軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1289 フランと少年王

「これ」

「これは……?」

「カレー。これ食べたら、元気出る」

フランが、収納から取り出したカレーを少年王に差し出している。

で、出会ったばかりの相手に、カレーを渡すだと……? 成長したなぁ! その優しさに震えるね!

「……食べ物か? 不思議な香りだ」

「ん。お腹が減ってたら戦えないから」

「そうか。ありがとう」

フランはどこかワクワクした顔をしている。

(王様が気に入ったら、カレーがレイドスに広まるかもしれない)

おっと、カレーの布教計画を発動中だったか! 打算ありきだった! 俺の感動を返してくれ!

い、いや、元気を出してほしいという気持ちも、嘘じゃないはずだ! きっと!

(カレードなら、きっとカレーの良さがわかるはず)

もしかして名前的に? フランが少年王に最初から好意的だったのって、名前が原因じゃないよね?

フランならあり得るんだけど……。

フランの目論見通り? カレードはカレーを頬張りながら、目を輝かせている。

無言のまま、両者の皿がほぼ同時に空になっていた。

ああ、フランは勿論カレーを食べたよ? カレードにあげたやつの3倍くらいの大盛りをね! 文句は出なかった。トッピングのからあげを分けてあげたからだろう。

ちょっと引いていた様子だったし、小食なのかもしれないな。

ただ、温かい食事を食べたからか、餌付け成功なのか、和んだ場の雰囲気が少年王の背中を押したらしい。

「食事で、こんなに満足できたのは久しぶりだ」

「ふふん。カレーは最強」

「僕は体の変異が進んでから、味覚が鈍って、あまり食べ物の味を感じなくなってしまったんだが……」

「!」

フランがガーンというSEが聞こえてきそうな表情で、慄いている。味を感じなくなるという症状が、フランには相当恐ろしかったのだろう。

下手したら、寿命が削られるよりもフラン的には恐ろしく感じているかもしれない。

「か、かわいそう」

フランのこんなに感情を込めた言葉、なかなか聞けないよ?

「もう慣れた。それに、余り空腹にもならないし……」

そのせいで、食事自体をほとんど摂らなくなってしまったらしい。だが、カレードは皿を見つめながら微笑む。

「これは、温かいし、刺激も香りも強い。とても、美味しかった」

「やっぱりカレーは最強」

フランがウンウンと頷く。

「……冒険者、なのだよな?」

カレードがポツリと、呟くように言った。その視線は、相変わらず下を向いている。

だが、これは確実にフランに向けられた言葉だろう。フランも、そう感じたらしい。

「ん。そう」

「……怖くはないのか?」

カレードは、出会ってからずっと見せていた王の顔ではなく、フランよりも幼い少年の顔をしていた。

ようやくこちらを向いた円らな瞳は、揺れ動く感情を表すように不安げに揺れている。潤んでいるようにも見えた。フワフワの紫髪と相まって、仔犬っぽいね。

「怖いの?」

「……正直言えば、怖い」

初めて聞く、少年王の心の底からの弱音だった。

「覚悟を決めたつもりだったが……。自分が死ぬことも、臣下の者たちが死ぬことも、怖いんだ」

カレードはそう言って、自らの体を撫でた。

「僕に流れ込むチャリオットの力が弱まっている。王すら縛っていた呪縛が、もう完全に消えている。こうやって神剣や邪神のことを話せるのも、そのせいだろう」

邪神について語ることができたのも、チャリオットの呪縛が弱まったおかげだったらしい。王ですら、他人へレイドスの秘密を語ることが禁じられていたんだろう。

「それだけ、邪神の封印に力を割かなくてはならなくなっているということだ。つまり、邪神の欠片の復活はもう間もなくだ」

「ん」

「……邪神の欠片なんて存在と、本当に戦うことができるのか?」

王となってからチャリオットを開放しっぱなしだっていう話だし、その力が弱まって気持ちも沈んでしまっているのかもしれない。

カレードの顔には、迷子の子供のような不安げな表情が浮かんでいる。

「私も、怖いことある」

「そうなのか?」

「ん。戦っていれば痛い思いもいっぱいする。もしかしたら負けるかもしれない。死ぬこともあるかも」

「そうだ」

「でも……」

フランはそこで言葉を切ると、少年を見つめた。

強い意志を秘めた瞳に、少年は一瞬気圧されたようだ。しかし、すぐにグッと力を込めて、見つめ返してくる。

フランの言葉を聞き逃すまいと、集中しているのが分かった。

「でも、私が私じゃなくなる方が、怖い」

「自分が自分じゃなくなる……」

「私は、奴隷だった。でも、もう私はフラン。名無しの奴隷じゃなくて、おとーさんとおかーさんの娘で、師匠の弟子のフランだから」

正直、答えになっていないと思う。フランも、自分がどうしてそんな話をしたのか、分かっていないだろう。自分の心の赴くままに、言葉を紡いでしまったのだ。

だが、カレードは何かを感じ取ったらしい。

「そう、か。そうなんだな」

「ん」

「ありがとう」

完全に迷いが晴れた顔で、コクリと頷いていた。