軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑章三 孤島へ 14

邪神の眷属から力を与えられた男は、かなり強そうだ。

獣のような身体能力に、邪術士としての高い腕前。しかも、接しているだけで相手の精神を削るレベルの強烈な邪気を放っている。

脅威度で言えばC。邪気の厄介さも考えればB級はあるかもしれない。

だが、相手が悪すぎた。

「貴様は殺した後に、尊き御方に捧げてくれる!」

「その腕前じゃ無理だね!」

男が上段から振り下ろした大剣をあえて回避せず、オウナはスキル全開で正面から弾いて見せた。まさか老婆に力で負けるとは思わなかったのか、男は驚愕の表情を浮かべている。

「この……なぜ貴様のような婆に、これほどの力が……!」

「はは! 努力のお陰だ! お前のように、他人に力を与えられただけで超越者気取りのカスには分からんだろうがな!」

「ならこれだ! 狂え!」

「ふん。この程度の邪気、効かんよ」

「な、なぜ……!」

男が得意顔で放った濃密な邪気も、霧を吹きつけられた程度にしか感じていないのだ。

男は相手の力を推し量るような能力が低いらしい。実力が分かっていれば、フランとオウナに殺し合いを挑むような真似はしなかっただろうに。

男が対峙しているのは、竜とすら正面から殺し合えるステータスに、俺たちと伍する剣の腕前を持った超越者クラスの剣士である。いや、本職は鍛冶師みたいだけどさ。

オウナほどの強さがあれば、かなり強い邪気でも耐えられるだろう。

「では遠距離から嬲り殺してくれる! 尊き御方の力によって使えるようになった高位の邪術を見ろ! イビル・ファミリア!」

(あれ! リンフォードが使ってた!)

『ああ。威力は低いが、同じ術だ』

20個ほど生み出され、全方位からオウナに襲い掛かる邪気の弾丸。邪神人化したリンフォードが使っていた術には威力も数も大きく劣るが、これが本来の姿なんだろう。

威力よりも、回避しづらさを重視した術だ。全ての弾丸が違う軌道、違う速度でオウナを狙っている。

だが、オウナはそれも完璧に防いでいた。目に見えぬほどの速度で妖刀を振るい、ひと呼吸で全部の邪気弾を切り裂いたのだ。

「ばかなぁぁ!」

今日何度目か分からない、男の悲鳴が響き渡る。

対するオウナは楽しげな表情だ。

「邪術か、ならこれでどうだ? 模せ、『猿真似』!」

また新たな刀だな。全体的に白っぽい短刀だ。オウナが軽く突き出すと、なんとその刀身から邪気の弾丸が放たれた。その数は5つ。間違いなく、イビル・ファミリアだった。

「な……! ぐぁはぁ!」

「邪人でも、邪術でダメージを食らうんだな」

「き、貴様がなぜ邪術を……!」

「この刀の力さ。周囲で30秒以内に使われた魔術を模倣して放つ。まあ、効力半減、消費三倍だがな」

相手の術を劣化コピーできるってことか。消費魔力が三倍とは言え、邪術まで再現できるのは凄いんじゃないか? 魔力で邪気を再現してるってことだし。

「正直失敗作なんだが、相手をおちょくりたい場合にはピッタリだろ? 尊き御方の力とやらをあっさりと真似された気分はどうだ? むかつくだろ?」

「ふ、ふざけるなぁぁぁ!」

「ははははは! ふざけていないさ! 心底真面目に、お前をからかっているだけだ!」

オウナ、いい性格してるな。敵には容赦ないタイプだ。

「そろそろ終わらせるぞ」

オウナが千本腕を上段に構えた。ゾッとするほどに、様になっている。

「死ね。『散華』!」

「!」

オウナが神速の踏み込みから、男を袈裟斬りにした。あまりにも速過ぎて、全く反応できていないな。

斬撃の瞬間、オウナの全身から魔力が立ち昇り、離れた場所にいる俺たちまでビリビリという振動を感じた。

凄まじく濃密な魔力だ。恐ろしいのは、この量の魔力を一瞬で練り上げたことだろう。戦闘中、オウナはこのレベルの魔力をいつでも生み出し、強力な武技や魔術を放てるということなのである。

多分、魔力の扱いは覚醒中のフランよりも巧い。

「オウナ、すごい」

『ああ、あれはヤバいな』

強いとは思っていたが、想定を大きく上回る。冒険者ならランクAは確実だ。ただ強いだけではなく、巧いのである。

ただ、男はまだ死んでいなかった。さすがに邪神の眷属から力を与えられただけあり、ゴキブリ並みにしぶといのだ。

『!』

おっと、邪神の童心がオコだ。邪神とゴキを結びつけるようなことを考えたのがお気に召さなかったらしい。

『!』

すまんすまん。悪かったってば。黒い同士だからなんとなく重なっちゃっただけだって!

謝ったら、すぐに納得したように奥に引っ込んでいった。許してくれたらしい。しかし、邪神からも嫌われるゴキって……。

「くっそぉぉ! こうなれば、せめて貴様だけでも……! おおおぉぉ! イビル・リベンジィィ!」

「がふ……! こりゃぁ……」

「くは、はは! 自身のダメージを相手と共有する術よ! しかも、邪気たっぷりでなぁ! 普通には治らんぞ! 引き換えに自身の傷も治癒不可能となるが、構わん!」

最後に一矢報いやがった! 治癒不可になるってことはほぼ命と引き換えみたいな術だが、オウナ相手にも有効っていうのはヤバい性能だ。

オウナが、血を噴き出しながら片膝をつく。肩から腹にかけて深い傷が穿たれているのだ。早く治さねばと思ったが――。

「残念……。差し出せ『千本腕』」

「ば、かな……」

男の目の前で、オウナの体が高速で修復されていく。千本腕が光を放ったかと思うと、傷口が一瞬で盛り上がり、メリメリという音を立てながらくっついていくのだ。

あれだけの傷が消えるまで、1分もからなかった。男が言う通り、傷口には邪気がこびりついていたはずなんだが……。

「私は元々死にづらくてな。腕一本、半日もあれば元通りになるんだ。千本腕の能力とあわせれば、この程度の傷ではまず死なんよ」

「しょんな……」

高レベルの再生スキルでも持っているのかもしれない。しかも癒しの力を持った刀となれば、本当にしぶといだろう。

ランクA級の戦闘力に加え、この再生力。敵にとっては悪夢みたいな存在だな。