軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑章 フランとクーネ 12 終

町から10分ほど走った場所。綺麗に開けた荒野で、フランとクーネは向き合っていた。

「模擬戦、受けてくれて感謝するニャ」

「ん」

「フランに勝てないのは分かっているニャ。でも、だからといって笑ってそれを認められるほどニャーは利口じゃないのニャ」

本能ではフランの方が強いと理解していても、今まで培ってきたプライドがそれを邪魔している感じかね? いや、単純にフランの強さを直接見たいだけかもしれないな。

「黒猫族のクーネ、参るニャ」

「黒猫族のフラン、受けて立つ」

「ニャニャー!」

「はぁ!」

ルールの確認も始めの合図もなく、両者の模擬戦は唐突に始まった。初手で、互いの得物をぶつけ合う。

小手調べってところだが、力比べはフランの圧勝だった。レベルもスキルもフランが上なのだ。当然の結果である。

クーネは悔しそうにしながらも、冷静に距離を取った。表情は悔しそうだが、その目は輝いている。

自分たち黒猫族の可能性を目の当たりにして、心が沸きたっているのだろう。

いずれ自分もこの領域に。そう心に決めたことは間違いなさそうだ。

そして、クーネにはそう思って許されるだけの、実力と才能があった。

「ニャニャ! ニャー!」

「!」

見事な緩急からの、鋭い一撃。フランも少々驚いている。

ゆったりとした歩法でフランの周りを歩いていると思ったら、急激な加速で斬りかかってきたのだ。

ステータスの差でなんとか回避したが、同レベル帯であれば斬られていたかもしれない。それほど、彼女の動きは素晴らしかった。

速度以上に、加速までの動きの滑らかさが凄いのだ。コルベルトたちデミトリス流の面々が使う、入りの気配を消す無拍子の動きに近かった。

「今のを躱すニャんてニャ!」

「結構危なかった」

「なら、今度はこうだニャ!」

技巧と速度を合わせた攻撃の次は、直線的な攻撃が繰り出される。クーネの全力での一撃なのだろう。

走って近づき、全腕力を込めた斬撃をただ叩き付ける。荒々しいが、これはこれで悪くない選択肢だろう。

当たれば勝ちだし、これだけの威力と速さを込めた攻撃は受け流すことも難しい。回避を選んでも、バランスを崩すかもしれない。

まあ、普通の相手なら、だが。

「はっ!」

「ニャー? ニャニャ!」

クーネの繰り出した超高速の胴薙ぎを、フランは掬い上げるような動きであっさりと受け流し、横を通り過ぎていったクーネの背中に蹴りを叩き込んでいた。

本気の攻撃ではないが、受け流されてバランスを崩していたクーネは盛大に吹き飛ぶ。

何度か地面をバウンドしながらも、体を捻って着地するクーネ。蹴りに関しても衝撃を殺すことで、ダメージを最小限に抑えたようだ。

見た目は土塗れだが、ダメージはほとんどないだろう。それは、精神的にも同じだ。渾身の一撃を簡単に返されたのに、クーネは間違いなく笑っていた。

「す、すごいニャ! 今の動き、素晴らしいニャ!」

「ふふん」

「こんな相手と模擬戦できるだニャんて! ニャーは幸運だニャ!」

喜びが爆発している。だがそれと同時に、クーネの体から発せられる凄みも増していた。今までだって本気だったのだろうが、この手のタイプは精神状況で良くも悪くも動きが変わる。

模擬戦を楽しみ始めたことで、より集中力が増しているようだった。

「フランだったら、本気でいってもいいニャ?」

「ん。ほんきでくるといい」

「ニャハハハハ! いくニャァァァ!」

クーネの全身から、殺気が迸る。フランを憎くて殺そうというわけではない。格下の自分では、殺す気で行かねば勝負にならぬと理解したのだ。

「ニャフッ!」

今度はマジで驚いたぞ! 20メートルほど離れていたはずなのに、一瞬で前にいやがった。速度もだが、先ほど以上に加速の気配が読めなかった!

だが、その種は割れている。巨大魚ラージマウス戦で見せた、月光魔術による反射を利用した加速だ。

魔力の隠蔽がかなり上手く、発動した瞬間にようやく察知できたほどだった。これ、もっとレベルが上がって気配と魔力の隠蔽がさらに完璧になったら、俺たちでも無警戒で斬られる恐れがあるかもしれん。

今はその域ではないが、可能性は感じた。

「月光一閃ニャ!」

「それは見た」

「ニャニャ……!」

ラージマウスを仕留めた斬撃だ。フランはしっかりと憶えていた。完全に見切り、あえて紙一重で躱して見せる。

もっと凄い攻撃でなくては当たらないという、メッセージだ。

「ウニャ……ニャ! ニャらば、月光三段ニャ!」

「!」

その名の通り、物理反射盾を同時に展開し、超高速の三角跳びをしながら瞬時に三回斬るという大技である。

見切る目がなければ、斬られたことにも気づかず、命を散らすこととなるだろう。進化前の獣人の中に、これを見切れる戦士がどれほどいることか。

称賛の表情を浮かべるフランの前髪が、散る。しかし、それがクーネの限界であった。

魔力がガクンと減ったのだ。月光魔術の同時展開は、相当無理をしなくてはならないんだろう。これ以上の大技は出せそうもない以上、フランの勝ちは確定だ。

だが、フランは簡単な決着になることを善しとはしなかった。

「……覚醒。閃華迅雷」

「ニャ!」

「いくよ。クーネ」

「ニャハハハハ! 心の底から感謝するニャ! フラン!」

黒い雷を纏ったフランが超神速でクーネの背後に回り込み、黒雷をその体に叩き込んだ。振り返るクーネの顔には、複雑な表情が浮かんでいる。

全く反応できなかったことへの驚きと、本気を出しても全く届かないことへの悔しさと、進化への希望。色々な想いが一瞬で湧き上がったに違いない。

二人の黒猫族の視線が交錯し、クーネの意識は深い暗闇へと沈んでいくのであった。

「フラン。次会う時は、きっとニャーは進化してるニャ! その時は、また模擬戦をしてほしいニャ」

「望むところ」

「ニャーはやるニャ! やってやるのニャ! そして、最強になるんだニャァァ!」

「ん。負けない」

「ニャーこそ!」

クーネは強くなるだろう。フランの良いライバルになるかもしれない。それに、彼女がいれば、いずれ黒猫族全体に掛けられた呪いも……。

「師匠もウルシも、またニャ!」

『おう! あんま周りに迷惑かけんなよ』

「オン」

「ニャに言ってるニャ? ニャーは周りに迷惑かけるなんてしないニャ」

『……まあ、別にいいけど』

苦労するのは俺たちじゃないし。

「クーネ、ばいばい」

「フランも、またニャ!」