軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

173 メンテナンス

ギルド酒場での一服を終えた俺たちは、オーレルの屋敷に向かう前にある場所を訪れていた。

ガルス爺さんの知り合いでもある、ドワーフの鍛冶師の店だ。

「おう、ガルスの知り合いの嬢ちゃんじゃねーか。どうした?」

「装備の修復を頼みたい」

これまでは黒猫シリーズの自己修復機能で何とかなってきたが、ボールバグ戦ではさすがに傷つきすぎた。まだ治りきっていないのだ。それに、この防具を受け取ってからメンテのようなものもしたことが無い。

武闘大会もあるし、その前に装備を万全の状態にしておこうかと思ったのだった。

「おう! このウルムット一の鍛冶師、ゼルドに任せとけ!」

ゼルドは黒猫シリーズを少しの間観察すると、魔法陣や魔晶石を準備し始める。あとは速かった。リペアの魔術で一瞬で補修されるわけだしね。

10万ゴルドもかかったけど、安全には代えられないのだ。

「これで完了だ。次は剣を見せてみろよ」

「ん?」

「いや、自動修復の付いてる防具がこれだけボロボロなんだ、剣だって相当のダメージがあるはずだぜ?」

まあ、普通に考えたらそう思うか。俺の場合は自己修復も再生もあるから、問題ないんだけどな。

だが、フランは背負っていた俺を抜くと、ゼルドに手渡してしまった。

「じゃあ、お願い」

『お、おい。フラン! 俺は大丈夫だって』

(でも、専門家に見てもらえるなら、その方が良い)

どうも、ゼルドの言葉を聞いて不安を覚えたらしい。フランには俺の状態を見極めるなんて難しいから、俺の自己申告を信じるしかないし。

『まあ、いいか』

フランが言う通り、専門家に見てもらうのは悪い事じゃないだろう。自分じゃ気づかない不具合とかあるかもしれないからな。

「ふむ、不思議な金属だな。どれどれ」

ゼルドが俺を色々な角度から観察すると、台の上に置き、小さなハンマーでコンコンと叩き始めた。

刀身に同じ間隔で響くハンマーの振動。だが、これが嫌ではない。職人が俺の為に真剣にやってくれているからかね? むしろ心地良いくらいだ。

次は水の入った箱に俺を突き入れると、軽く動かしたりしている。最後は綺麗な布でキュッキュッと磨き始めた。

いやー、これが気持ち良いんだ。思わず声が出かけた。だが、堪えたよ。ゼルドに俺が喋れることがばれるからとか、そんな事は些細な理由だ。だって、中身は30過ぎのおっさんが、筋肉ムキムキのおっさんに撫でられて喘ぎ声とか、死にたくなるだろう?

まあ、気持ちいいと言っても性的な意味では全くなく、マッサージ的な意味での気持ちよいだし、別にかまわない気もするけどね。何となく意地になっている自分がいた。

だが、俺が歯を食いしばって耐えている雰囲気は、フランに伝わってしまったらしい。

(師匠、どうした?)

『い、いや。なんでもない』

(でも……なんか変)

心配そうなフランを安心させるため、理由を話してやる。うーん、下らない理由で心配させてしまった。

それにしても気持ちいい。普段だって、フランが汚れを取るために拭いたりしてくれるが、ここまで心地良いことはなかった。

多分、鍛冶スキルが影響してるんだろうな。フランとゼルドの差と言ったらそれくらいしか見当たらないし。素人と鍛冶師の差だろう。

「ほれ、終わったぞ。傷や歪みはなかったから、磨きしかしてないがな」

その磨きが凄かったのだ。こっちの世界に来てから、久々にリフレッシュできた。スーパー銭湯に半日居て、最後にマッサージを受けて帰って来た次の日の朝的な? とにかく爽快な気分だ。

元々の調子は100%だったが、今は120%の絶好調である。目に見えるステータスに変化はないが、気分的な問題だ。それに、魔力の流れや、スキルの発動がほんの少し良い気がする。気のせいか?

「ん。鍛冶師凄い」

「がははは、何だ急に」

フランもピカピカになった俺の刀身を見て、感嘆の声を上げている。やっぱり微妙に調子が良い気がするな。これからはもっと頻繁にメンテナンスを受けよう。決して、気持ちいいからじゃないぞ。いや、少しはあるが、俺の調子が良いってことは、それだけフランの力になれるってことだからな。

「じゃあ、また」

「おう! 武闘大会もあるし、メンテはバッチリにしておくに限るからな!」

色々あったが、時間自体はそれ程かからずに終わったので、余裕をもってオーレルの屋敷に向かえるな。

道中で買い食いしながら、丘の上の屋敷を目指す。

『さすがにダンジョンが2つもある町だ。露店で普通に魔獣肉を扱ってるぞ』

バルボラでさえ、魔獣肉は高級品だったのに。普通の豚串焼き感覚で、魔獣肉の串焼きが売られていた。それも複数種類だ。

「ん。おいしい」

「オン」

どうやら初心者向けの西のダンジョンでは、食用に適した魔獣が多いらしい。これもダンジョンマスターとの交渉の結果なのだろうか?

フランとウルシは片っ端から露店の食べ物を買っていく。だが、よくある様な買い過ぎて両腕が塞がると言う光景にはならなかった。買った瞬間に胃の中に消えていくからね。

商業区画を抜けると、オーレルの屋敷は目の前だった。

『なんか人だかりができてるな』

「ん。人いっぱい」

「オン」

俺たちの視線の先。オーレルの屋敷の門の前には、10数人程の人垣ができていた。