軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1287 王と宰相の覚悟

邪神の欠片の封印が解ける。もう間もなく。

宰相さんと王様は、どうするかね? 一緒に戦うわけにもいかないし……。いや、神剣使いなら、戦うように神様から命令されている? 無理をしたのは、そのせいもあるのかもしれない。

でも、今の状態じゃ戦えないよな? 現状での王様の戦闘力がどうなのか分からんけど、これ以上の機械化の進行は命に関わるだろう。

「赤騎士たちは、どうなっている?」

「今は、ローザが……ぐぅ!」

「フラン、治癒を頼む!」

「ん!」

宰相の生命力が急速に失われつつあった。回復魔術でも治らない。

「宰相! 気をしっかり持ちな!」

「もう、宰相ではないな……。宝具に、見捨てられた故に……」

「どういうことだい?」

宰相が、公爵や彼らだけが知っている、レイドスの秘事を教えてくれた。国の成り立ちや、神剣と宝具に関して。そして、宝具を下賜される際に結んだ契約のため、誰に対しても秘密を話せなかったこと。

契約を破ろうとすると、吐き気を催すほどの凄まじい忌避感とともに、耐えがたい苦痛に襲われるらしい。

それくらいでなくちゃ、長い間秘密が守られ続けるなんて無理だったんだろう。

ただ、現在は邪神の欠片を封じるために神剣の力のほとんどが使われているため、契約が弱まっているらしい。

そのおかげで宰相は呪縛を破り、俺たちに秘密を話すことができたようだった。だが、契約が消えたわけではない。

契約を破った反動は、確実に宰相の命を蝕んでいた。その命は、もう間もなく失われるだろう。

彼は自身の命を失ってでも、シビュラに後を託すことを選んだらしい。

「おい! 宰相!」

「シビュラよ……陛下を……カレード様を、頼む……」

宰相はシビュラの手を強く掴むと、叫ぶようにシビュラに懇願する。俺たちはヴィシュヌを使ったのだが、宰相を救うことはできなかった。

寿命はどうしようもないんだろう。そして、老人は息を引き取った。

シビュラが宰相の肩を掴むが、すぐに沈痛な顔でその手を離す。

「……フラン、陛下の状態は?」

「わかんない」

フランが暗い表情で、首を横にフルフルと振った。

宰相と同時にかけたヴィシュヌも効かないし、そもそもどうすれば良くなるかもわからん。神剣の代償なんだし、治らない可能性も高いだろう。神気を使って治癒を行っても、目覚める様子もなかった。

少年王をジャンの馬車の中に寝かせ、フランたちは外でこれからの行動を相談する。王都内は邪人に制圧されてしまっているということだが、突入するのかどうか。

邪神が復活するのはもう止められないだろう。ならば、敵の懐でもある王都で戦うのは避けた方がいい?

だが、俺たちの相談を遮るように、馬車の中から魔力が迸った。直後、馬車の隣の地面に巨大な魔法陣が出現する。

すると、その中から一体の巨人がせり上がるように姿を現したではないか。

従機だ。ただ、細部の意匠の豪華さといい、放つ存在感といい、今まで見たどの従機よりも強そうだった。

驚く俺たちの前で、ロボはその両腕を馬車に伸ばす。

「ちょ、我の馬車が!」

「それよりも陛下だろうが!」

騒ぐ俺たちの前で、銀色の巨大な腕が馬車の屋根を突き破った。そして、引き抜かれた腕には幼きレイドス王が握られている。

ただ、襲われたという風ではない。なんせ、彼は目を覚ましているようなのに、抵抗する素振りが全くないのだ。

「陛下ぁ! これは、どういう……!」

「そこにいるのはシビュラとマドレッドか? いったい、どうなって……」

どうやら、少年王は事態が全く呑み込めていない。多分、死霊馬車の邪悪な内装を見て、咄嗟に従機を召喚したらしい。

まあ、仕方ないよなぁ。俺だって、あの馬車の中で目覚めたら、パニックになる自信があるのだ。

「ここは――ローザ! ローザたちが危ない!」

「陛下! お待ちください! 戦うのは危険です! 宰相に聞きました! これ以上は、陛下のお体がもたないと! 我らにお任せください! 手遅れになる前に!」

シビュラは必死に叫ぶ。少年に対する忠誠心みたいなものは、あまり感じられない。まあ、王様になったばかりみたいだし、シビュラは民寄りの人間だしな。

だが、死にかけている子供が無理をして戦場に出ようとしている姿を見て、止めずにはいられないんだろう。

そんなシビュラの言葉を聞いた少年王は、自身の機械の体をそっと撫でる。金属の皮膚には、パイプや管が這い、冷たく硬い感触を少年の指に返しているだろう。しかし、彼は静かに笑った。

「……手遅れか。別に構わない」

少年王が毅然とした表情でシビュラを見つめる。その顔には、強い覚悟が見て取れた。

「僕は、王だ。短期間しか教育も受けていない、紛い物ではあるが……。それでも、王なんだ。王になると、自分で決めたんだ。臣下に全てを押しつけて、逃げるわけにはいかない。ましてや、僕には戦うための力がある」

そう告げる少年王に、シビュラが何も言い返せなかった。覇気があるとか、威圧感があるというわけじゃない。

しかし、少年は確かに王であり、その覚悟は臣下たるシビュラを圧倒する何かがあった。

子供なんだから、誰も忠誠を誓っていないのだから、死にかけているのだから。逃げるための言い訳なんてごまんとある。

しかし、少年は、王であるという矜持のみで、死地に向かおうとしていた。今まで見たレイドス人の中で、最も気高く見える。これこそが、チャリオットに選ばれる理由なのか?

チャリオットに決められたから王なのではなく、王だからこそ神剣に選ばれるのだ。

それでも、子供であることに間違いはなかった。大人なら、ここで止めなくちゃいけないのかもしれない。だが、シビュラとマドレッドは、流れるようにその場で膝をついた。

彼らの中に眠るレイドス人としての血や魂が、王の言葉に瞬時に反応したかのように。

「お供します」

「共に」

すると、フランも一歩前に出て、声をあげた。

「私も」

『フラン?』

(……私も、手伝う)

今日初めて出会った、レイドス王国の少年王。しかし、フランは彼の覚悟を見て、不思議な共感みたいなものを覚えたらしい。俺やアマンダが止める間もなかった。

フランと少年王が見つめ合う。彼はフランを知らないようだ。しかし、子供っぽく不敵に笑うと、楽しげに笑う。

「どこの誰かは分からないが、ありがたい! 名前は?」

「フラン」

「僕はカレード。この国の王だ。付いてまいれ!」

「ん!」

少年王カレードがロボの腕を伝ってコックピットに乗り込む。

「この先の出城で、赤騎士たちが危機を迎えている! 救援に向かうぞ!」

駆け出すロボの後を追い、一行も走り出す。アマンダたちは未だに事態を呑み込みきれていないようだが、とりあえずはフランの考えに従ってくれるようだ。

後を追いながらロボを観察する。やはり、今まで見たどの従機よりも内包する魔力が強かった。シビュラ曰く、王専用の戦機と呼ばれるらしかった。神剣使い専用ってことなんだろう。

足元のローラーを使い、林の中を滑るように進んでいく戦機。その向かう先には、砦のようなものが見えた。あれが、彼の言っていた出城であるらしい。

赤い鎧を着た騎士たちが、出城の外で邪人たちと戦っている。内部からも邪人の気配がしており、邪人が出城を制圧しつつあるんだろう。

「私たちが、赤騎士の援護に入る! フランは陛下を追ってくれ!」

「わかった!」

混乱している様子の赤騎士たちだが、シビュラとマドレッドが姿を見せたことで少なくない歓声を上げる。

どうやら、幾つもの赤騎士団の寄せ集め部隊であるようだ。2人に声をかけている者もいた。あちらは、団長たちに任せよう。

『ウルシ! シビュラたちに協力して、邪人を減らせ!』

「オン!」

戦機は邪人たちに肩の銃口から攻撃を加えながら、赤騎士たちの横を通り抜けて出城の屋根に跳び上がった。

その動きには迷いがなく、内部の様子がしっかりと分かっているようだ。建物内をスキャンするような能力があるのかもしれない。

戦機が屋根に向かって拳を叩き付けると、ヒビが入る。すると、戦機はその部分に足を振り下ろし、屋根を踏み抜いて下へと消えていった。

俺たちも、慌てて後を追う。

『恐ろしく強い邪人が2体いるな』

(あれ、赤い霧使ってた赤騎士の団長!)

『ローザって女だ!』

少年王は彼女を助けるため、強硬手段に出たらしかった。

戦機が、左にいた邪人の上に落下しながら、その拳を叩き付けるのが見える。

『なら、俺たちは右のだ!』

「ん!」

全身が漆黒の邪気に覆われているためその姿は見えないが、多分オークの上位種なんだろう。邪気で数段パワーアップしており、脅威度はC以上ありそうだった。

上位邪人も、いきなり出現した戦機に気を取られたらしい。完全に、注意が逸れてしまっている。

そこに、フランが神速で襲い掛かった。

黒雷を棚引かせたフランの斬撃が、一瞬でオークの首を刈り取る。そして、フランが目を白黒させるローザに声をかけた。

「だいじょぶ?」