軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1297 連続攻撃

フランたちがあと少しで邪神の欠片の下へと辿り着くというその時、チャリオットが再び動いた。

戦いながら溜めていた魔力を一気に放出し、邪神の火炎袋へと突進したのだ。低空タックルのように地面スレスレを飛んで、邪神の火炎袋に抱き着く。

そして、そのまま南側へと、邪神の火炎袋を押し込んでいった。これはかなり有難い。

なんせ、邪神の火炎袋は常時高温を発しており、攻撃のほぼ全てが火炎による広範囲攻撃なのだ。生身の人間が戦うには、厄介すぎる特性だった。

だが、チャリオットであれば別だ。

その頑丈な金属の体で、正面から火炎袋と戦うことができる。多分カレードもそれを理解しており、フランたちから火炎袋を引き離してくれたのだろう。

これで4体の邪神の欠片を上手く引き離せた。

北では邪神の涙腺に対し、デミトリス、ナイトハルト、北征騎士団、緋眼騎士団が。

西では、邪神の刃尾とフィリアース王国軍が。

南では邪神の火炎袋とチャリオットが。

そして、王城跡地には邪神の悪心が残され、そこにフランやマレフィセントが挑む形だ。邪神の欠片の巨体からすれば、数百メートルの距離は遠距離というほどではないが、連携は難しいだろう。

後は、各個撃破を狙うだけだ。

フランと並んで先頭を駆けるシビュラが、皆に聞こえるように作戦を叫ぶ。

「悔しいが! 私らの攻撃じゃチマチマやっても意味がない! デッカイ一撃をぶっ放すよ!」

「ん!」

ここにいる誰もが、シビュラの言葉に頷いている。邪神の欠片の強大さを目の当たりにして、牽制なんか意味がないと理解させられたんだろう。騎士団や悪魔たちのように数が揃っていれば別なんだがな……。

最初に動いたのは、フランだ。

(潜在能力解放も使って、本気の一撃!)

『ああ、そうだ――』

え? いやいや! 今俺は、頷こうとしたのか?

今の消耗しきったフランが潜在能力解放なんて使ったら、どうなるか分かり切っているだろ? それなのに、なんで頷こうとした。何の疑問も抱かず。

寒気がした。俺は、どうしてしまった? もしかして、剣化が進んでるのか?

剣化深度は――88%? ヤバイ、いつの間にか剣化が進んでしまっている! アナウンスさんは、なんで教えてくれなかった? さっき、無視したから怒ってるなんてことないだろ?

〈――が――てく――〉

アナウンスさん? なんか、電波が悪いラジオみたいになってるけど!

〈――〉

声が聞こえなくなっちまった! いや、今はフランが……!

(潜在――)

ダメだ! それだけは…… 潜在能力解放をスペリオル化する! アナウンスさん! 頼む!

「解放!」

〈――〉

またノイズだ。アナウンスさんの声が聞こえない。だが、間に合った。フランは潜在能力解放を使用できていない。スペリオル化され、俺専用のスキルになったのだ。

「なんで? 師匠?」

『すまん、フラン……ぐぅ……』

凄まじい痛みが……!

(師匠、どうしたの?)

『だいじょうぶ、だ。それよりも、こうげきするぞ!』

(……わかった)

軽く首を傾げるフランだったが、今は邪神の欠片と戦っている最中だ。すぐにその注意は恐るべき強敵へと向いた。

「いく!」

剣神化を発動したフランが、駆ける。その手に握られているのは、邪神気の剣。剣の神は、邪神気であっても制御できるらしい。

「はぁぁぁ! 黒雷神爪っ!」

剣神の放つ渾身の一撃に、黒雷と邪神気が乗った、俺たちが現状放てる最強の一撃だった。

『従えぇぇぇ!』

邪神の悪心が、邪気の乗った思念波を放ってくる。支配して攻撃を止めさせようというのだろうが、フランには通用しない。

ただ、俺はさらなる痛みに襲われていた。どうしちまったんだ……。だが、ここで集中を乱したら邪神気の制御が……!

『うおおぉぉぉ!』

「てやぁぁぁぁ!」

黒い軌跡を残したその斬撃は、邪神の悪心の表面に深い傷を刻み、目玉の付いた触手を2本斬り落としていた。

邪神の欠片の内包する邪気が、僅かに減ったのが分かる。俺たちの攻撃は、確かに届いたのだ。

フランも俺も相当消耗してしまったが、俺たちだけで戦っているわけではない。

未だ再生が完了していない邪神の悪心に、今度はウルシが突っ込んだ。

「ガアアアアァ!」

巨大化したウルシは、すでに邪神の欠片よりも大きいのだ。

全身全霊を込めた、神気すら纏った一噛みである。闇に包まれた巨大な牙は、邪神の悪心の触手と、その付け根を噛み千切っていた。

ボリボリと噛み砕かれ、咀嚼される悪心の触手と眼球。

消耗のせいで、巨大化すら維持できず元のサイズに戻ってしまうウルシ。邪神の欠片はすぐに再生を開始してしまうが、ウルシの攻撃は無駄ではなかった。

再生を行う為、邪神の悪心が動きを止めたのだ。

次に仕掛けたのは、シビュラだった。

「狙いをつけずに済むのは、ありがたいね! 私も続くよ! レッド・ソード起動! 因子活性!」

駆けるシビュラの肉体が、一気に姿を変えていく。筋肉どころか骨格そのものが肥大化し、肌を赤い鱗が覆っていく。身長は2メートルを優に超え、その体積は倍近くに増えたんじゃなかろうか?

顔面はほぼ人だが、こめかみや耳の周辺は完全に竜だ。額から後方に角が伸び、背の翼に、長い尻尾。瞳も爬虫類のようだ。

人だった部分は、顔と髪の毛くらいだろうか? この変身を見越して、鎧や靴はサイズ調整の魔術が掛かっているのだろう。弾け飛ぶようなことはなかった。

「オオオォォォォオォ!」

真っ赤な魔力を纏いながら、咆哮するシビュラ。その存在感は、圧倒的だった。武闘大会で使おうとしてやめた、彼女の奥の手がこれだったのだろう。

そんなシビュラは、赤い剣を自らの左手首に宛がうと勢いよく滑らせた。硬い鱗と剣が擦れ合い、ギャリギャリと音が鳴る。同時に、赤い血が噴き出していた。

ただの出血ではない。あり得ないほど、血に勢いがあるのだ。しかも、凄まじい力が内包されている。

フランに放ってきた血を操る術に似ているが、あの時よりも込められた魔力は上だった。

シビュラの周囲を衛星のように巡る赤い血の塊たち。

普通の人間であれば出血多量で死んでいるであろう量を遥かに超えた頃、シビュラが邪神の欠片を睨みつけながら叫んだ。

「うおおおぉぉぉぉ! いけぇ!」

シビュラの意思に従い、無数の血が踊る。

悪心は黒い炎を放って迎撃しようとするが、赤い星々は邪気に抗い、悪心に纏わり付き続ける。

「邪神の悪心だか何だか知らないが、今の私はそんなちんけな熱じゃどうにもできないよ! 親父とお袋のお陰で、再生力も火炎耐性も増してるからねぇ!」

近づきすぎたせいか、彼女の体が黒い炎の熱で焼かれ始める。だが、シビュラは何故か嬉しそうだ。

凄絶な笑みを浮かべていた。そして、渾身の奥義を繰り出す。

「ぶっとべぇぇ! ミリオン・ノヴァ!」

悪心を囲む血の星々が一斉に瞬き、閃光を放った。

音はない。しかし、神気の混じった凄まじい力が邪神の悪心を包み込んでいる。そう、シビュラの奥義には、紛れもなく神気が含まれていたのだ。

赤く美しい光が収まると、そこには全身に無数の小さなクレーターを穿たれた悪心の姿があった。

あの小さな光1つ1つが、邪気の鎧を貫通するだけの威力を秘めていたのだ。

相手が巨大すぎるため小さな傷に見えるが、人間であれば全身が消滅するほどの威力だろう。それが数百発だ。

オオオオオオオオォォォォォン!

邪神の悪心が悲鳴を上げながら、その高度を下げる。明らかに効いていた。

「次は我の番だな!」

ジャンが前に出るが、何故かユヴェルとオルドナが一緒だ。

「この身、全てを預けよう」

「死霊術士さん、せいぜい有効利用してくれよ!」

「ふははは! 骨の船に乗ったつもりで任せておけ!」

「……それは信用していいのか?」