軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

279 キアラの身分

「まずはシュワルツカッツェに向かおう。そこで、他の黒猫族にも教えてやらねば」

「師匠が寝ている間に、伝わっていると思いますよ?」

「それならそれでいい。志を同じくする者を探して、共に邪人を狩ればいいからな」

「シュワルツカッツェ?」

首を傾げているフランに、グエンダルファが説明してくれる。

「今の王によって造られた、黒猫族のための村だ。奴隷から解放された黒猫族が、静かに暮らしている」

なるほど、そこは行ってみたいな。

キアラはどうするんだ? 本当に動くなら、同行しても良いと思うんだが……。

だが、今にも部屋を飛び出そうとするキアラを、がっしりと捕らえる存在が居た。

「まだ無理をさせる訳にはいきません」

「ぐっ、ミア!」

「少なくとも、あと1週間はご静養くださいませ」

キアラはその身のこなしを軽く見ただけでも、相当強い。進化していないが、先程聞いた闘神の寵愛を幼い頃から所持していたという話も合わせると、素の状態で普通の獣人の進化状態を上回っていてもおかしくはなかった。

そんなキアラが、ミアを振りほどくことが出来ない。おいおい、この召使い、メチャクチャ強いんじゃないか?

「さ、さすが王宮の女中……」

「有名なの?」

「ああ。王族や賓客の世話をする使用人は、幼い頃から鍛えられた、超一流の者ばかりだと言う。それは仕事だけに止まらず、戦闘力に関しても言えることだと聞いている」

ミアと言う召使いも、御多分に漏れず凄腕であるらしい。進化していることは勿論、戦闘技能をしっかり習得している様だ。

「少なくとも、俺では勝てんだろうな」

「ほほう」

そんなに強いのか。

「フラン、お前は他国の出の様だが、この後どうするんだ? 王都にしばらくいるのか?」

キアラが急にフランに話しかけてくる。うわー、話の誤魔化し方が下手だなー。どうにか召使いの注意を逸らそうと言うのだろう。

「この国には、キアラと、もう1人に会いに来た」

神級鍛冶師についてはどこまで話していいかわからない。国の上層部しか知らない極秘事項であるようだし、キアラにその話をしていいものかどうか。

それが分かっているので、フランも言葉を濁していた。その様子でキアラも察したらしい。

「訳有りか」

「獣王から、国の偉い人に話を聞くように言われてる」

「そうか。私ではお役に立てそうもない。こんな場所に部屋を与えられてはいるが、特別な身分がある訳じゃないからな」

「何を言っておられますか……。今のこの国にキアラ様に面と向かって逆らえる者はほとんどいませんよ?」

「どの口がそれを言っている? 今まさに取り押さえられているんだが?」

「まあ、それはそれ。これはこれでございますので」

マイペースな召使いだな。

「ですが、国王様にそのお子様がた。さらには親衛隊に将軍がた。他にも我ら王宮の使用人含め、キアラ様の弟子は数多くいらっしゃいます」

「鍛え過ぎだったと後悔しているよ。もう少し手を抜くべきだった。そうしてれば、ここで邪魔をされることもなかっただろうに」

「ご愁傷様です。次はお気を付けくださいませ」

「ちっ! ぐっ、ごほっ!」

「ほら、まだお体が万全ではないのですから。今は気分が高揚していて、体の不調を忘れているだけです」

「むぅ」

「それに、身分が無いのも、キアラ様が拒否されただけで、その気になれば名誉大将軍程度はどうとでもなるかと」

つまり、身分は奴隷上がりの平民のままだが、影響力は国さえ動かすと。そっちの方が凄くない?

「まあいい、誰か上の奴を呼んでやろう。ミア」

「はい、かしこまりました」

ミアが羊皮紙に何やら書いて、部屋の入り口に控えていた女中に手渡した。多分、誰かを呼びに行ってくれたんだろう。

「この程度で私の感謝の気持ちは表しきれんがな。何か出来ることがあったら言ってくれ。大概の事はしてやるぞ?」

「いい。感謝してほしいわけじゃない」

「ふははは! いいな! 気に入った! では感謝などではなく、単なる好意だ。気に入った相手に何かをしてやりたいと言うのは、おかしい事じゃないだろ? ムカつく奴の首でも取って来てやろうか?」

「それもいい。自分でやるから」

「そうか? そうだな。その方が楽しいからな」

「ん」

フランとキアラは妙に馬が合うらしい。ディアスたちも、若い頃のキアラとフランが似ていると言っていたしな。黒猫族同士で、戦闘好き同士。これは気が合うだろう。

フランとキアラが和気藹々というには少々物騒な戦闘談議に花を咲かせている中、誰かが部屋にやって来た。

「失礼します。キアラ殿、お呼びですかな?」

入ってきたのは、ロマンスグレーの初老の男性だ。法衣の様なローブを着こんだ、見るからに地位が高そうな人物である。その老人にキアラが気軽に話しかけた。

「おう、待ってたよ。ちょっと紹介したい子が居てな」

「ほう。そちらの――黒雷姫殿ですな?」

「なんだ、知ってるのか」

「それはもう。知らぬは寝込んでいた貴女くらいのものでしょう」

男性はフランに向き直ると、優雅に一礼する。

「陛下からの連絡で、貴女に便宜を図る様に言われております。また、例の方への紹介状も準備させますので、ご安心を」

「ん。それで、誰?」

「おお、これは失礼をいたしました。この国で宰相を務めております。レイモンドと申します」

宰相? めっちゃ偉い人だった! にしては腰が低いな。

「レイモンドは下級文官からの叩き上げだから、出来る奴だぞ」

「前王様の時代は冷遇されておりましたからな」

優秀だが元々は地位が低かったのを、今の王に引き上げられたってことか。だから腰も低いのかもしれない。

「ランクC冒険者のフラン。黒雷姫って呼ばれることもある」

「存じ上げております。それと、紹介状以外に、何かご希望はございますか?」

(師匠? 何かある?)

『いや、俺は特にはないが……。フランはどうだ?』

(一つある)

『へえ? なんだ?』

(黒猫族の村に行ってみたい)

『うん。それは良いんじゃないか? 場所を聞いてみるか』

黒猫族に進化の条件を広めると言う目的のためには最適の場所だろう。

「シュワルツカッツェに行ってみたい」

「おお。すでにお聞きでしたか。むしろこちらからお願いしたいくらいです。地図などをご用意いたしましょう」

「お願い」