軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

216 前獣王

この武闘大会期間は、本当に得る物が多かった。

一番は、フランが進化できたことだろう。ここに来なければ、まだ進化の手掛かりさえ掴めていなかったはずだ。

そして、種族全体の呪いを解くための条件も分かり、他の黒猫族が進化する目が出てきた。フランにとってはこれが最大の収穫かも知れないな。

他には、命を気にせず強者と戦えたことも大きい。アマンダに負けたことは悔しいが、それ以上に敗戦で得た経験が貴重だ。おかげで自分たちの弱点、強み、新戦法等、様々な収穫があった。

要は命の懸かった本当に大事な戦いで、負けなければ良いのだ。

獣王との繋がりや、黒猫族の事情を聴けたことも収穫と言えるだろう。

俺的に重大なことは、フランの異名かな。黒雷姫なんていう格好良い異名を貰えたのは相当嬉しいのだ。

『おい、フラン! 寝るな!』

「む……寝てない、よ?」

『もうちょっとの我慢だから。ほら、フランの番だぞ』

「ん……」

『ご褒美が待ってるぞ!』

「ん。まだ食べたことのない新カレー」

『作ってやるから頑張れ!』

「えーっと、フランさん。黒猫族のフランさん! 壇上へお願いします」

『ほら、頑張れ』

「ん」

フランが壇上に上がると、ウルムットの領主だと言う貴族から勲章を授与される。この町の領主とか初めて見たな。

聞いた話だと、この町の運営は実質ディアスが行っており、領主はほぼお飾りなんだとか。出しゃばらないことでむしろ評価されているという。

勲章にはウルムットの紋章と、3位と言う文字が彫られている。賞金の10万Gは後日手渡されるらしい。

「素晴らしい試合であった」

「ん」

口調はいつも通りだが、宮廷作法で美しい礼を見せるフランに、どよめきが起きた。まあ、礼儀正しそうには見えんしな。

これは、礼儀正しく行動する様に俺が口を酸っぱくして言ったからだ。ここで無礼を働いたとか言われて、変に目を付けられたくはないからな。

3時間後。

俺たちは改めて獣王の下を訪ねていた。場所は獣王たちの泊っている宿だ。町一番の高級宿を、1フロア借切っていた。

宿の前に相当な数の獣人たちがたむろしている。

聞き耳を立ててみたら、獣人たちの会話を聞くことが出来た。

どうも獣王のご機嫌窺いに来た、獣人国の貴族やその従者たちらしい。だが獣王は面倒なことが嫌いなので門前払いなんだとか。

そんな扱いを受けても怒らないのは、最初から予想していたかららしい。国でも同じような態度みたいだからな。もしかしたら会えるかもしれないと、ダメ元で来たみたいだった。あとは、自分の国の王が居るのに無視したとあっては外聞も悪いので、一応形式上では面会には来たらしい。

そして獣人なだけあって、彼らは全員フランを知っていた。メチャクチャ注目されているからな。

中には声をかけて来ようとしたものもいたんだが、大型化中のウルシに睨まれ二の足を踏んでいた。その隙に獣人たちの間をすり抜け、宿に到着する。

今日は会ってもらえないかと思ったが、名前を名乗ったら普通に通してもらえた。フランが来たら取り次ぐよう、宿の人間に伝えていてくれたらしい。

「早速来たか」

「キアラの事を聞かせて」

「分かってるよ。まあ座れ」

「ん」

フランはロッシュが出してくれた紅茶を飲みつつ、獣王の話に耳を傾けた。

「まずは、前獣王。つまり俺の親父について少し語らせてもらう」

「わかった」

前獣王ヴェルサス・ナラシンハは、猜疑心が強く、家臣から悪い意味で恐れられる王であった。他の王族の力を借りてなんとか金火獅への進化は果たしたものの、戦闘の才能があまりなく、軍才にも乏しかった。

才能の低さと、強い猜疑心が故なのだろうか、彼は自分より強い者を怖れ、次々と排斥していった。

リグディスが王になる前に、獣人国の戦力が低下していたのは、王の馬鹿な行いのせいだろう。

そしてその被害妄想とも言える猜疑心の行き着いた先が、黒猫族への迫害である。実はヴェルサスが王になる前の王たちは、すでに黒猫族への興味など薄れており、ほとんど放置していたのだ。

だが、ヴェルサスは青猫族に命じて黒猫族の奴隷化を更に進めさせ、国外にいる黒猫族を監視する様に命じた。

なぜそんなことをさせたのかと言えば、いつか黒猫族が進化を果たし、自分の地位を脅かすのではないかと恐れたのだ。

「だが、親父は所詮器の小さい小心者だった。黒猫族を怖れながらも奴隷にするだけにとどめたのさ」

本当に恐れているなら、黒猫族を皆殺しにするのが手っ取り早いだろう。だが、ヴェルサスはそうしなかった。

神の怒りを買うのではないか? いくら何でも同じ獣人族を根絶やしにするなど許されるのか? もし生き残りが復讐に来たら? そんなことを考えて、殺すまでは思いきれなかったらしい。

「まあそのおかげでキアラばあさんは殺されなかったわけだが」

国外にいた青猫族が、キアラの事をヴェルサス王に報告した結果、彼はキアラを捕えて連れてくるように配下に命じた。

殺すのを躊躇ったと言うのが一番の理由であるが、それ以外にもキアラの使い道を考えたらしい。

1つが黒猫族に対する威圧だ。どれだけ強くとも、黒猫族如きが逆らうなど無駄だと見せつけたかったらしい。

もう1つが、黒猫族の実力者を従えていると言う他種族へのアピールである。獣王家の威厳を示したかったのだろう。

あとは獣王が以前に教えてくれた話とも被る話だった。

「他の黒猫族を人質に使われたキアラばあさんは獣王に従い、その奴隷となった」

その後、汚物処理施設で強制労働をさせられていたところに他国の召喚士の侵入騒ぎが起こり、獣王やゴドダルファ、ロイスなどと知り合った訳である。

長い間奴隷として働かされていたキアラだったが、本人の心は全然折れていなかったらしい。むしろ臭いを除けば、ダンジョンなどで戦うよりも断然楽で、そこまで辛いとも思っていなかったんだとか。

黒猫族はそもそも奴隷が多い種族なので、他種族に比べて辛いと感じるラインが普通よりも高いんだろう。

「キアラばあさんに出会った俺たちは、黒猫族の境遇に疑問を持った。そもそも、なぜ同じ獣人族がそこまで見下され、奴隷とされているのか……」

獣王たちはキアラの強さを知り、とても下等種族などとは思えなくなってもいたのだ。

そして獣王は過去の歴史を調べ、黒猫族の犯した罪と、現状を理解する。

その結果、彼は黒猫族の扱いが不当だと考えた。黒猫族は確かに罪を犯したが、奴隷にするのはお門違いだ。罪は罪としてすでに神によって裁かれているのだから。

むしろ現獣王家は黒猫族を助け、共に罪を償うべきだったのだ。

それを現獣王家が我欲によって台無しにした。過去の記録を破棄したという事を知り、リグディスは呆れたと言う。

そのせいで現在では獣王家にすら正確な進化の条件が伝わっていなかったのだ。フランが呪いを解く方法を教えたら、絶対に獣人国に広めると約束してくれた。

「まあ、親父のやり方にも嫌気が差していたしな。キアラばあさんの下で修行した仲間を連れて冒険者として力を付け、支持者を増やし、親父をぶち倒して王座を手に入れたって訳だ」

悪ぶっているリグディスは認めたくないだろうが、彼が父親殺しの汚名を着てまで王座を簒奪したのは、どう考えてもキアラの、黒猫族の為だろう。

「ありがとう」

その事を理解したフランは、深々と頭を下げた。

「よせよせ。自分の為にやったことだ。礼なんぞ言われたらむず痒いだけだ!」

「ん。わかった」

そう言いつつ、フランは頭を下げることを止めはしなかった。