軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

330 黒雷の先

「あなた達、無事に帰れるとは思っていないわよね……?」

ミューレリアがその怒りのままに威圧を放つ。破邪顕正を持つ俺でさえ感じる圧倒的な迫力だ。キアラやメアであっても、その顔を僅かに歪めている。

キアラたちと一緒にこの場へと現れた冒険者と思しき獣人の男たちは、全員が完全に尻込みしている。鑑定してみると弱くはない。ランクD以上の実力はあるだろう。だが、覚醒をしている者はいないな。これではミューレリアとやり合うには力不足だろう。

キアラやミアノア、グエンダルファといった援軍の面々が覚醒しているのを見て、某野菜王子が「スーパー〇イヤ人のバーゲンセール」と言っていたのを思い出していたのだが、そんなことはなかったな。冒険者の中でもそれなりに強いはずの男たちが進化できていないのを見て、そう思い直した。

「おいおい、あの女性も王宮メイドだぞ? ほら、あの衣装」

「まさか、死神が2人も同じ場所に……」

「王宮以外で?」

「最強部隊がなんでここに……」

冒険者たちはクイナとミアノアを見て囁き合っている。死神って……。しかも最強部隊? どうやら俺が思っているよりも王宮メイドは有名で、恐れられているらしい。いや、全員があのレベルだとしたら当たり前か。

「本来であれば全員八つ裂きにするところだけど、その剣をこちらに渡せば見逃してやってもいいわよ?」

「……」

ミューレリアはやはり俺に対して執着を見せるが、フランは無言で睨み返す。

「ふん。強情な娘ね」

ミューレリアは軽く顔を歪めてそう呟くと、右手を軽く横に振った。その瞬間何かが俺の刀身の表面で弾ける。

「むっ」

『何かされたな』

「なんで急に……! いいからこっちへ来なさいよっ!」

ミューレリアが苛立ったように再び手を突き出す。だが、同じように俺の刀身が一瞬黒く輝くだけで終わってしまうのだった。

「どういうことなの……?」

再び俺を引き寄せようとしたらしい。だが、破邪顕正の効果によって、術が防がれてしまうようだ。ミューレリアは目を細めて、忌々し気に俺を睨みつけている。

「まあ、持ち帰って調べればわかるわ」

「勝手なことを言わないで」

「もうその剣は私の物よ。だって私がそう決めたんだもの」

「お前なんかに渡さない」

フランが俺の柄をギュッと握りしめる。

「ふふふ。なら、力ずくで奪うまでよ! ジークルーネ、あなたは上で見ていなさい」

「は!」

「後悔しなさい!」

ミューレリアが突き出した腕から、邪気が弾丸のように撃ち出された。普通であれば、反応する事さえ難しい超高速の一撃だ。威力よりも、速度を優先したんだろう。

だが、狙われたフランは弾道を見切り、邪気の弾丸を打ち払う。速度優先と言っても、かなりの威力があるはずだが、俺の刀身には傷1つない。

その直後、キアラたちが動いた。

「――ファイア・ジャベリン!」

「白火!」

「クオオォォ!」

「ガルウウ!」

「お、俺たちもやるぞ!」

「おう!」

キアラは油断なく詠唱を行っていたんだろう。無効化されてしまう雷鳴魔術ではなく火魔術を選んだのは偶然なのだろうが、さすがの戦闘勘だ。

メアやリンドたちの攻撃がそれに続き、さらに冒険者たちの放った魔術や矢がミューレリアに襲い掛かった。

「く!」

ミューレリアが妙に焦った表情で障壁を張る。だが、自らの障壁が全ての攻撃をあっさりと防いだのを見て、ホッとした表情を浮かべた。その直後には、勝ち誇った表情でキアラたちに言い返す。

「あ、あはは! 無駄よ!」

どうやら俺に邪術が効かないせいで、自分の力が弱まっているのではないかと多少の疑心暗鬼に陥っていたらしい。しかし、20人以上の同時攻撃を防御したことで、再び自信を取り戻したのだろう。

だが、ミューレリアの防御力はキアラも想像していた。最初から攻撃を目くらましにするつもりだったのだ。

「黒雷転動っ!」

そう呟いた直後、キアラの姿はミューレリアの真後ろに移動した。まるで瞬間移動したかのように。俺でさえ、キアラが超高速で動いたのだと、一瞬遅れて理解したのだ。この場で転移ではなく高速移動だと気づいたのは、俺とフラン、かろうじてメアだろう。クイナとミアノアは表情が読めないから分からん。

だが、今の移動速度は何だ? 黒雷が体を包んだ――というよりかは、体がまるで黒雷と化したかのような神速であった。

フランが閃華迅雷を使い、スキルと魔術で速度を限界まで上げたとしても、あの速度には及ばないはずだ。そして、直前に呟かれた『黒雷転動』という言葉。

もしかしたら、黒雷招来と同じような、閃華迅雷状態でしか使えない技なのだろうか? だが、フランは使えないんだが……。

ミューレリアは俺とフランに意識を集中していたせいか、反応が遅れている。

「はぁ! インパクト・スラッシュ!」

「くあっ! やったわね!」

凄いな。キアラが火の属性剣に剣聖技を組み合わせて、ミューレリアに傷を負わせたぞ。やはりどれだけ強くとも、無防備に攻撃を受ければダメージを食らうのだ。ただ、キアラにとっては全力に近い一撃でも、ミューレリアにとってはかすり傷のようなものであるようだが。

「今の動き! あははは! まさかこの場に3人も黒天虎が居合わせるなんて! 凄いわね! 500年前でも、そうそうなかったわよ!」

「お前もそのようだな!」

「ええ! そうよ! 黒天虎であり、邪神の眷属でもある! いわば双方の力を持っているというわけ!」

「なるほどな! はぁぁ! 黒雷転動!」

「ちっ!」

また同じ技を使った! だが、それを見て確信する。黒天虎には、閃華迅雷にはまだ先があったのだ。俺がカンナカムイを使いこなせていなかったように、フランも黒雷を使いこなせてはいなかったということなのだろう。

キアラは進化したばかりのはずだが、日々殺し合いをし続けて得た膨大な戦闘経験と、闘神に選ばれるほどの抜群の戦闘センスを持っている。だとすれば、得たばかりのスキルを使いこなせていたとしても、おかしくはなかった。

「おらぁ!」

「このぉ!」

その後は激しい剣戟となるが、一対一ではやはりミューレリアが圧倒的に強い。互いの黒雷は雷鳴無効のおかげで一切効かず、さらにキアラの斬撃もミューレリアには大きな傷を付けられない。だがミューレリアの攻撃が一発でも入れば、キアラは致命傷になるだろう。

戦闘狂のキアラは楽しそうに斬り合ってはいるが。

『フラン、加勢するぞ!』

「ん」

ミューレリアは俺と、俺を握るフランをずっと警戒している。フランが軽く俺を構えただけで、一気にその緊張度合いを高めた。それに構わず、フランが飛び出す。

あとで怒られるかもしれないが、今はミューレリアをどうにかすることが先決だ。