軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

336 睡眠

北に向かって走り出したゴーレム馬車は、思ったよりも揺れた。舗装されていない荒野を走っているわけだし、サスペンションがある訳でもない。揺れてしまうのも仕方ないのだろう。

それでも、こちらの常識では揺れない方らしい。グエンダルファが感心したような声を上げている。王家御用達の高級馬車だからな。魔道具などで振動を逃がす工夫がされているようだった。それでもこの振動か。

思い返すと、以前に乗った馬車は街道を走っていながらこのくらいは揺れていたかもしれない。やはりこの馬車は凄いみたいだな。

『フラン。大丈夫か?』

「ん……だい、じょぶ……」

全然大丈夫そうじゃないな。目をショボショボさせて、首を前後に大きく揺らしている。考えてみたら昨日の夜から戦い通しだった。一睡もしていないのだ。

ゴーレム馬車の振動が睡眠を誘発するらしい。規則正しいって訳じゃないんだけどね。常にユラユラと体が揺れる感じが、眠気を誘うのかもしれない。

普段のフランは睡眠時間をしっかりとるタイプである。むしろ普通の人よりも長めに寝る。そんなフランに徹夜はキツイのだろう。消耗もあるはずだ。しきりに目をゴシゴシと擦りながら、必死に睡魔に抗っていた。

『無理せずに寝ていいぞ』

「ん……」

むしろ寝た方が良い。だが、フランは頑固に眠気と戦い続けていた。

『どうしたんだ?』

「キアラ……喋る……」

片言になってしまうほど眠いのに、頑張るな。どうも、馬車の中でキアラとお喋りがしたかったらしい。

「フラン、喋るのは後でもできる。今は眠っておけ」

「む……でも……」

「体を休めるのも戦士の仕事だぞ」

「わか……た……ぐぅ」

キアラの諭すような言葉にうなずいた瞬間である。フランは崩れ落ちるように眠りの世界へと旅立ったのだった。

「ふむ、寝たか」

「は、早いな」

グエンダルファが驚いた様子でフランを見ている。グエンダルファは神経質そうだし、眠るのが下手そうだもんな。俺も地球では不眠気味だったこともあるのでよく分かる。

「あれ程の戦闘力を持っているとは思えない程あどけない寝顔なんですがね」

「まあ、強くともまだ子供という事よ」

フランは隣に座るキアラの膝を枕に、寝息を立てていた。そのフランの頭をキアラがゆっくりと撫でている。優しい手つきだ。フランの顔には幸せそうな笑みが浮かんでいる。

だが、キアラが急に短い呻き声を上げた。

「む!」

「どうしました師匠?」

突如、鋭い声を上げたキアラに、メアたちが何事かと腰を浮かせる。だが、キアラの表情はむしろ穏やかなものだ。

「いや、フランの涎がな」

「驚かせないでくださいよ」

「くくく。子供に涎を付けられるなど何十年振りだろうな」

キアラが心の底から楽し気に笑っている。

「キアラ師匠に膝枕をねだるような命知らずはおりませんからね」

「頼まれれば幾らでもしてやるぞ?」

「……いえ、遠慮しておきます」

「ふっ。まあいい。それよりもお前たちも寝ておけ、見張りはしておく」

「キアラ師匠もお疲れでしょう」

「年を取ると睡眠時間が短くて困るんだよ」

「それとこれとは違うでしょう。大丈夫です。クイナは種族的に長時間寝ずに済みます。御者席にクイナが居れば見張りも必要ありませんから」

獏は睡眠時間が少なくて済むらしい。他人を眠らせるだけではないんだな。だが、消耗は大丈夫なのか? ここは俺も手を貸そう。クイナに向かって、念話を飛ばす。

『クイナ、俺は人型の分身を生み出せる。御者をしようか? 睡眠が必要ないと言っても、疲れているだろう?』

(ああ、師匠さんですか? 大丈夫です。あとで仮眠を軽く取ればそれで済みますので。疲労はポーションでどうとでも)

『だとしても、精神的な疲労はどうも出来ないだろう?』

(そもそも、私は半分寝て、半分起きていられますから。御者席でも十分休めるんです。それに、ゴーレム馬車は軽い指示程度で済みますので手もかかりませんし)

『わかった。ただ、俺も気配に気を配っておくよ』

(ありがとうございます)

もうキアラたちに俺がインテリジェンス・ウェポンだとばらしても良い気はするが、フランと相談してからじゃないとね。まあ、フランはあっさり教えてしまうと思うけど。

「休むのも戦士の仕事なのでしょう?」

「ふん。確かにメアの言う通りか。しかし、あの寝しょんべんタレに諭されるとはな」

「ねし……何をいきなり言うんです!」

「くく、本当のことだろう? なあクイナ?」

「ええ。怒られるのが嫌で、私に命令して寝具を入れ替えようと画策し、結局陛下に発見されてしまったのも良き思い出です」

「やめろ!」

「お嬢様、大きな声を出すとフランさんが起きてしまいますよ?」

「ぐ……」

その後、クイナだけを残して皆は眠りに就いた。全員、夜通し戦ってきたのだ。なんだかんだ言って疲れていたんだろう。俺は回復魔術など体力を回復させてやりつつ、周辺の気配に気を配るのだった。