作品タイトル不明
321 新たなる邪悪
「さて、そろそろ体力も回復した。行動に移るとしようか」
「ん。別動隊のところに行く」
「あちらは任せておいて問題ないとは思うがな。それよりも、魔獣が現れた北を調べた方がよくはないか?」
だが、フランは頭を振った。
「それは後で良い。みんなの安全が一番」
「ふむ。そうか。ではまずは邪人の別動隊を片づけるとしよう」
「では、少々お待ちください」
クイナがテーブルなどを手品の様にスカートの中に仕舞って行く。次元収納に近いスキルであれば、普通にその場で収納できると思うんだけどな?
『わざわざスカートの中に仕舞うように見せるのは何でだ?』
「それがメイドの嗜みですので」
分からん。でも、何かこだわりがあるというのは分かった。
「行くか。出でよ、リンド!」
「クオオオォォ!」
「今のリンドであれば3人同時でも乗せられよう!」
「クォ!」
高速飛行ができるリンドの背に乗せてもらえるのであれば、かなり早く移動できそうだな。
「もう戦闘が終わっていてもおかしくはないがな――っ!」
「ん!」
メアが再度召喚したリンドに乗ろうと、リンドを伏せさせた直後であった。俺たちは全員で同時に北の空を仰ぎ見た。凄まじい魔力を感じたのだ。離れていても分かる強大な魔力が高速で接近してくる。それこそ、リンド並の速さだろう。
「何か来るぞ!」
「ん!」
その魔力の主は、あっと言う間に俺たちの頭上へと到達した。肌を突きさす様な、攻撃的で威圧的な魔力が辺り一帯を包みこんでいる。
『おいおいおいおい……。ワルキューレが可愛く思えるレベルじゃねーか……』
フランとメアも息を飲むほどの魔力だ。それだけでも圧倒的だったのに、次の瞬間にはその魔力が邪気に塗り替わった。そう、俺たちが恐怖さえ感じていたその魔力でさえ、抑えているレベルだったのだ。
まるで邪神でも現れたのかと思うほど、深く悍ましい邪気である。その邪気の主は、上空に悠然と佇んでいた。左右には従者と思しき影が複数付き従っている。
だが、俺たちが驚いたのは、発散される凶悪さにだけではない。その邪気を発しているのは、可愛らしい少女だったのだ。しかも、見覚えのある外見をしている。
「……黒猫族」
そう。フランが呟くように、邪気をまき散らす謎の少女は、黒猫族の外見的特徴を備えていた。
「僅か3人にやられてしまうとは、使えない者たちね。もういいわ。せめて私の糧となりなさい」
少女が妙によく響く声でそう宣告した次の瞬間、周囲に散らばっていた魔獣たちの死骸が光り輝く。そして、光が収まった跡には、魔獣たちの死骸は影も形も残っていなかった。
膨大な魔力が少女に流れて行ったのが分かった。どうやら、少女が何らかの方法を使って、魔獣や邪人の死骸から力を吸収したらしい。その身に纏う邪気が、僅かに力を増したのが感じられる。
元々膨大な力を秘めているため「僅かに」という表現になってしまったが、俺たちからすれば凄まじい量の魔力であろう。100億円持っている人が100万を手に入れても大したことがないと思うかもしれないが、庶民からしたら大金と言えるだろう。例えるならそんな感じだ。
俺が吸収した魔石や、次元収納に仕舞ってる素材などは少女の影響を受けなかったらしい。それだけが不幸中の幸いかもな。
見えないエレベーターにでも乗っているかのように、空中からスーッと降りてくる少女。少女の左右は妙齢の美女が固めていた。その後ろには全身鎧を着込んだ巨漢の騎士が2体控えている。少女の魔力が膨大過ぎて気づかなかったが、従者たちも強大な力を秘めていた。それはそうだろう。女性従者2人はワルキューレ、騎士2人はデュラハンなのだ。
俺はそいつらの鑑定結果に戦いていた。なぜなら、俺たちが激戦を繰り広げたワルキューレよりも、この2人の方が強かったのだ。デュラハンの能力はほぼ互角だろう。人数で言えば僅か5人。だが、その戦力は俺たちが殲滅した魔獣と邪人の軍勢を大きく上回っていると言えた。
フランが意を決して口を開く。フランが言葉を発するのにここまで躊躇うのは珍しい。だが仕方ないだろう。相手の魔力はそれ程強大なのだ。
「……誰?」
怯えとまではいかなくとも、凄まじく緊張している。獣王と出会ったことで強者への耐性は付いているが、それでも目の前の黒猫族の少女は規格外すぎた。
「あははは。私の名前はミューレリア! 知らないかしら?」
「知ってる」
「あら? 本当に?」
フランがそう言った瞬間、ミューレリアが嬉しそうにニコリと微笑む。知ってるも何も、ワルキューレから聞かされた親玉の名前じゃないか! こいつがミューレリア? 鑑定をしてみたが、ステータスを見ることはできなかった。
「うふふ。お行儀が悪いわね? 鑑定はダメよ? 効かないようにしてあるから」
鑑定察知を持っている上、鑑定遮断も所持しているのか? しかも天眼を無効化するレベルの? 本当に何者なんだ?
「どこで私の名前を聞いたのかしら?」
「ワルキューレが言ってた」
「なーんだ……そっちか」
どうやらフランの答えはミューレリアのお望み通りの答えではなかったらしい。明らかに落胆している。だが、メアたちは驚愕した様子で、ミューレリアを見つめていた。
「黒猫族のミューレリアだと?」
「あら? そちらのお嬢さんは私の事を知っている様ね?」
「本人か?」
「さて、あなたがどのミューレリアの事を言っているのかにもよると思うけど?」
「……邪神に魅入られた王女」
「当たり!」
「メア? 誰?」
ろくでもない相手なのは確かだと思うが。メアの説明を聞いたら、そんな感想では生温いと言う事が分かった。
「奴は、500年前、黒猫族が神による天罰を受けるきっかけを作った人物だ」