軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222 セルディオの裏

セルディオの死体はギルドの職員に回収され、その従者たちは地下牢へと連行されていった。

俺たちはディアスに連れられてギルド内に通される。一応、子爵殿殺害の参考人から事情を聴取するっていう体なんだけどな。

ギルド職員のお姉さんがお茶を持ってきてくれた。

「いやー! よくやってくれた!」

ギルドマスターの執務室に入ると、ディアスが手放しで褒めてくれた。フランの手を取って、頭を下げてくる。

「本当にありがとう!」

「そんなに嬉しいの?」

「奴らは正にクランゼル冒険者ギルドの病巣だったのさ! それを取り除いてくれたんだ! 頭も下げるさ!」

病巣とは、セルディオ嫌われてるねー。

「君たちは、彼を鑑定して見たかい?」

『したぜ』

「じゃあ、ランクAの割には、弱いとは思わなかったかな?」

それは思った。せいぜいランクB程度の実力しかないんじゃないかと。

ただ、フランがランクBに上がれなかったのとは逆の理由で、弱くとも功績が大きければランクAになることもあるんじゃないか?

だが、それはないらしい。

「ランクA以上は英雄と呼ばれる領域だ。絶対的な力が求められる。その上で、功績を重ねたものだけが到達できるランクなんだよ」

つまり、どんな大きな功績があろうとも、ランクAに相応しい戦闘力が無ければ認められないという事か。だったら、なんであいつがランクAだったんだ?

「そこなのさ。あの狂人が何故ランクAだったのか?」

『ランクA冒険者になるには、審査みたいなのがあるんだろ? どうやってそれを通り抜けたんだ?』

「そうだね。まずはランクA冒険者になるために必要な物が幾つかある。ランクAに相応しい功績、ランクAに相応しい強さ、冒険者ギルドへの貢献、そして各支部にいるギルドマスター15人以上の賛成。それらがあって、初めてランクAになれるのさ」

なかなか難しそうだな。特にギルドマスター15人以上の賛成とか、絶対に集まりそうもないんだが?

「普通はね……。そこで奴のスキルが問題になるのさ」

「スキル?」

「ああ、君たちはこの国に女性のギルドマスターが何人いるか知っているかな?」

その言葉で分かった。

『異性好感、異性誘引、あとは女殺しの称号あたりか』

「そう。7人の女性ギルドマスターが毒牙にかけられた」

異性好感は異性からの好感を得やすくなり、異性誘引は異性の興味を引き付ける効果があるスキルらしい。

そして女殺しの称号は、所持者へ僅かでも好意を抱いた女性が、強力な魅了をかけられてしまうという効果がある。

「奴に薄っぺらな愛を囁かれて、コロッと行っちゃったらしいよ?」

『それで、ランクAと認めちゃったのか?』

「まあ、貢物感覚だったらしいね。40も年下の若造に入れあげちゃって、ギルドを傾けた婆様もいたし」

それはまた……。でも、7人じゃ過半数にも届いてないぞ?

「あとは、実家からの圧力、膨大な賄賂、ランクAになってからの便宜と、色々な方法を使って票をかき集めたのさ」

「ギルドだいじょうぶ?」

『心配になってくるんだが?』

「そこは申し訳ないとしか言えないね。ギルドマスターもやはり人の子だし、中にはクズも混じってしまうのさ」

『分からんでもないが……』

地球だって、政治家や警察官が罪を犯すこともある。それと同じってことだろう。

「ただ、セルディオの昇格を認めたギルドマスターの中で、まだ残っている者は3名しかいない。僕らだって、ただ手をこまねいて見ているだけじゃないのさ」

『なのに、セルディオはランクAのままだったのか?』

「残念だがランクAになればギルドマスターでさえ、おいそれと手が出せなくなる。発言権も増すし、個々に大きな裁量が与えられているからね。それに一度認めた昇格を取り消すのは、ギルドの沽券に係わると言う者もいるのさ」

前例とか、そういうのを気にするタイプの人間もいそうだしな。

「だからこそ、奴らを見張って、不祥事を起こすのを待っていたんだ。残念ながら、彼を追い落とせるようなネタは上がらなかったみたいだけど」

『でも、カツアゲとか日常的にやってたみたいじゃないか?』

「今回は相手が悪かったけど、普段なら合法なのさ。多少無理はしているが、キチンと金は渡すし、その後冒険者からの告発などもない」

『え? なんで? みんな武器を取られても泣き寝入りなのか?』

「そりゃあ君たちは強いし。権力者だと? ばっちこーい! って感じだけどね。普通のランクC以下の冒険者が、ランクA冒険者で子爵で、背後に侯爵の影がある、悪い噂が絶えないような危険な相手に、面と向かって歯向かえると思うかい?」

まあ、そりゃそうか。下手したら命の危機だし。武器を奪われたくらいで良かったと思っちゃうのかもな。

「それと厄介なのが、あの子爵が完全に壊されてるという点だね」

「壊されてる?」

『それの何が厄介なんだ?』

「罪人の罪を暴くのに使う魔道具があるんだが、罪を犯したという意識が無いと反応しないんだ」

なるほど。その魔道具はセルディオに反応しないだろうな。奴は自分の行いが本気で正義だと思っていたのだ。

『称号に魔薬常用者っていうのがあったが?』

やばい薬なんじゃないのか?

「魔薬は少量なら治療に使われることもあるから、それを使用しているからと言って単純に罪には問えないんだよ。それに、お貴族様の中には快楽目的で使ってるおバカ様も多いからさ。いちいち罪に問えないって感じ?」

あー、魔薬を理由にセルディオを捕まえようとしたら、他の貴族も捕まえなきゃいけなくなるってことか。いろいろと横槍が入るだろうし。下手したら貴族との関係悪化もあるだろう。厄介なことだ。

「魔薬って何?」

「ああ、魔薬と言うのは非常に強い快楽を与えてくれる代わりに、人間の精神を壊してしまう恐ろしい薬さ。よく使われるのが、王宮や貴族の家だね。例えば権力者にこの薬を与えてまともな思考をできなくしておいて、傀儡にしてしまうと言う訳だ」

「なるほど。だから変だった?」

「そうだと思うよ。会話や思考能力は残しつつ、精神的には狂う様に、彼に与える量を調節して薬を飲ませていたんだと思う」

『そう言えば、従者たちの言葉に操られてる感じだったな』

「あの従者たちが、黒幕?」

「さて、どうだろうね。僕は背後にいるのはアシュトナー侯爵家だと思う」

『でもセルディオが不祥事を起こしたら、むしろ困るのはアシュトナー侯爵家なんじゃないか? ランクA冒険者のスキャンダルなんて、実家まで非難されそうだけど。魔薬を使って、人格を破壊したりするか?』

しかも自分の息子を薬で操るなんて真似、するのだろうか? メリットは何だ?

「理由の一つに、魔薬で壊される前のセルディオが、真性のクズだったってことがあるね。暴行、強姦、強盗の疑いだけでも10件はあったかな? 実家の権力と、篭絡していた女性ギルドマスターの権力でもみ消していたけどね。それでも彼を非難しようものなら――これさ」

ディアスが親指で首をかき斬るポーズをする。

『え? 暗殺?』

「ああ、侯爵家ともなれば、そういう暗部を持っているからね。だから魔薬で壊されてからの方が、一見するとマシに見えたくらいさ。話せば、完全に狂ってるって分かるけどね」

つまり、改心したように見せかけられるってことか?

「それにランクA冒険者を傀儡にできると言うのは、非常に大きいメリットだと思うよ? 普通は冒険者ギルドに対する命令権を持たない侯爵家が、セルディオを通じて冒険者に命令できるって言う事だからね。その戦力は計り知れない」

どんな嫌われ者でも、ランクAからの命令ともなれば、従う冒険者は多いってことだろう。

『それなら、魔薬漬けにしなくたって、セルディオに命令すればいいんじゃないか?』

「そのセルディオがあまりにも馬鹿すぎて、このままじゃランクAになることは不可能と判断したんだろう。それに、ランクAという地位を手に入れた後まで実家の命令に素直に従うとも思えない。だったら魔薬で操った方が手っ取り早いとは思わないかい?」

ドス黒い! 真っ黒だよ! やっぱり貴族の世界なんて関わるものじゃないな!

「そもそもセルディオは妾腹だ。アシュトナー侯爵にしてみれば駒の一つでしかないだろうね。むしろお家騒動の火種を厄介払いできたとも言える」

うーん、納得はできないが、理解はした。ただ、一つ疑問がある。

『あの従者たち、なんでカツアゲなんて真似をセルディオにさせてたんだ? 折角なれたランクA冒険者なんだし、むしろ大人しくさせておいた方が良いんじゃないか?』

その方が評判が落ちないし、冒険者ギルドに対する影響力だって増すだろう。

「それは僕も謎だね。ただ、噂では神剣を探しているらしいよ? 実際、彼は武器支配なんていうスキルも持っていたし、神剣探索にはうってつけの人材だと思うしね」

『いや、そこらでカツアゲをして、神剣が見つかるのかよ?』

「それを僕に言われてもね。彼らなりの理由があるんだろうけど……」

コンコン。

ディアスに話を聞いていたら、誰かが部屋の扉をノックした。ディアスが入る様に言うと、やってきたのは職員だった。

「ギルドマスター、こちらを」

「これは?」

「はい、セルディオが所持していた次元の指輪から出て来た品になります」

液体の入った小瓶と、何かの書類か?

「ふむ、これは魔薬みたいだね。動かぬ証拠だ。それと、こっちは……何だろう? 神剣の名前が書いてあるみたいだけど」

なぬ? それは興味あるぞ。フランに頼んでギルマスの持っている紙を覗き込める位置に移動してもらう。確かに神剣の名前が書いてある。中には外見の特徴まで書かれているじゃないか。

俺たちがルミナに見せてもらった一覧とは、載っている名前が少し違うな。こっちの方が新しいのだろうか?

「でも、この手のアイテムボックスには認証があったはずだけど、よく開けたね?」

「はい、その、エルザさんが締め上げたら、直ぐに開き方を口にしました」

「ちなみに、誰だい?」

「盗賊です」

「ああ、彼みたいな悪ぶった感じの男性は、エルザ君の好みのタイプっぽかったしね」

うおい! エルザってば、どんな聞き方をしたんだよ! いや、怖いから聞かないけどね! 職員さんのドン引きっぷりからも、かなり凄い聞き方だったのは確かみたいだ。

「はあーい、こんにちはフランちゃん!」

エルザに絶対逆らわないようにしようと決意していたら、ご本人の登場だ。妙にテカテカした顔をしているのは見なかったことにしよう。

「お疲れさまエルザ君。で、何か分かったかな?」

「ええ、色々とね。憔悴しまくってるから聞きやすかったわ。まさかユニークスキルである武器支配を持っているのに、剣の呪いが降りかかるなんて思ってもみなかったらしいわよ?」

だから従者たちもセルディオを止めなかったのか。と言うか、積極的に持たせた感じだ。

「やはりアシュトナー侯爵家の命令で動いているみたいよ? はっきりとは口を割らなかったけどね」

「彼らがフラン君から剣を奪おうとした理由は分かったかな?」

「それは分かったわよ」

「知りたい」

「しょうもない理由よ? 彼らは侯爵家から神剣の探索を命じられていたみたい。腐ってもランクA冒険者だし? ギルドの裏の情報まで知ることが出来る立場にいるしね。でも、セルディオってば壊れてたじゃない? そのせいで、魔剣ぽい物に凄く執着する様になっちゃったんだって。自分たちで壊しておいて、操りきれないんじゃお笑い草よね」

なるほど。神剣を探せという命令を受けたセルディオは、狂っていたせいで普通の魔剣などにまで手を伸ばし始めたってことか。たしかに笑うしかないな。