軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

266 蠍獅子の森

フラグって言うのは、本当に恐ろしく厄介なものだ。時にはモブ男と学校のマドンナの有り得ない恋を演出し、時には娘の写真を大事にする家族思いの兵士を理不尽な死に追いやり、時には99%手中に収めていた勝利を「やったか?」の一言で台無しにする。

何が言いたいかって言うと――。

「ガルオオオオオォォ!」

『マンティコアに出くわす確率は100分の1じゃなかったのかよ!』

「ん、ラッキー」

『フランがフラグを立てるから!』

抜け道を使って蠍獅子の森を通り抜けようとしていた俺たちの目の前には、体高が5メートル近い、蠍の尾を持った巨大な獅子が立ちはだかっていた。

種族名:マンティコア:魔獅子:魔獣 Lv31

HP:399/819 MP:81/196

腕力:201 体力:591 敏捷:350 知力:203 魔力:187 器用:267

スキル

足裏感覚:Lv1、鋭敏嗅覚:Lv6、隠密:Lv4、火炎吐息:Lv6、警戒:Lv4、硬化:Lv8、剛力:Lv5、衝撃耐性:Lv6、状態異常耐性:Lv6、生命探知:Lv4、爪闘術:Lv7、爪闘技:Lv7、土魔術:Lv5、毒噴射:Lv6、尾撃:Lv9、火魔術:Lv4、物理障壁:Lv7、咆哮:Lv5、暗視、気力操作、体毛強化、体毛硬化、魔毒牙

説明:高い防御力を持つ、蠍の尾を備えた獅子の姿をした魔獣。その防御力は脅威度Cの魔獣に相応しい。ただし、攻撃力は同脅威度の魔獣の中では下位にあたり、毒の尾にさえ気を付ければ比較的戦いやすいとされる。脅威度C。魔石位置は心臓部。

過去に戦った脅威度Cの魔獣に比べて、ステータスは遜色ない。しかも、説明にも書いてある通り、高生命力な上、硬化:Lv8、衝撃耐性:Lv6、状態異常耐性:Lv6、物理障壁:Lv7、体毛強化、体毛硬化と、守備系スキルが揃っている。

魔毒牙に剛力もあるし、侮ってはいけない相手だろう。

まあ、万全の状態であれば、だが。

「死にかけ?」

『そこまでは行かないが、生命も魔力も半減してるのは確かだな』

マンティコアは、全身に深い傷を負っていた。同族の縄張り争いにでも敗れたのだろうか? 確か、冒険者ギルドでも抜け道に出没するマンティコアは、若い個体か、同族に負けて逃げて来た個体がほとんどだと言っていた。

このマンティコアは正にそうなのだろう。右前足は見るからに深い傷を負っているし、左目は深い傷が穿たれ完全に見えていないだろう。しかも、マンティコアの命綱とさえ言える尻尾などは、半ばから千切れていて毒針部分がなかった。

「ん」

「グルルル」

フランの強さを感じ取ったのか、どこか及び腰だ。だが、足の怪我のせいで逃げられず、完璧に戦闘態勢だった。

『さて、魔石と経験値を頂くとするか』

「ん!」

『ウルシ、周辺の警戒だ。このマンティコアと争った個体が近くにいるかもしれん』

「オン!」

『フラン、行くぞ!』

「ん! 覚醒!」

今回は俺が攻撃担当だ。物理的な防御力の高いマンティコアは、魔術で押す戦術が有効だと判断したためである。

防御担当のフランが覚醒を使い、回避力を上昇させた。察知系スキルと高い敏捷で攻撃を回避しつつ、完全障壁と剣王術でマンティコアの攻撃を受け流す。勿論、攻撃担当とは言え、俺だって逃げるための転移はいつでも使えるように準備中だ。

「グラオォォォォォ!」

「ふっ」

『よし、良い位置だ! サンダー・ボルト! サンダー・ボルト!』

「ギャオオオォォ!」

雷鳴魔術の良いところは、動きを鈍らせる効果が高いところだよな。ダメージも与えられて、かつ動きが遅くなれば攻撃を避けやすくもなる。

「ん! 効いてる!」

『よし、このまま仕留めるぞ』

俺はさらに数発の雷鳴魔術を連続で放った。多分、開幕カンナカムイ――いや、トールハンマーでも勝てたかもしれない。だが、威力が高すぎると魔石まで破壊してしまう可能性があるからな。

このまま中威力の術で押し切る!

『ライトニング・ブラスト! ライトニング・ブラスト!』

まあ、中威力と言っても、比べるのがカンナカムイやトールハンマーだ。脅威度Cの魔獣にダメージを与えている時点で、高威力と言えるかもしれんが。

そのまま4発目のライトニング・ブラストを叩き込んだところで、マンティコアの生命力が尽きたのだった。

「……やったの?」

『フラン! フラグ!』

「ん?」

いやー、今回は大丈夫でした。マンティコアさんは完全にお亡くなりになっている。俺はマンティコアの死体に突進し、その魔石を吸収した。

『久しぶりの、大物だぁ!』

流れ込んでくる魔力が、俺の気分を高揚させる。いやー、強力な魔獣の魔石を吸収するのは気持ちいいね! 魔石値も想像以上に多い200も手に入ったし、もう1匹くらいなら戦ってもいいかな?

そう思ったが、他のマンティコアの気配などない。そう簡単に出会える相手ではないってことだろう。

「グル!」

「何か来る……!」

『かなり魔力が強いぞ!』

だが、マンティコアの気配はなくとも、違う気配がこちらに向かってきていた。かなりの速度だ。しかもその魔力の大きさは、マンティコアに劣るものではなかった。

しかも、その後ろからさらに1体。多分仲間なのだろう。魔獣であるのであれば、番なのかもしれない。

『いざとなったら転移で逃げる』

「ん」

油断なく俺を構え、謎の気配を待ち構えるフラン。だが、現れた気配の主は、俺たちの想像を超える相手であった。

「あー! 我の獲物がー!」

茂みの向こうから飛び出してきたのは、フランよりも少しだけ年上にしか見えない、少女だったのだ。

美少女だな。うん、美少女だ。大事なことは2回言わないといけないらしいので、2回言っておいた。

髪は軽くカールしたベリーショートだ。横がやや短く縦に太い眉は、遠目からだと公家眉っぽく見えなくもない。やや広めのおでこも少女のスポーティな魅力を引き立てていた。しかも白髪白耳だ。肌も雪のように白い。

そんな白い顔のパーツの中で、真っ赤な目だけが強烈な存在感を放っていた。ただ大きくて赤いだけではない。その瞳には少女の勝気さがそのまま宿っていた。その力強さが、人の目をより惹きつけるのだ。

だが、白い少女とは相反して、装備は全身が黒で統一されていた。黒金地に金の装飾が施され、高貴さと威圧感、両方を供えている金属鎧だ。こんな子供が装備するにはごつ過ぎる気もしたが、少女には不思議と似合っていた。

種族は分からない。鑑定をしなかったわけじゃないよ? この場面で遠慮する理由が無い。だが、鑑定できなかったのだ。本人のスキルかアイテムの効果かは分からなかったが、俺の天眼さえも弾く強力な鑑定遮断で身を守っているらしい。

まあ、俺もこの世界に来てからそれなりに獣人も見て来たし、猫系の獣人と言う事は分かった。多分、白猫族って奴だろう。

『フラン、相手は鑑定遮断を持っている。ただ、見た感じ白猫族か?』

(白猫族なんて存在しない)

『は? まじか?』

(ん。同じ猫系ならさすがに知ってる)

『そりゃそうか』

てことは、何者だ? 猫じゃない? でも、あの耳と尻尾は、確実に猫だと思うんだが……。もしくは、白豹とか、白虎とか、そう言う種族か?

(でも、進化してるのはわかる)

『まじか?』

(ん。種族までは分からない……。不思議、何族か分からない)

鑑定遮断だけじゃなくて、種族を隠す様な能力があるのか?

俺が悩んでいると、少女がつかつかと歩いてきた。凄まじい敵意を感じるが、殺意はない。なので、とりあえず様子を見ることにした。ただ、それ以上は近寄らせんが。

「そこで止まって」

「……分かっておる」

少女は驚くほど素直に、言われた場所で立ち止まった。いや、向こうもこちらの間合いに入るつもりはなかったってことか。

それで分かった。この少女、相当な実力者だ。フランの強さを一目で見抜き、自分の安全を確保できる距離を瞬時に見極めた。

フランを見て目を見開いているな。こちらの正体を見極めたからなのか? 単に進化した黒猫族を見たからなのか、反応からは判別することはできない。

さて、何者なのか。ただ、問いかけるのは少し待とう。

「近づいてくるのは、そっちの仲間?」

「うむ。そうだ」

少女が言った瞬間、その後ろの茂みから新たな人影が姿を現す。

「お嬢様。早過ぎます」

その人物を目にした瞬間、俺は脳天から突き抜ける様な衝撃を受けていた。ぶっちゃけ、先日リヴァイアサンと遭遇した時並だ。

俺は、思わず呟かずにはいられなかった。

『メイド……だと?』