軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

395 3人の反応

エルザがディアスたちに報告をしに行った10分後。

俺たちはギルドマスターの執務室に通されていた。中では、2人の老人がお茶を飲んでいる。

1人は貴族風の風体をした男だ。白いオールバックと丁寧に整えられた顎鬚、この齢でお洒落を忘れていないことをうかがわせた。

もう一人はやはり白髪の、ガタイのいい老人だ。未だに体を鍛えているのか、羽織の上からでも分厚い筋肉を纏っていることが分かった。目は鋭く、まるでマフィアのドンのような迫力があった。

「やあ、久しぶりだねフランくん」

「フラン嬢ちゃん、ウルムットに来てたのか」

ニコニコと笑う優男がディアス、ニヤリと迫力満点に笑ったのが白犬族のオーレルだ。ともにキアラ婆さんがウルムットにいた頃の知り合いで、その行方を捜していた。

「フランか! 良く戻ったな!」

「人形が喋った?」

2人が挟んでいるテーブルの上に、何やら人形のようなものが置いてある。大きさは20センチ程度だろう。人の姿を模しているのか? かなり精巧な作りで、まるでフィギアのようにも見える。

その人形が声を発したのだ。しかもその声には聞き覚えがあるぞ。

「その声、ルミナ?」

「うむ。今はこの人形に憑依しておるのだ」

ダンジョンマスターはダンジョンの外に出れないのかと思っていたが、そんな裏技があったのか。言われてみると、その人形はルミナの姿に似ている。

「どうしているの?」

「なに、これからのダンジョンの運営について話し合っておったのよ」

ディアスにオーレルにルミナと、町の三大巨頭が揃っているわけか。だが、俺たちにとっては非常に都合がいい。何せ、キアラの話を伝えなくてはいけない相手が1ヶ所に揃ってくれているわけだからな。

「お主こそどうしたのだ?」

「ん。ディアスに指名依頼の報告にきた」

「ほほう? つまり、進展があったってことかい?」

「ん」

「嬢ちゃんへ指名依頼っつーと……」

「キアラの事が何かわかったのか?」

フランの言葉にオーレルとルミナも反応する。

「ん。キアラに会った」

「おお!」

「ほ、本当か!」

「ど、どうしていたのだ?」

フランの真剣な表情を見たからだろうか。ディアスたちが軽く居住まいを正した。ルミナも人形の体ながら、表情などもしっかり変化するらしい。

ディアスが依頼を理由にオーレルを退出させないところを見ると、このまま一緒に報告してしまっていいみたいだな。

「キアラは獣人国にいた」

「やはりそうだったんだね」

「どんな様子だった?」

「元気にしていたか? 進化はどうだった?」

「キアラに会ったのは、獣人国の王都――」

そして、キアラとの出会いから、その後の戦いについて3人に語る。ディアスもオーレルもルミナも良い聞き手だった。

キアラと出会ったシーンでは喜びの声をあげ、魔獣の軍勢との戦いでは手に汗握り、キアラが救援に来た場面では興奮したように歓声を上げる。

勿論、全てを語ることはできない。アリステアの存在や、俺の存在、他にも秘密にしなくてはいけない情報は多い。経験豊かなディアスたちは、フランが隠し事をしていることは気付いているはずだ。それでも、フランが語れる範囲で真実を話しているということも理解しているんだろう。

大きなリアクションを見せながらも、しっかりと話に聞き入っている。

だが、ダンジョンでの話が終盤にさしかかると、その表情が真剣なものに変わった。フランの口調の微妙な変化から、何か不吉な物を感じ取ったのだろう。

そして、フランがキアラの死について語り終えると、ここまではほとんど一緒だった3人の反応は大きく違っていた。

「……キアラ……」

ディアスは居ても立っても居られない様子で立ち上がったのだが、すぐ力を失ったようにソファに座り込むと、何もない虚空を見つめながら大きく息を吐き出した。そのまま、動かない。だが、体の前で組み合わされた両の手は、指先まで真っ赤になるほど強く握り合わされているようだった。

「そうか……変わらねぇな……最期まで……」

脱力したのはオーレルも同じだ。項垂れて、鼻をすすりながら涙を拭っている。だが、その顔には納得した色もあった。多分、戦闘狂同士、通じる物があるんだろう。

ルミナはその場で歯を食いしばっている。だが、どこか嬉しげにも見えた。

「そうか、進化にたどり着いたか。しかも黒天虎とはな……」

キアラの気持ちが一番分かるのは、実はルミナなのかもしれない。死んだことに対する悲しみよりも、キアラが晩年を幸せに過ごし、進化を遂げて果てたということに対する喜びの念が勝っているらしかった。

しばらく沈黙が部屋を支配していたのだが、オーレルがおもむろに顔を上げると、その口を開いた。

「嬢ちゃん……キアラは、最期は笑っていたって言ってたな?」

「ん」

「それは、嬢ちゃんから見て、心の底からの笑いだったかい?」

「もちろん」

「そうか……なら、いい」

長年探していた相手が、つい先日死んだばかりだと聞かされて納得できるはずもない。だがオーレルは自分に言い聞かせるように、何度も頷いていた。

「ゼロスリード……」

ディアスが押し殺した声でポツリとつぶやいた。押し殺しているが、凄まじい激情が秘められているのが分かる。無表情なのが逆に恐ろしいな。

「ディアス。キアラは復讐なんて馬鹿な真似はするなって言ってた」

「そうだね。復讐は馬鹿のすることだ。それに、長年冒険者の死を見続けてきたんだよ? 君たちみたいなタイプがどんな死に方をすれば満足なのか、分かっているつもりだ……」

ギルドマスターをやってるんだ、穏やかな死を望む者ばかりではないと理解しているんだろう。

「でもね、僕は……僕は君たちのような、割り切れるタイプの人間じゃないんだ。もっと汚くて、浅ましい、憎い相手がいれば復讐してやりたいと感じてしまう人間なんだよ……」

力なくつぶやくディアス。しかし、その眼には暗い光が宿っているのを俺は見逃さなかった。何をするつもりなんかは分からないが、ディアスの胸にゼロスリードの名前が確実に刻まれただろう。

だが、彼もこれ以上何かを言ってはフランを困らせると分かっているのか、すぐに笑顔で言葉を発する。

「それにね、キアラは獣人国で酷い目にあわされているのだと思っていたんだよ? それが、幸せに暮らしていたと分かったんだ。それだけでも僕は十分に満足だよ」

スキルを使わずとも完全な本心ではないと分かるが、指摘するような真似はしない。フランが何を言っても、ディアスの心が晴れることはないだろうからな。

「生きて会えれば最高だったのかもしれないけど……。この齢だ。友人がいつの間にか、どこかで死んでいたなんて話、よくあることなのさ」

「がははは! ディアスの言う通りだ! むしろ、俺らの分までキアラを看取ってくれたんだ。感謝しかねぇよ」

「その通りだ。それに、黒猫族に進化の条件を伝えてもくれたそうではないか。感謝する」

結局この後、3人に対してキアラの話を延々とさせられるはめになるのだが、フランはむしろ楽しそうだった。

フランもキアラの事が大好きだし、尊敬しているからな。そのキアラの話を真剣に聞いてくれる相手がいる状況が嬉しいのだろう。フランにしては珍しく、身振り手振りを交えてかなり長い間喋っていたのだった。