軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

370 目指す先

フランとアースラースが殺し合いにしか見えない模擬戦を終えた頃、すでに昼を大きく過ぎていた。俺が出してやったおにぎりの山で少し遅めの昼食をとりながら、フランたちは話をしている。

「もぐ、大分、勘も取り戻せたようだな」

「ん。もぎゅもぎゅ」

半日にも及ぶアースラースとの戦いにより、フランも俺も、スキルの使用が凄まじく上達できていた。まだ以前には及ばないものの、スキルの使用ミスで戦闘中にピンチに陥ることはまずないだろう。

基礎固めはできたってことかな。あとは応用と練習あるのみだ。

『ありがとう。助かったよ』

「もぐもぐ。俺も楽しかったぜ?」

俺のお礼の言葉に対して、アースラースは軽く笑っただけだ。どうも照れているらしいな。礼を言われ慣れてないのだろう。

「あとは各地で積極的に魔獣を狩ってみろ。それが一番効率がいい」

おにぎりを両手に持って口の横に米粒を付けたままのアースラースが、今後必要なことを教えてくれる。

魔獣との命を懸けた訓練か。言われてみたら、有用かも知れんが……。正直言って不安だ。もう少しスキルを使う練習を積み重ねてからの方がいいんじゃないか?

そう思ったんだけどね。

「師匠、魔獣探す」

『まだ早いんじゃないか?』

「今すぐ探す」

フランさんがやる気である。仕方ない、魔獣を探すとしますか。せめて最初は弱めの魔獣から始めよう。ゴブリンあたりがいれば心置きなく殲滅できるんだがな。

俺たちがどんな魔獣を探そうかと相談していると、アースラースが軽く前に進み出た。軽く腹を叩いて、腹ごなしは完了ってことなんだろう。こいつ一人でまあまあ大ぶりのおにぎりを20個も喰ったからな。

「最後に面白いものを見せてやる」

「面白い物?」

「ああ、師匠はいつか神剣を超えると、そう決意していたな」

『フランが、俺なら神剣を超えられると、信じてくれているからな』

「ん。師匠はいつか最強になる!」

その言葉を聞いたアースラースが獰猛に微笑む。そして、ゆっくりとした動作で手に持っていたガイアを、天に向かって突き上げた。何をするつもりだ?

「ならば見ておけ! お前らが目指す先がどれ程のものなのかをな!」

アースラースの気迫のこもった声に応え、その巨体から魔力が迸るのが見えた。

「おおおお! 神剣開放!」

可視化する程の強烈な魔力が、アースラースからガイアへと流れ込む。そして、その魔力を呼び水に、ガイアが真の力を解き放つ。

「おおー」

『うおぉぉ!』

咄嗟に障壁を張らなければ、10メートル以上離れていたはずの俺たちも吹き飛ばされていただろう。それほどの魔力がアースラースの周囲を吹き荒れている。俺たちなら大丈夫だと思ってるんだろうけど、もうちょっと気を使ってほしいよね!

フランは目を輝かせて見てるけどさ!

嵐のような魔力が収まった時、ガイアの姿はダンジョンで見た異様な物へと変異していた。攻城槌と大剣を混ぜ合わせて装飾過剰にしたような、あの姿だ。

ただそこにあるだけで王威スキル以上の凄まじい威圧感が周囲を覆っていた。敵意が無いことが分かっていても、フランが思わず後ずさりしてしまう。

さらに、大地剣・ガイアが発する魔力に呼応するかのように、周囲の大気と魔力と大地が震えている。

『やっぱり鑑定はほとんど効かないな……』

だが、改修によって成長したおかげか、以前よりは少しだけましになっていた。

名称:大地剣・ガイア

攻撃力:4700 保有魔力:20000 耐久値:30000

魔力伝導率・SS+

スキル

保有魔力と耐久値が新たに見えるようになっただけだけどな。進歩は進歩なのだ。

「これから見せるのは、ガイアの力の一端だ。目に焼き付けておけ!」

アースラースがガイアを背に担ぐように、構えた。ガイアから茶褐色のオーラがユラユラと立ち昇る。凶悪で威圧的な魔力がビンビンと感じられた。

「はああぁぁぁぁぁっ!」

もはや振動とかそんなレベルじゃない。アースラースを中心に生じる、まるで地震のような揺れが大地を振るわせる。

「見ておけよ! おらぁぁぁぁぁ!」

アースラースが跳躍した。ただ、その跳躍は不自然さ満載だ。大して力を込めた様子が無いのに、急加速して天へと昇っていくのだ。多分、重力を操作しているんだろう。

そのまま30メートル程の高さに飛び上がると、今度は不自然なタイミングと速さで急降下し始める。

「グラビティ・ブロウ!」

そしてアースラースが渦巻く魔力を纏ったガイアを大地に叩きつけた瞬間、30メートル四方の大地が同時に陥没した。その深さは20メートル以上はある。それだけの質量の大地が、一瞬で圧縮されてしまったのだ。

「すごい……!」

『あ、ああ』

もし俺たちがあの攻撃の範囲内にいたら? なす術なく圧殺されていただろう。少なくとも、次元跳躍で逃げる以外に助かる術はなかったはずだ。

「どうだ? さすがに本気でぶっ放すわけにゃいかねーからな。5割ってところだが……」

これで威力が半減してるって言うのか? 改めて神剣というものの暴威を思い知らされた。同時に、アースラースが暴走したのが本気を出せないダンジョンの中で良かったと思った。

もし外で全開のアースラースと戦っていれば、俺たちなどこの場にはいられなかっただろう。しかも恐ろしいのは、あの攻撃を放ったアースラースが一切息を乱していないことだ。彼自身が言う通り、全力ではなかったのだろう。

「これが、お前たちが目指す先にあるレベル。その一端だ」

「望むところ」

「ほう?」

『フランがこう言ってるんでな。俺が勝手に諦める訳にはいかないんだよ』

「ふはは。そうか! じゃあ次会った時、また模擬戦でもしようや! その時はもうすこし本気を出させてくれ」

「ん! 絶対に本気で戦わせてみせる」

いやいや、フランさん? そんなやる気の目で頷いてるけど、本気のアースラースと模擬戦とか勘弁なんだけど。いや、アースラースは狂鬼化もあるし、模擬戦なんかできないだろ? ということはフランに向けた激励ってことか。

「じゃあ、俺はもういく」

ガイアを鞘に納め、俺たちに背を向けて歩き始めた。彼が向かう先はアリステアの館ではない。むしろ正反対の方向だ。

「もう行っちゃうの?」

「ああ。1ヶ所に長々と留まっていられる性質じゃないんでな」

それは嘘だ。スキルを使わなくても分かる。結局、狂鬼化を持つ限り、いつ自分が暴走するか分からないという恐怖がアースラースに付きまとう。むしろ仲が良くなったからこそ、長くは留まれないのだろう。

フランとの訓練が無ければもっと長くこの場に留まれたんじゃないか? だが、それを言ったら、自らの狂鬼化の発動を早めてまでも模擬戦に付き合ってくれたアースラースの心意気に水を差すことになる。

フランは寂し気な顔で、アースラースに手を振った。

「ばいばい」

『またな』

「おう。また会おう!」

そして、アースラースは颯爽とした足取りで去っていったのだった。

うーむ、格好いいな。ちょっと憧れてしまうぜ。俺がもう少しだけ舎弟体質だったら「アニキ!」って呼んじゃってたかも。