軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

400 エリアンテ

ステリアが上の人間とやらを呼びに行った10分後。

「もぐもぐ」

「えーっと……状況が分からないんだけど。いつからここは食堂になったのかしら?」

「もぐもぐ?」

フランがお茶という名の食事をしているテーブルの前に、1人の女性がやってきていた。怜悧な表情のクール系美人さんである。青い髪の毛をアップにしてまとめており、出来る女感がハンパない。俺の第一印象は大会社の社長秘書だな。

フランを見て呆れているのか、その顔に笑みはなかった。むしろ不機嫌そうに見える。この手のタイプが目を細めると、メチャクチャ迫力があった。

外見は20代後半に見えるがその目は明らかに人間種の物ではない。白目が黒く、黒目の部分が緑なのだ。これは、バルボラで出会った半蟲人の錬金術師、ユージーンと同じ特徴である。ただ、ユージーンには触角があったのだが、この女性にはなかった。

ユージーンは蜂の蟲人の血を引いていたはずだが、この女性は違う蟲の特徴を備えているのかもしれないな。

種族的には純血の人間ではないし、外見年齢と実年齢が俺たちの常識と一致しているかどうかわからない。確かユージーンは60歳くらいでも、外見は40代後半くらいに見えていたはずだ。そう考えると、この女性も40歳くらいでもおかしくはないだろう。

明らかに戦士タイプ。しかも実力者だ。食事に集中していたうえ、相手に敵意がなかったとはいえ、ある程度接近されるまでフランが気配に気付かなかった程である。

「ん? もぐもぐ誰?」

「あなたが黒雷姫、よね? 私はここのギルドマスターよ」

なんとギルドマスターでした。そして、ギルマスはフランの前の椅子に座り、向かい合う。その手がクッキーに伸びたが、フランが邪魔をすることはなかった。

ただ、クッキーに触れるまではじっと見つめていたので、もしギルマスの手がカレーやパンケーキに伸びていたら全力で妨害、もしくは威嚇していた可能性が高い。ここでまだまだ制御の甘い王威スキルを使っていたら、大騒ぎになるだろう。その時には俺が全力でフランを宥めなければ。

「もぐもぐわたしはもぐもぐ」

「ああ、口の中の物を飲み込んでからでいいわ」

「ん」

意外と優しい。もしかしたらちょっと怖めの表情はデフォルトなのだろうか? フランは咀嚼していた食べ物を飲み込むと、改めて女性に自己紹介をする。

「ランクC冒険者のフラン」

「私は王都冒険者ギルドのマスター、エリアンテよ」

「んもぐもぐ」

「本当は私の執務室に案内するつもりだったんだけど……」

ギルマスが自分で案内してくれるのか? 随分フットワークが軽いな。

だが、単に人が足りていないだけらしい。

「この時期、ギルドの職員はオークションの準備にかかりきりで人がいないのよ。高ランカーの相手をできるステリアをあそこから外すわけにもいかないし」

そう呟きながら、フランの食事を見つめるエリアンテ。

「私だって、暇じゃないんだけど……」

ごめんなさい。すぐ片付けます。

「まあいいわ。ゆっくりお食べなさいな」

「もぐもぐ」

やはり優しい? 相変わらず表情はきついが、この表情が素の表情なのかもな。軽く肩をすくめてクッキーをかじるエリアンテの雰囲気は、先程よりも大分柔らかいものであった。

20分後。

「さて、改めて話を聞きましょう」

俺たちはエリアンテの執務室に通されていた。めっちゃ散らかってるな。できる女風のエリアンテからは想像できん。積み上げられた書類はまだしも、服などが脱ぎ散らかしてある。

この部屋に人を通す精神力が凄いぜ。もしかしたら自分では当たり前なせいで、感覚がマヒしているのかもしれないが。

「ん。オークションに参加したい」

「売り? 買い? それとも両方かしら?」

「武具オークションを見たい」

「なるほどね……。あなたが装備している武具以上の逸品は中々見つからないと思うけど。まあ、問題ないわ。それだけ?」

「あと、魔石を買いたい」

「それも問題ないわ。魔石オークションはうちが仕切っているみたいなものだし。オークションの仕組みは知っている?」

「しらない」

フルフルと首を横に振るフランに、エリアンテが色々と説明してくれる。

まず、オークションには色々と種類があり、それぞれが専門にアイテムを扱っているという。武具オークションであれば武具しか出品されず、また武具は必ずこのオークションに出品しなくてはならない。

秘めた能力や呪いの関係から、危険な物もあるためらしい。確かに、未鑑定のヤバい能力を持った魔剣がそこらに出回ったりしたら、王都に混乱が起きるだろうしな。売る側、買う側をきっちりと管理せねばならないんだろう。

それ以外にも、管理や目利きの関係から、ほぼすべてのアイテムは専門オークションを通して売買されるという。

例外は、当日持ち込みされたアイテムを扱う、持ち込みオークションだけである。ただ、これは審査がかなり厳しく、僅かでも怪しい商品は取り扱いされないそうなので、鑑定がしづらい高位の魔道具などはほとんど出品されないらしい。

「参加するには色々と厳しい審査があるわ」

「審査?」

「ええ。身元とか犯罪歴とか、色々とね。特に武具と魔石は容易に犯罪に繋がるから。冒険者の場合は比較的簡単に参加資格がもらえるけどね。まあ、あなたにはギルドから全オークションに参加可能な身分証を発行するからそこら辺は気にしなくていいわ」

「いいの?」

「何かあれば、推薦状を書いたガムドに責任とってもらうわよ」

これは下手な真似をしてガムドに迷惑はかけられんな。

「それに、ガムドの推薦云々を抜きにしても、あなたとは仲良くしておきたいわ」

エリアンテがそう言ってニヤリと笑った。ただ、何か企んでいるというよりは、悪戯を告白する悪ガキみたいな表情に見える。

「ふふ。高ランクの女性冒険者っていうのは数が少ないのよ? ましてやあなたレベルの冒険者はね。全くいないわけじゃないけど、結局冒険者の世界は男社会だから。ギルドマスターだってほとんどは男だし。私が王都のギルドマスターになるって決まった時だって、バカな男どもの反発が凄かったわ。まあ、全員黙らせてやったけど」

つまり、女性同士仲良くしましょうってことか。確かに高位の冒険者には圧倒的に男性が多かった。ジャン、獣王、アースラース、フォールンド、コルベルト。ギルマスや元高ランクも、クリムト、ガムド、ディアス、フェルムス、みんな男だ。

女性で高位と言えそうなのは、アマンダ、エリアンテくらいだろう。メアやキアラは冒険者としては高位ではなかったはずだ。エルザはまあ、一応男枠で。

「セルディオの馬鹿のせいで、ただでさえ女性ギルドマスターが減っちゃったし、女性冒険者が活躍してくれるのは私としても大歓迎よ」

セルディオに篭絡され、不正に手を貸していた女性ギルドマスターたちは排除されたとディアスも言っていたな。

「王都で何かトラブルがあったら、相談にきなさい」

「ん。わかった」

多少の打算は有りつつも、フランを気遣ってくれているのは間違いなさそうだ。その言葉に嘘はない。

「前途有望な女性冒険者をつまらないトラブルで潰したくはないわ。王都は馬鹿なクソ貴族とか多いしね。アシュトナー侯爵とか、オルメス伯爵とか、いつか罪を暴いて首を広場に晒してやるわ……」

こ、怖い! しかもアシュトナー侯爵の名前が出たな。どうやら冒険者ギルドとも仲が悪いらしい。虚言の理を使ったのだが、その言葉に嘘はなかった。本気で、晒し首にしてやると思っている。

「いい? 小さなトラブルでも、とりあえず相談にくるの。わかったわね」

そう、念押しする。もしかしたら、フランの噂を聞いているのか? まあ、全くトラブルを起こしてこなかったとは言えないからね。その声色はかなり真剣であった。

王都で何かあったら、遠慮なく頼らせてもらうとしよう。