軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

262 グレイシール

リヴァイアサンに遭遇して、死を覚悟した2日後。

「よーし、錨を下ろせ!」

「あいさー!」

「誰か代官所に行って人を呼んできてください。他国との国交に関する重大な用件だと」

「わかりやした副船長!」

アルギエバ号は無事にクローム大陸に辿りついていた。入港したのは、獣人国のグレイシールと言う港町である。

バルボラ程ではないが、かなり大きな町のようだ。港も、バルボラより一回り小さい程度だろう。

冒険者たちは特別報酬をもらって、すでに船を下りている。道中での実入りはあまり多くはなかったが、ミドガルズオルムなどの様な凶悪な魔獣との戦闘も考慮され、多少色を付けてくれたらしい。フランは10万ゴルド程の報酬を受け取っていた。

今は船の前で、駆け出し3人組と別れの挨拶を済ませている。

「先生、ありがとうございました」

「ためになりました」

「次にお会いする時には、もっと成長した姿をお見せできるように精進します!」

「ん」

「さようなら!」

「あざした!」

「失礼します」

たった数日間の弟子だったが、それでも彼らにとっては有意義だったと思う。フランにとっても良い暇つぶしだったしね。だが、フランが彼らを弟子と認識しているかは微妙だな。別れ際も寂しさは全く感じさせないし。彼らも名前を憶えてはもらえなかったか?

『フラン、俺たちも行くか』

「ちょっと待って? ミゲール、ナリア、リディック」

「え?」

「初めて先生に名前を呼ばれたわよ?」

「み、認められたのか?」

「またね?」

「「「はい!」」」

彼らの答えに満足したのか、フランは背を見せて歩き出した。もう振り返る気配はない。

『フラン、覚えてたんだな』

(ん。弟子だから)

なんか、フランのちょっとした成長が見れた気がして嬉しいぞ。それに良かったなルーキーズ。一方通行じゃなかったみたいだぞ。

3人組との別れを済ませたフランは、ギルドに向かって歩いていた。ギルドに行けば、通常の護衛報酬が受け取れるのだ。ただ、場所を知らないのでモルドレッドたちに案内してもらっている。

「あそこだ」

「おっきい」

「それなりに大きな港町だからな」

グレイシールの冒険者ギルドは港から少し歩いた場所にあった。建物はかなり大きいな。どうやら、船舶の護衛依頼の冒険者がかなり多いらしく、それなりに力があるギルドの様だ。

中に入ると酒場が併設されており、結構な数の冒険者がたむろしていた。入って来たフランを見てよくないことを考えた者もいた様だが、その後ろから現れたモルドレッドを見てすぐに目を逸らした。

ランクB冒険者のモルドレッドは、このギルドでも有名人なんだろう。彼の連れに手を出す馬鹿はいないようだ。

子供で黒猫族で可愛いという事で、何人かは叩きのめす覚悟はしていたんだが、このギルドでは心配なさそうかな?

だが、ザワザワしている冒険者たちの間を抜けて近づいて来る男がいた。ニヤニヤとした笑みを浮かべる男が、からかう様な口調で声をかけてくる。

無精ひげの中年男だ。冒険者にしては少し細めかな?

やはり馬鹿はいるもんだ――などと思ったが、どうも違うらしい。

「おいおい、モルドレッドさん。どこでこんな腕の良さげな少女を見つけて来たんだ? まるであんたたちが引き連れられてるみたいだぞ?」

「リロイか。なに、たまたま同じ船の護衛をしていただけだ。この町が初めてだというので、案内して来た」

「へえ。俺はリロイ。この辺で活動している冒険者だ」

「ランクはDだが、記憶力が良くてな。地図要らずなのでこの辺で活動する時に、よく助っ人を頼んでいるんだ」

モルドレッドが助っ人に雇うくらいだから、外見のチャラさとは裏腹に信頼できる冒険者なんだろう。

「ん。ランクC冒険者のフラン」

「その年でランクCか! かなり強いとは思ったが、そりゃあすげえ」

フランの自己紹介を聞いてリロイは目を見開いて驚いている。だが、モルドレッドは苦笑いだ。つい先日もランク詐欺だと言っていたし、フランの実力がランクC相当だと信じ込んでしまったリロイに対して、哀れみの視線を向けてもいた。

「フラン、その自己紹介は止めた方が良いんじゃないか?」

「なんで? 嘘言ってない」

「まあ、そうなんだが……。自分が黒雷姫だとせめて名乗ったらどうだ?」

「何? この嬢ちゃんが噂の黒雷姫なのか?」

「ああ、そうだ」

「じゃあ、俺なんかよりも断然強いじゃないか! ランクCって言われたから、てっきりちょい格上くらいかと……」

黒雷姫の噂は、商人によってグレイシールの町にまで広げられていたらしい。モルドレッドが言いたいことも分かる。実際、リロイはすぐにフランの正体に気づいたしな。確かに黒雷姫と名乗れば、一発で実力があると分かってもらえるし、侮りも払拭できるだろう。

だが、その名乗りは大きな危険を孕んでいるのだ。何をって? もし知られていなかったら? フランが自分から異名を名乗る、自称異名持ちに思われてしまうのだ! 俺が馬鹿にされるのは良いけど、フランが馬鹿にされるのは我慢ならない。

なので、しばらくはランクC冒険者と名乗ることになると思う。

「まじかよ!」

「あれが黒雷姫殿だと?」

「黒雷姫様が居るの? どこ?」

「ええー!」

「ちょ、本当かよ!」

冒険者全体に黒雷姫の名前は広がっているらしく、酒場中の冒険者たちが騒ぎ出した。中には立ち上がってフランを凝視する者や、モルドレッドの圧力に負けずに近寄って来るものまでいる。

バルボラでもここまで大きな反応は無かったんじゃないか? よく見ると獣人の冒険者が9割以上を占めており、俺の想像以上に黒雷姫への関心が高いようだった。

何せ、進化できない最弱種族と言われていた黒猫族なのに進化を成し遂げたのだ。しかも獣人国では知らない者はいない英雄であるゴドダルファに勝利している。

「あの少女が、本当にゴドダルファ様に勝利したのか?」

「そういう話だ。そもそも、王宮商人が話していた話だぞ? 嘘なわけないだろう」

「だったらゴドダルファ様が勝ちを譲ってやったんだろ?」

「ああ、なるほどな。花を持たせたのか」

「いやいや、あのゴドダルファ様だぞ?」

「そうだよ。あんな子供にわざと負けて、自分の名前に傷をつけるわけないだろ?」

「そうじゃなくて、あの人が戦いで手を抜くわけないだろ?」

「そうだそうだ。模擬戦ならともかく、本気の大会だぞ?」

冒険者のヒソヒソ話を聞いてみると、ゴドダルファが手加減して勝ちを譲ったと言う意見も多い様だ。実際に見ないと信じられないだろうし、そこは仕方ないけどね。

クエスト完了の手続き中も入れ代わり立ち代わり冒険者がやって来ては、遠巻きにフランを観察していった。

「本当に進化してるぞ?」

「ああ、まじだな」

「どうやったんだ?」

「そう言えば、商人が邪人を倒すとか話してたな? 眉唾だと思って聞き流しちまったが」

実は、進化隠蔽はすでに外している。ここからは黒猫族が進化できるという事実を広めていくつもりだからだ。

獣王から獣人国の貴族や商人に進化の条件が少しずつ広まっているらしいな。フランが進化していると言う事を見せつければ、より早く事実が広まってくれるだろう。

報酬を受け取ってギルドを出る時も、数十の視線がフランの事を追っていた。

『とりあえず宿を取るか。王都への行き方も調べなきゃならんし』

(ん)