作品タイトル不明
274 手紙と魔道具
手渡された封筒を開け、中の手紙に目を通している。
「なるほどな……。黒雷姫よ。良く届けてくれたの。王女様については今すぐこちらで対応させてもらおう」
やっぱり王女様の護衛に関して書かれた手紙らしい。だがそんな重要なことなら、遠距離通話の魔道具で伝えたら一瞬だし、確実だったんじゃないか?
(なんで手紙?)
『フランもそう思うか?』
(ん。魔道具を使った方が早い)
フランも疑問に思っていたらしい。
「助かったぞ」
「ん……」
「ほ? なんじゃ? 何か聞きたいことでもありそうな顔じゃな?」
いや、確かにフランは手紙の事を疑問に思っていたけど、それを見抜いたのかよ。俺じゃなきゃ分からないくらいしか表情は変化していないのに。
思わず鑑定したが、心を読む様なスキルはない。老人故の経験か?
「何で分かった?」
「伊達に永く生きている訳ではないでの」
まじで年の功だった! 侮れんな爺さん。
「……魔道具で十分だったのに、なんで手紙?」
「ほほ、やはり気づくか。色々理由はあるんじゃが、聞きたいかね?」
「ん」
「よかろう。教えてやるとしようかのう」
ギルマスが持っていた手紙をフランに差し出す。
「いいの?」
「うむ」
読んでみると手紙には、王女様を狙ったバシャール王国の暗殺者が獣人国に入り込んでいるという事と、危険なので護衛を増やすべきだという事が書かれていた。それ以外に、何やら暗号めいた数字などが書かれている。
爺さんを見ると、油断ならない目でじっとフランを見つめていた。
「この変な数字は?」
「王女様の向かった場所を教える暗号じゃよ。中を見られても、簡単にはばれないようになっているんじゃ」
そこまでして手紙を使う理由は何だ? すると、ギルマスが説明してくれる。なんと遠距離通話の魔道具はバシャール王国の魔術師ギルドで開発された物らしい。そのため、バシャール王国には遠距離通話を盗み聞きできる技術があるのではないかと噂されているのだと言う。
実際、通話を盗み聞かれたせいで起きたと思われる暗殺や侵攻が過去にあったらしい。真偽は定かではないらしいが……。その可能性がある以上、真に重要な情報は手紙でやり取りをしているらしい。
「盗み聞きの方法さえ分かれば、防ぎ様もあるんじゃがな」
「分からないの?」
「うむ。と言う事で、高速で移動出来て、おいそれと手紙を奪われない、お主の様な実力者の存在は非常に有り難いのう。まあ、手紙を使う理由はそんなところじゃ」
「ん。わかった」
バシャール王国が遠距離通話を盗聴できるという事や、暗号の 件(くだり) は本当だ。ずっと虚言の理を使っていたが、反応はなかった。だが、最後の一言。「理由はそんなところじゃ」と言う部分。ここは嘘だ。つまり、他にも何か理由があるらしい。
うーん、気持ち悪いな。いや、大きな組織だし、何でもかんでも教えてくれるわけがないのは分かってるけどさ……。悪い事に利用されたりしてないよな? どういう悪事なのかと言われたら具体的には言えないが、段々疑心暗鬼になってきてしまった。
(師匠?)
訝し気なフランに、どうするか相談してみる。
(……何となく聞いてみる)
『そうだな……。それで拒否されるようだったら、仕方ないが諦めよう。ギルドを敵に回すわけには行かないし』
(ん)
そして、フランがギルマスを見つめながら、口を開いた。
「それだけなはずがない」
何気なくとか、さり気なくとか、一切考えていないどストレートな質問の仕方だな。何となく聞くって言ってなかった?
「ほう?」
「手紙を速く送るなら、鳥がいる。何を隠してる? 何故、私に手紙を持たせる必要があった?」
「ふむ。当然、鳥も、普通の伝令も送っておるぞ。複数送るのは当たり前じゃ。じゃが、それ以外にも理由はある」
「それは?」
「ギルドの機密に当る事柄じゃ、ランクC冒険者に教えることは出来ん」
うーむ。そう言われたら、何も言えないな。
「……」
「ふぅ。そう睨むでないわ。一つだけ言えるとすれば、この手紙によって、獣人国冒険者ギルドはお主を信頼に足る冒険者であると確かめることが出来た、ということじゃな」
「何かの審査だった?」
「ノーコメントじゃ。じゃが、お主がこちらに疑念を持つように、こちらとしてもいきなり現れた国内での実績のない強力な冒険者を、完全に信頼することは出来んのじゃよ」
それで、この手紙か……。どんな方法でフランが信頼できるか判断したのかは分からんが、中をのぞいたりせずに手紙を真面目に配達してよかった。フランを信頼してくれたっていう言葉にも嘘はないし、これで獣人国内での活動がしやすくなっただろう。
言われてみたら、フランを警戒する気持ちは分かる。普通の獣人たちは、覚醒しているという一点でフランを受け入れてくれるが、獣人だからと言って必ずしも獣人国の味方だとは限らないだろうしね。
「なるほど」
「納得したかね?」
「一応は」
「今回の手紙の配達は本当に助かった。報酬には色を付けておこう」
「ん。わかった」
報酬を受け取った俺たちは、そのままギルドに併設されている宿に向かった。さすがに昼夜問わず活動している冒険者を相手にしているだけあり、24時間受付をしてくれるらしい。
フランは取った部屋に向かうと、そのままベッドにダイブした。
もう深夜だし、眠いんだろう。
『フラン、ほれ、外套は脱ごうな~』
「う」
『浄化かけるぞー』
「ぬ」
『ほら布団かけないと』
「む」
すでに半分眠っているフランの体を念動で動かしつつ、世話を焼く。
『じゃあ、お休み』
「ん」
おおー、3秒で夢の中だよ。のび太くん並の寝つきの良さだ。
『うんうん。子供は寝るのも仕事だからな』
明日は王城に行く。ギルマスが案内の人間を付けてくれるらしい。
いよいよ黒猫族の先達でもあり、フランの進化に間接的に貢献してくれたキアラに会えるだろう。
どんな人物なのか……。願わくば、フランが甘えられる様な人物であると良いな。