思って、劇の長さとか簡単な内容を一応エリアンテに確認したのである。

そうしたら、至上の愛をテーマにしたラブロマンスという説明なのに、登場人物が全員男だっていうし。それでどうして愛憎劇になる? 剣って、まさかの下ネタかい!

説明を受けている途中で思わずツッコミを入れそうになってしまった。フランなんか話の2割も理解できていなかっただろう。

どうやらエリアンテはこの手の歌劇や戯曲、耽美本の愛好者であるらしい。いちいち息を荒らげながら、それぞれ役者の肉体美について語ってくれた。この劇に王都中の貴婦人が夢中だというのだから恐ろしい。

やはり文化の中心的な場所っていうのは、退廃的というか、発酵が進むというか、一線を画したものが好まれるのだろうか。

いや、俺もオタクの端くれ。この手の文化に理解がないわけではない。ただ幼気な少女に勧めるのはいかがなものだろうか? 少なくともフランには勧めないでもらいたい。

他のオススメスポットも不安になって問い質してみたんだが、10ヶ所中5ヶ所がそれ系だった。

エリアンテが好む作品の舞台となった宮殿の庭園であるとか、当主が同性愛者だったことで家系が断絶してしまった大公家の墓所だとか、男性同士の愛を題材にした戯曲の大人気作を世に送り出した作家の生家跡地だとか、そんなんばかりだったのだ。

半分は大神殿とか、王城が良く見える丘とか、極めて普通だったので有り難く楽しませてもらったけどね。

特に王城は「日照権? なにそれ?」って感じの超巨大建造物で、外から見るだけでも楽しかった。王城の近くには高位の貴族しか住むことはできないそうだが、特別に下級貴族などが住むことを許されている一角がある。なんと、王城に遮られているせいで日中のほとんどの間日が差し込まないという、最悪の立地であるという。それでも、王城のすぐそばに住むのは名誉ということで希望者は多いんだとか。巡回の兵士さんが貴族の見栄を馬鹿にする態度で色々と教えてくれた。

『とりあえず中に入ろう』

「ん」

会場の入り口で、ギルドで発行してもらった参加証を見せる。一見すると金属の板でしかないが、そこに彫られた模様などでランクが分かれているらしい。

俺たちが貰った参加証は5段階中、上から2番目の権限のある参加証だった。全てのオークションに参加可能で、大商人や各ギルドの幹部などのために用意された特別席に座ることが許されている。

さすがに貴族用の貴賓室には入れないらしいけどね。

『武具オークションの開催期間は今日、明日、明後日の3日間か』

「武器とかいっぱい」

王都観光の途中で予め購入してあったカタログを、フランがパラパラとめくっている。

このカタログは1週間以上前から販売されており、大抵の参加者は目当ての商品が出品される時刻を見計らって会場入りするのが当たり前であるらしい。

欲しい物が出品されるかどうかも分からない状態で、朝から夕方までオークション会場に居座り続けるのは効率が悪いからな。

ただ俺たちの場合、何か目的の品がある訳じゃない。この武具オークションの会場を訪れることが目的である。なので、出品アイテムにはそこまで注目していなかった。

勿論、カタログを全く見てない訳じゃないぞ? ガルスの手紙にはやや不自然な感じで、武具オークションについてと、鞘を作ったということが書かれていた。

なので、鞘が出品されている時間にここで接触してくるつもりだとは思うんだが……。

肝心の鞘のみの出品が複数あり、時間がバラバラだったのだ。鞘の銘や出品者を確認してみたが、そこにメッセージ的なものは読み取ることができなかった。

分からないのであれば仕方ない。俺たちは朝からずっと武具オークションの会場で待つことにしたのだった。

『さて、俺たちは一応特別席ってところを利用して良いらしいが……』

「どうする?」

『うーん』

ガルスがどう接触してくるつもりか分からないが、特別席だとガルスが入れないかもしれない。だとすると、普通席にいる方がいいだろう。

問題は、フランがずっと大人しくしていられるかだな。

『大丈夫か?』

「ん!」

そのやる気がいつまで続いてくれるか……。

3時間後。

『フラン、ほら寝るなって。周りに不審に思われるだろ』

「……ん」

『最悪、叩き出されるかもしれんから』

「……ん」

ダメだこりゃ。仕方ない、俺が念動で支えよう。ただ、気持ちは分かる。出てくるもの出てくるもの、全部武具だし。しかも魔法の品だけではなく、普通の剣100本セットとか、内容が地味なものが多いのである。

そうやって退屈な時間を耐えてると、オークションの午後の部の特別出品商品が告げられた。これはカタログ製作後に飛び入りで持ち込まれた商品などのことで、必ずしも特別製の凄い品物が出品されるという訳ではないらしい。

実際、最初に出品されたのは普通のロングソードだった。強度を損なわずに刀身に彫り物を施したという品だ。

ただ、その次に出品された物を見て、俺は思わず声を上げていた。

『え? あれって……。おい、フラン!』

「……みゅ?」

フランを軽く念動で揺すって起こす。何せ、入札しないといけないからな。特別席だと魔道具を使ってこっそり入札を行えるらしいが、普通席にはそんなものはない。事前に教えられていた、手を挙げて指を使っての入札をするしかないだろう。

「こちらはロングソード用の鞘となっております! 魔獣素材が使われ、作りはしっかりしておりますが、サイズ調整の術はかかっておりません!」

オークショニアが、台に載せられた剣の鞘を運んでくる。茶色い革製の鞘だ。ただ、サイズ調整の魔術がかけられていないという情報が出た時点で、会場が騒めいた。

この世界で、剣の鞘というのは剣に合わせて大きさが変わる物が重宝されている。安物ではその限りではないが、オークションに出品されるような高価な鞘に関しては、サイズ調整魔術が当たり前と言っていいだろう。

それがかかっていないということは、どれだけ素晴らしい鞘だったとしても、一部の剣にしか使えないということになってしまうのだ。

だが、俺たちにはそれも問題ない。何せ、今俺が収まっている、ガルス作の鞘に瓜二つの姿をしているのだ。サイズも一緒だろう。まさしくあれは、俺のための鞘だ。

最後にオークショニアが会場の声をかき消すように、大きな声でその銘を告げた。

「製作者は不明! 銘、師匠の鞘! 最初は1万ゴルドから!」

『フラン! 絶対に落札するぞ!』

「ん!」