軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

287 フラン先生の魔術講座

宴会の翌日。

少し遅めに起きたフランは、朝食をしっかり食べた後に村の中を見て回っていた。

皆がフランを見つけると大きく頭を下げる。もしくは拝む。とくに老人は跪いて拝むのだ。本当に崇拝対象になっているな。

『長閑な村だな』

「ん。畑ばっかり」

いわゆる農村であるようで、多くの黒猫族たちが畑を耕している。狩猟の類はほとんどしておらず、肉類は行商から僅かに入手しているらしい。草食系猫獣人か……。

特に若者たちの弱々しさは、厳しい土地で生きていけるのか心配になる程だ。

ある年齢以上の黒猫族たちは前王の時代を経験しており、戦場で囮や肉壁にされた時に少しでも生き残るために、体を鍛える者も多かったらしい。

だが、戦場に出ずとも良く、それでいて自分たちは弱いと刷り込まれている若者たちは、最初から強くなることを諦めてしまっている。

畑を耕してのんびり暮らすのが染みついてしまっているのだ。昨日のゴブリン殺戮ツアーの経験者であればともかく、それ以外の黒猫族は進化を目指すようには思えなかった。

そもそも、邪人を1000匹倒しただけじゃ進化は出来ない。進化できない様に嵌められていた枷が外れるだけだ。そこからさらにレベルを45まで上げなくてはならなかった。

黒猫族たちに、そこまで戦う気概があるとも思えない。

だが、フランは心配していないらしい。というか、俺みたいに短いスパンでは考えていない様だ。フランも黒猫族だからな。彼らがすぐには変わらないと分かっているんだろう。

むしろ、今から始めて何年、何十年後に進化する者が現れ始める。そのくらいに考えている様だ。

「でも、1つやっておきたいこともある」

『なんだ?』

「魔術の修行法を伝えておきたい」

『なるほどな』

進化するだけなら、邪人を1000匹狩って、レベルをマックスにすればいい。だが、黒天虎に至るためには、魔力と敏捷が高く、雷鳴魔術を使えなくてはならない。

魔力と敏捷は個人の鍛え方によるから何とかなるだろうが、雷鳴魔術はかなり難しい。火魔術と風魔術が高レベルで、かつ雷鳴魔術の素質が無ければ開花しないからな。

それでも、幼い頃から修行していけば、覚えることができる者も出てくるはずだ。だったらその修行法を黒猫族たちに広めるのは、悪い事ではないだろう。

『いいんじゃないか?』

魔術の修行に関しては、アマンダに一通り聞いたことがある。実践も交えて伝えることはできるはずだ。

フランは村長を探して村を回った。そして、何やら若者数人と真剣な顔で話をしている村長を発見する。

「村長。おはよう」

「おお、黒雷姫様おはようございます」

「どうしたの?」

「いえ、この者たちが鍛えたいと言っておりましてな。どうするか相談しておったのですじゃ」

若者たちには見覚えがあるな。昨日、フランと共にゴブリンに退治に出かけた中にいたはずだ。

「お、俺たち強くなりたいんです!」

「進化できるか分からないけど、もう逃げるだけなのは嫌なんです」

「せめて自分たちの身が守れるくらいにはなりたいと思って……」

そうかそうか、フランのやったことは無駄にならなかったか。

気合十分な若者たちの言葉に、フランはコクコクと頷いた。そして、口を開く。

「わかった。じゃあ、ちょうどいい話がある」

「もしかして鍛えて下さるんですか?」

「似たようなもの? 魔術の修行方法を教える」

「おお! 真ですか!」

大昔だったらいざ知らず、現在では魔術の修行法などすっかり失われているようだ。それに、自分たちが魔術を使えるなどとは夢にも思っていなかったらしい。

「わ、儂らにも魔術が使えますでしょうか?」

「多分。素質がある人はいるはず」

「おお、そうなのですか」

「ん。特に火と風の素質が高いと思う」

まあ、種族の特性として、雷鳴の素質も高いだろうし? と言う事は、火と風の素質が高い者も多いはずだ。

「魔術が使える人はいない?」

そいつに修行法を伝えられれば手っ取り早いんだが……。こんな田舎の村に魔術師など居るはずがないと言う回答だった。

魔術が使えれば色々なところで引く手数多だろうからな。

「じゃあ、人を集めて」

「わ、わかりました! 早速集めてまいりますじゃ!」

「あ――」

畑仕事が終わってからでいいと言おうとしたんだが、既に村長が走り出していった後だった。

10分後。

集まった200人近い黒猫族たちは全員体育座りをして、期待の籠った眼差しでフランを見つめている。どうしても仕事から離れらないもの以外を全員集めてきたらしい。

「じゃあ、修行の仕方を教える」

「「「はい!」」」

「まずは火魔術の修行方法から」

そうして、フランは魔術の修行方法を語り出した。まあ、以前アマンダに教わった事そのままだが。

毎日火を扱い、火に近寄り、火を見て、火傷覚悟で火に触れる。そうして火のイメージを自らに叩き込み、火を夢に見るようになれば、火魔術を習得できる。

その説明を聞いた黒猫族たちはシーンとしてしまった。あまりの荒行っぷりに言葉が出ないんだろう。

そんな中、意を決したように村長が口を開いた。

「そ、その修行を行えば、火魔術を習得できるのですな?」

「ん。素質さえあれば」

「分かりました。早速修行の場を用意させましょう」

おお、凄いな。信じてもらうためにもっと長々と説明する必要があるかと思ったのに、彼らはフランの言葉を信じた様だ。

自分たちが修行に耐えられるかという心配はしていても、その修行に効果があるかどうかという心配は一切していない。改めてフランへの信奉ぶりを目の当たりにしたぜ。

「じゃあ、次は風の修行について」

そうして、フランによる魔術講座は淡々と、それでいて参加者たちの異常な熱気と共に進んでいくのだった。