軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1298 Side ジャン・ドゥービー

Side ジャン・ドゥービー

「では、約定通りその身を捧げてもらうぞ? ユヴェル王、オルドナ殿」

「ふん。好きに使え」

「ま、どうせ放っておいても明日までもたないしね。有効利用しなきゃ勿体ないって」

「ふははは! さすが伝説の王たち! 豪気であるな!」

我の言葉にユヴェル王は肩を竦め、オルドナ殿は薄く笑みを浮かべている。そこには、我の術によって生贄の如く扱われる恐怖も、消滅する不安も感じられない。

さすが、過去の偉人であるな。

ユヴェル王たちに違和感を覚えたのは、出会ってすぐのことだった。死霊術士でなければ気付けない、微かな不自然さがあった。

彼の者はフラン君や師匠君に完全支配はされていなかったのだ。従順に振舞っている故、フラン君たちは気づいていないようだったがな。

そのことを問い質したのは、ネームレスを倒した後の移動中の馬車の中であった――。

「ユヴェル王、少しいいかね?」

「なんだ?」

不躾な我の言葉に、短く言葉を返す美丈夫。その顔はやや硬いだろう。我が何を訊くか、理解しているようだ。

「ネームレスを昇天させる際、その記憶が一部流れ込んできてな。そこには君に関しての記憶もあったのだよ。魔力的な繋がりがあることは分かっていたが、まさか同一人物であったとはな」

「……」

そう。ネームレスとこのユヴェル王は、同一人物と呼んでもいい関係性であった。ネームレスを生み出す際に、英雄王ユヴェルの遺骸が使われていたのだ。

ユヴェル王とネームレスの繋がりは深い。他の英雄ゾンビたちとは違い、ネームレスの命令であればいつでも師匠君の支配を上書きできたであろう。ユヴェル王の異母弟であるオルドナも、同様だ。

「裏切る機を、逸したのかね?」

「……違う」

「ふむ? ネームレスからは、どこかで横槍を入れるように言われていたのではないかね?」

「……その通りだ。だが、元からその命令に従う気はなかった」

ネームレスからは何度も、フラン君を暗殺するように命令が下されていたらしい。だが、彼はそれには従わなかった。同一人物であるからこそ、主従ではなく協力関係であったようだ。

「裏切りなどという下衆な行為、美しくはないだろう? それにだ、失ったとは言え子供の守護者の所持者だったのだ。子供を裏切るような真似はできん」

なんと、アマンダ君の代名詞たる子供の守護者を、ユヴェル王も持っていたわけか! ならば、フラン君を裏切らない理由としては十分だ。

「我らの力が欲しいのだろう? 協力してやる。その代わり、俺たちがネームレスと繋がっていたという話、主たちには黙っていてほしい」

「ふむ? まあ、それは構わぬが……。それだけでいいのかね?」

「ああ。子供の耳に入るのは、綺麗な英雄譚がいい。違うか?」

ユヴェル王は、純粋な目で言い放つ。これだから、子供の守護者という者たちは……。

「いいだろう。この話、フラン君たちには決してしない」

「交渉成立だ。ならば、俺とオルドナの身、好きに使え」

「えー? 俺も?」

「どうせすぐ消えるのだ。構わんだろ?」

「あーあ、横暴な主を持つと苦労するなぁ。一人で逝くのが寂しいなら、そう言えばいいのに」

「ふん。お前だけ残ったら、どんな話を吹聴されるか分からんからな」

「もう! 仕方ないなぁ! 死霊術士さん、僕のことも好きにしなよ」

それが、昨日のことだ。ユヴェル王たちはすでに消えかかっている。約束通り、その力を我が使わせてもらうとしよう。それが我のためでもあり、彼らのためでもあるのだ。

「では、ゆくぞ」

「了解。じゃ、先に逝くな? ユヴェル様」

「ああ、俺もすぐに追いかける。久しぶりの供、大義であったオルドナ」

「へいへい」

「忠誠深き死者よ。死してなお主を想う忠臣よ。その存在を捧げ、王の糧とせよ! 我、ジャン・ドゥービーとの約定により、明星の火種となれ! アンデッド・トランスファー!」

我が術により、オルドナ殿の存在が燃え上がる。仮初の存在とは言え、英雄だ。その力全てを燃やし尽くせば、得られる力は恐るべきものとなるだろう。

オルドナ殿から得た力が、ユヴェル王へと流れ込んでいく。

「古の王よ! 汝は、闇を統べる天空の明星の如く! 絶望打ち払う光明なり! 全ての力を燃やし尽くし、敵を滅ぼせ! アンデッド・オーバーリミット!」

「おぉぉぉ! 戻る! 全盛期の力が! これならば……!」

これが、ユヴェル王の真の力か! 想像以上だ! 我の生命力もゴッソリと持っていかれたが、それだけの価値があるな!

「構築……顕現せよ!」

神剣を使っている時の我が母にも似た、凄まじい力がその手に集っていく。こ、これ程の力で、何を……?

「今一度、我が手に! 水霊剣・クリスタロスよ!」

ユヴェル王の手に現れたのは、水の剣だ。それほど大きくもなく、強そうには見えない。しかし、圧倒的な力が放たれている。

我が国の至宝、神剣ネクロノミコンと同じ力だ。間違いなく、あの水の塊こそが神剣であった。

ユヴェル王が神剣使いだったとはな! しかも、過去に使っていたとはいえ、己の記憶を基に神剣を作り出したというのか?

自分たちを生み出した術式を応用したのだろうが……。フォールンド君の神剣模倣のような仮初の神剣ではあるが、それでもあり得ん所業だぞ!

ふはははは! これは、予想を遥かに超えていたな!

ネームレスの残した力だけでは足りぬ筈よ。いいだろう! 我が生命力も持っていくがよい。どうせ我の力では邪神の欠片に通用する攻撃は放てんからな!

無論、模倣された神剣は本家には遠く及ばぬが、一撃だけであれば――。

「一切を叩き潰せ! 圧海!」

ユヴェル王が天高く投げ放った水の剣が、爆発的に膨れ上がる。その姿はまるで水の龍が顕現したかのようだ。

大海魔術に水の大蛇を操る術があるが、あれとは大きさも存在感も桁違いである。そして、天高々と舞い上がった水龍が、今度は勢いよく大地目がけて落ちた。

邪神の悪心は龍に呑み込まれ、奴がいた場所には凄まじい高さの水の柱が噴き上がり続けている。

巨大な悪心が水によって叩き潰され、地面に完全にめり込んでしまうほどの圧力。それでいて、こちらには水一滴すら飛んでこない。

長い長い数秒が経ち、水が消え去る。残ったのは、深さ100メートルはあろうかという大穴と、その底で弱々しく蠢く邪神の悪心の姿であった。

「凄まじい……」

「ふん。本物の神剣があれば、完全に消滅させていたさ」

「ふむ。二撃目は無理そうであるな」

存在を保ち切れなくなり、ユヴェル王の体が透け始めている。本当に、一撃に全てを込めたのだ。

「ああ。最後に暴れてスッキリした。感謝しよう死霊術士。お前も下がった方がいいぞ? 死にかけだ」

「ふははは! 君が神剣を持ち出すとは思わなかったのだ。まあ、知っていたとしても、止めなかったがね。感謝するよ、ユヴェル王。安らかに眠りたまえ」

「ふん。さらばだ」

「うむ」

さて、体が重い。生命力どころか、寿命も持っていかれたか? まあ、いい。非力な我が他者の力を借りたとはいえ、寿命を削る程度のことで邪神に一矢報いたのだからな。大金星であるさ……。

ただ、フラン君たちには言えんな。気を遣わせる。ふふふ、我とてその程度の気遣いはできるのだよ!

だが、フラン君には秘密ばかり増えてしまうな。